やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

2021年は、いままで以上に「エネルギーと環境」が重大な関心事になる年に


 先日12月5日付、Economistで「Making Coal History(石炭を時代遅れに)」というエッセイが出て、なんとも情緒的な内容で地球の環境問題を語る内容であったので呆れていたら、吉崎達彦先生もご自身の溜池通信の中で酷評しておられました。原文と、溜池通信の吉崎訳を置いておきます。

Making Coal History - Economist

溜池通信
12月28日号

 で、何が情緒的やねんという話で言えば、単に環境主義の盛り上がりがある種のファッショ的なところまで行きついた非常に感情的な観念に支えられているものだと指摘される一方、人類の生産活動がコロナによって大きく減速し、それへの悲観論と政策的な資金ジャブジャブ加減が相俟って空前の好景気のようなバブル経済を予見させることにあります。

 まさに『華麗なるギャツビー』の世界で、我が国で言えば80年代後半のあの狂乱のバブル経済を思い出す人も少なくないのではないかと思います。これこそが、その後の悲惨な1930年代を引き起こす序章となったのだと言われればその通りなのかもしれないし、いわゆる『FACTFULLNESS』で記された「人類は間違った方向に進んできたわけではない」という楽観論に対して正面から水をかける反動の時代が来るかもしれません。

 楽観的なニューエネルギーに対する展望に対してトヨタ自動車の豊田章男さんが警鐘を鳴らしたのもその一端ではありますが、世の中そう簡単じゃないだろうという話の裏側にはコロナとの戦いに対して、逃避的な楽観論が跋扈した結果、まだそこまで成熟していない自然エネルギー礼賛の空気が充満してきているよねという話でもあります。

自工会 豊田章男会長 、カーボンニュートラルと電動化を語る 「自動車産業はギリギリのところに立たされている」

 テスラ社が世界の大手自動車会社の時価総額を足してもなおそれ以上の時価総額を持つ事例ひとつとっても「これが狂乱である」のは間違いないとしてもそれを作り上げたのは偶然ではなく炭素取引だったりするわけです。理想的な環境基準を作り、それに見合ったものを作っていくという所作が重要であった時代は相応に各企業が単独の企業努力で乗り越えていけばよかったのは間違いありません。

 しかし、競争の現場はすでにシステム論や政策論のように「国の法律と、それが定めたことで国内で成立しているインフラ、そして国民の知的水準」みたいなものが主たるパラメータとなったとき、我が国は本当に諸外国との戦いに勝てるのかという話になります。

 ひいては、例えばミャンマーへ我が国からの電子・通信機器の製品輸出が伸び悩む理由として製品競争力を指摘する有識者は少なくありません。もちろん、実際に起きていることは国営の通信会社を中国系大手ベンダーがファイナンスを付けることで牛耳り、中国製以外の通信機器を事実上パージすることで競争力を保っているという一面もあります。一帯一路や上海経済開発機構のような「専制政治を護るための国民監視の仕組みと一緒に通信システムもベンダーファイナンスで売る」のはまさに米ポンペオ国務長官が演説で語った内容にも近いのではないかと思うのです。

 一方で、これらの対中アレルギーは一種の赤狩り的ヒステリーなのではないかという冷静な論考も出てくるようになりました。いわゆるマッカーシズム批判のような民主主義の原罪といっても過言でもないようなネタは、常に言論の自由に寄り掛かったフェイクニュース乱舞の情報流通と背中合わせです。難しいのは、これらが単純に中国とアメリカとの対立構造によってだけではなく、コロナやエネルギー開発といった別のファクターと結びついてニューノーマル時代の経済や私たちが何に価値を置くかといった問題と地続きにあるからです。

