やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

世界経済の混乱をどう生き抜くか


 ちょうど安倍晋三さんの国葬儀が行われており、実家の目の前の通りでは左翼のデモ隊と警察官の皆さんとの相撲が華やかに催されておりました。

 元気なことは素晴らしいと思います。

 で、私の本業に関わる部分で、7月から8月にかけていくつか大きなトレンド変化がありました。もちろん、円安というかドル独歩高で世界経済が混乱のトリガーを引いているというのもあるのですが、それもありつつ世界的な需要不足がハッキリし始め景気減速の雲色が強くなると、いままで高値で推移してきた海運も、商品市場高騰の代表選手であった原油も、その他先物も現物も値下がりし、私も滞留していた米ドルを持っていく先がなくなりました。米国10年債の利回りが本格的に4%を超えてきて、これはもう大変なことだぞと感じます。

 あまりにも大変なことになりそうなので、リスクヘッジしようにも本当に米ドル抱えていていいのかという恐怖心に駆られる面もありますし、在外純資産からすれば日本円が不必要に売られ過ぎてきたうえ、ご一緒しているファンドでもリスクシナリオに移行します的なことで新興国関連で逃げられる商品や証券は全部処分してしまいました。早めに手を打ったのでそれそのものの損害はほとんどなかったのですが、他方で置いていかれた途上国経済はどうなってしまうんだろうと心配になります。

 ロシアによるウクライナ侵略も全体で見ればひとつの局面に過ぎず、むしろ歪であった理想主義的な欧州経済が燃料不足と需要失墜とでガタガタになり、弱い輪であったイタリアが先に政変を起こしてEUからの離脱プロセスになりそうだと揉めています。そうかと思えばイギリスでは首相交代後に政策金利上げで通貨防衛していたはずが7兆円規模という途方もない感じの減税で景気刺激策をやるといい、そのイギリスの対外純資産はせいぜい20兆円もないため通貨防衛も景気拡大もどっちも上手く回らない状態になりかねません。

 さらには、OECDの23年度の成長見通しで言うならばEU盟主の地位にあるドイツこそ来年は低成長が見込まれ、もうすでに沈んでいる日本が逆に一番見た目の成長率が高くなりそうだというこれはいったいどういう世界観なのか判断がつかないぐらい世界経済は混乱の戸羽口にあるとも言えます。

 その逃避先となるのは言わずもがな売られているはずの日本になるのではないかというのも気になるところで、いまでこそ円安だけれどもバブル的なドル独歩高がどのタイミングで終わり、正気に返るのかというのはあります。円安トレンドになって、確かに1ドル150円ぐらいまで駆け上がることはまずまず想像がついても、では170円180円という水準にまで逝くのかと言われればさすがに考えにくいわけです。

 確かに日本経済もウイークポイントはあるけれども、旧民主党政権の時代のドルベース購買力平価で「半分になる」ほど衰退しているかと言われれば全然そんなことはないわけでして、まあ対外取引においてこれだけ円が安くなるのであれば私らなどは手持ちのドルドル決済でええわとなるわけですが、レート換算で四半期決算を強いられている上場企業などは確かに厳しいでしょう。ただ、いくら需要が世界的に剥げ落ちるとはいえ、日本円だけが(低金利ゆえに)叩き売られるなんてことはなく、前述のようにイギリスもイタリアもドイツもその周辺EU諸国もこれからエネルギー不足と総需要低迷で景気刺激策どころか通貨防衛を優先する事情がEUにはある以上はユーロも安くなる、ポンドも上がらないという局面になるわけです。

 同様に、中国も人民元安に歯止めがかからない状況になってきつつありますが、それと並んで中国国内の不動産バブルの崩壊に伴う不良債権問題やシャドウバンキング、二重クレディビリティなど諸問題について、中国政府自体があまり明確な処方箋をもって臨んでいないことは明白です。不動産業者大手の債権買取を公的資金でやるとアナウンスしたかと思えば自動車ローンの新規起債については制限がかかり、また株価下落に歯止めをかけるために在りし日の日本のように国内金融機関に奉加帳を回して株式の買い取りを進めさせています。これは中国政府の金融政策が無能だというよりは、もうこうなっちゃうと打てる手そのものが乏しくならざるを得ないことの証左だろうとも思います。

