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切通理作メールマガジン「映画の友よ」から

『秋の理由』福間健二監督インタビュー

切通理作メールマガジン『映画の友よ』Vol.064に掲載された「『秋の理由』福間健二監督インタビュー」の再編集版をお届けします。

『秋の理由』チラシ (c)「秋の理由」製作委員会



「人は何によって生きるのか」を独自の感覚で問いつづける福間健二監督。新宿K's cinemaにて公開され、これから順次公開予定の最新作『秋の理由』についてインタビューさせていただきました。<インタビュー・構成 出澤由美子>

映画は自分のセクシュアリティがどう出るか

―過去4作品『急にたどりついてしまう』(1995)『岡山の娘』(2008)『わたしたちの夏』(2011)『あるいは佐々木ユキ』(2013)では、女性たちの生きる「いま」を軸にされていますが、最新作『秋の理由』では、なぜ60代の二人の男性を軸に描かれたのでしょうか?

福間 自分に近いものをもう少し出した方がいいのではないかと。村岡正夫(佐野和宏)も宮本守(伊藤洋三郎)も60代になり、人生まだ終わっていないよと奮闘する。この映画は『秋の理由』という僕の詩集がもとになっていますが、詩とは別に、映画は自分のセクシュアリティがどう出るかという部分がある。

『秋の理由』より。伊藤洋三郎、佐野和宏 (c)「秋の理由」製作委員会
 
男を描くけれど男だけではない。男同士の友情とはどういうことか。大抵はその奥さんを好きだったりするのかなと。夫婦というものはどうしたって大変で、苦労している奥さんに対して優しい感じでもう一人の男が存在する。友達の奥さんと簡単に関係を持てるかと聞かれたら、普通は持てない。持たない方がいい。

ミク(趣里)はある意味、村岡の頭の中で生きているような女の子ですが、皮肉にもそこで宮本を押す役として登場する。

 
―ミクとの会話で村岡の妻・美咲(寺島しのぶ)への思いを自覚した宮本に対し、どことなく宮本の気持ちを知っていたかのような美咲の態度。美咲を演じた寺島しのぶさんは、濡れ場や妖艶な役が多い印象でしたが、今回の役は重たい雰囲気ではなく軽さがあり、正直、「こんなに魅力的な寺島しのぶは初めて見た」と思いました。

福間 寺島さんには、まず「宮本の誘いを断ってはいるけれども、楽しい感じでやろう」と、昼間のデートでは茶目っ気を出してもらいました。でも家に帰ると夫である村岡に勘ぐられ、大変なことになる。サランラップをきちんとかけるところなどの仕草も、しっかりした女性として演じてくれて、それが美咲のキャラクターとして活きている。日常的に植木の手入れをするのでグレー系の服を纏っていますが、地味な分、かえって滲み出る女性としての魅力が出ていると思います。

 
―苦悩する作家・村岡を演じた佐野和宏さんの演技は鬼気迫るものがありますね。機嫌良く筆談器で饒舌になったかと思えば不安にかられて激昂したり放浪したりする。

福間 佐野さんは「監督作品の時はいろいろ気にしているから役者として100%の力を出し切れない」と言っていたのを聞いていましたが、あんなにすごい役者だったのかと驚きました。彼の出るシーンは彼が随分考えてくれて、それに対して僕が「もう少しこうしたら?」と言うくらい。

例えば、パンツ一枚で雑巾がけをするシーンがあるけど、雑巾がけをするのは僕が考えたけど、それをハダカでやろうというのは彼が考えてくれ、パンツも3枚持って来てくれた(笑)。

 
―え!? 3枚も!? その中から1枚選んだのですか?(笑)

福間 そうです。それを選んだのが僕の仕事。まあ、佐野さんも寺島さんも趣里ちゃんも、自分の個性を思い切り発揮してくれればこの役になるというところがあった。

逆に伊藤さんは難しかったんじゃないかな。伊藤さんは立っているだけで画が決まるから、現場では「そのままで大丈夫ですから、そのまま立っていてください」と指示していて。

でも、それって意外と難しいよね。そのままで画が決まるという以上のことがあってこそ、夜の道で美咲を待っているときのあの寂しい表情が出てくる。

 
―先程おっしゃっていたセクシゥアリティという部分で、登場人物の手にはそれぞれ表情と色気があり、とくにラストの宮本と美咲の手のシーンは、揺れ動く男女の心情を感じました。

福間 最後にあの二人はどこへ行くのか。ロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』(08)のラストシーンが良かったので、あれを超えるにはどうすればいいか悩みました。あそこをあのようにすることで、人物の手が活きてくる。

美咲は植物を触る手、村岡は手で鉛筆を握り原稿を書く、宮本は「きれいな手をしている」と言われ、ミクは手を当てて人の心を読み、癒す力を持っている。手も撮ると表情があって面白い。美咲が一瞬追いかけて、宮本が引っ込めて……それが男と女の表現になる。

 
―唐突なベッドシーンより色っぽいです。

福間 急にベッドシーンになるという表現が氾濫している。「なんでここでベッドシーンがあるんだ」みたいなのがあるでしょ。見ている側はどうしていいか分からない。これがピンク映画ならやるしかないんだけど、そうなるだけじゃつまらないし、だいたい人間、そう簡単にセックスしなくていい(笑)。

『秋の理由』より。寺島しのぶ、伊藤洋三郎 (c)「秋の理由」製作委員会

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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