 さらに、コロナによって生物学的に死ぬ人たちは高齢者ですが、経済的に死ぬのは弱者であり、これをどうにかするために各国が00年代の日本のような低金利にMMTまがいの古典的ケインズ財政出動でジャブジャブにして儲かるのは資本家だけという構造がより強くなりました。我が国も何十年ぶりかの株価回復で湧く人たちは両手に株券を握りしめた人たちだけで、実際にその現場で働く人たちはこのあと続発する企業倒産とそれに伴う失業の増加という目先の問題に身一つで対処させられることを運命づけられています。どうしようもないのは、彼らに対して直接おカネを給付してどうにかしてあげようにも、550兆円の日本経済において我が国の歳出はその5分の一ぐらいしかなく、さらに出動できるおカネを歳入と見比べればほんとたいしたおカネは出せないのです。

 国民に一人10万円を配るだけで13兆円必要で、昨年過去最高になった我が国の歳入は税収は63.51兆円であります。新規国債発行は32.56兆円、公債依存度31.7%ということで、財政再建が必要かどうかという議論をすっ飛ばしても、少なくともカネの面で言えば次世代へのツケ回しは間違いなく、ここで「インフレになるまでは通貨をたくさん発行しても良い」と言ったところでそのカネはプラットフォーマー経由で海外に流れるか、証券や不動産市場に集まって資産バブルを起こし、本当におカネが必要な人のところには回りません。

 それであれば、政府が一人10万のようなはした金を払ってお家にいてもらうよりも、20万でも30万でも稼げる仕事を増やす方が先決であって、そういう仕事を増やすための財政出動をしろと言っても銀行は銀行で儲かってるところにカネを貸したくても借りてくれる事業者がいないのでおカネは動かないという状況になります。そして余った金はふたたび債券になり、また、証券、不動産に吸い込まれていきます。

 ここに未来絵図として脱石炭という人類の悲願が頭を持ち上げてきます。一口にSDGsだと言ったところで、グレタさんじゃあるまいしいままだ実現していないクリーンエネルギーをベースロード電力にという話をどうにかできる状況にはありません。でも、再生であれ自然であれエネルギー政策において何をどのくらい依存するべきなのかは議論百出して、大見得を切る形で総理大臣の菅義偉さんが「2050年までに」と言ってしまったことがあるのみです。

 アメリカもバイデン大統領がパリ協定復帰のニュースが出てエネルギー関連はひとしきり話題になっているものの、残念ながらアメリカが継続的にエネルギー削減・割高クリーンエネルギーの方向へ舵を切れるとはなかなか思えません。ただ、足元では環境対策をしろと規制が厳しくなる中で、モビリティ産業に対する圧だけが強くなっていくというのが現状ではないでしょうか。

 さすがにもうこれ以上どうにもならないところまで言ってから、あれは実は全部夢だったのだ、という話になると、バブル崩壊もあるだろうし下手すると戦争になるだろうしということで、1930年代以降の転がり落ちるように世界情勢が不安定になっていく日々を送ることになるのかと思うと辛いわけです。

 そういう世界観で沈鬱な2020年がいままさに暮れようとしていて、これからどういう2021年にしていくのかは、かなりの部分が我が国の政治が担っているのだろうなあと最近強く思います。というより、政策や外交がここまで我が国の帰趨を大きく変えている実感を抱いたのは久しぶりです。

 たぶん、みんな「このままいくとヤバイ」と心のどこかで怖れつつ、でもいま騒いでも何も起きないだろうから目の前のことをしっかりやる、という典型的な合成の誤謬のようなものがあるのだろうと思います。

 皆様におかれましても、いろんな不安はあるかとは存じますが穏やかな良い年をお迎えいただければと願っております。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.319 エネルギーと環境にまつわる楽観論はどうしたものかと憂えつつ、AIや中国スパイ問題に思いを馳せて2020年の暮れは過ぎていく回
2020年12月31日発行号 目次
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【0. 序文】ファミリーマート「お母さん食堂」への言葉狩り事案について
【1. インシデント1】コロナ対策の大本営がどうにもならない年末も通常営業な日常
【2. インシデント2】巨大プラットフォーム分割論の行方をぼんやり考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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