 中国が風邪をひくと韓国や東南アジアも面倒なことになるわけで、国土の三分の一が水害に見舞われたパキスタンや債務の罠に思い切りハマって経済破綻したスリランカだけでなく、割と安定していたマレーシアやフィリピン、タイも投資資金の引き上げに遭い年末に向けてかなり厳しい経済状態に陥ることが予想されます。

 何より、韓国経済は対外純資産がほぼ枯渇してスワップも構築できず再び破綻する瀬戸際に立たされていて、通貨危機を再び起こしかねない差し迫った状況に陥っているようにも見えます。私らでさえ、ウォンでは取引しないわけですし、これでドルが枯渇しましたとなればデフォルト待ったなしの展開となり得ます。

 困ったなあ、と頭を掻いてどうにかなるのであれば良いのですが、日本には他の国の経済を支えられるだけの余裕はもちろんありません。アメリカと中国を両睨みしつつ、リスク資産を減らすためにも割と経済が当面堅調だとみられるドルで持つか、円安が一服しつつある状況なら円転して日本円に戻しておくかという、非常に厳しいジレンマの上に立たされます。

 この衝撃はリーマンショック級なのか、という話は投資家の中でもよく話題になるのですが、実のところ、リーマンショックはCDO債務担保証券のような明確なサブプライムローンの破綻による危機がトリガーという分かりやすいネタであったのに対し、今回のドルバブルからの各国通貨・経済破綻待ったなし&インフレに不況もついてくるし、さらに資源価格も低迷して世界経済がクランチの方向に向かうよってのは明らかに世界経済の構造的な問題であって、そこに例えば大手金融機関の破綻とか特定の国の通貨取引が破綻して通貨危機が発生したというのはあくまで持ちこたえられなくなってバーストしたものであるという点でまったく状況が違います。世界経済の減衰がはっきりしたときにランドマークというか象徴としてどこぞの金融破綻があるかもしれないのは事実にせよ、それがそのまま彼らの責任で世界経済が駄目になったぞとかいうことではない、と思います。

 8月から9月にかけて、そのぐらい危機的な状況になってもおかしくない相場になっているのだというのは皆さん円安報道などでも肌身で感じ、また、3万円を目指すかと思われた日経平均も、何もしないとレッテルを貼られた岸田文雄さんの注視によって目減りをしていくところではあるのですが、世界に目を転じれば日本はまだマシなほうだと相対的に買われる時期が近いうち来るのかもしれません。

 少し前までは、資源ビジネスで日本は割高なエネルギーを買わされて不利だぞという状況でこの冬の燃料調達どうしようと頭をひねっていたものが、たった三週間かそこらで世界的な需要不足からの景気減退でエネルギー価格の下落でダブつき気味って話になるとは思ってもみませんでした。や、まったく予想してなかったですわ…。

 というわけで、ほんと一週間、数日でトレンドが様変わりすることも容易に起き得るのだという覚悟を持って相場に臨むべきですし、逆に言えば大相場を期待してフルベットして短期間で億万長者になることだって可能な環境なんだと信じて突っ込む人も多数出ることでしょう。

 とりあえず、私は怖いので分散投資で手広く持っていた通貨は引き上げて米ドルと日本円中心に戻し、cash is kingや! と謳いながら一か月ぐらい大人しくしていようと思っています。こえーよ。 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.381 先の見えない世界経済の混乱や台湾と我が国が置かれた立場を案じつつ、メタバース界隈の動向にも触れてみる回
2022年9月29日発行号 目次
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【0. 序文】世界経済の混乱をどう生き抜くか
【1. インシデント1】西側経済安全保障にどっぷり漬かる日本の輸出産業と政治に翻弄される半導体業界
【2. インシデント2】メタバースの行方をかなり適当に占ってみる
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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