※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.030(2018年10月12日)からの抜粋です。
個人情報漏洩の可能性を示すバグを理由に、アルファベットは傘下のグーグルが運営するソーシャルネットワークサービス「Google+(グーグルプラス)」を終了すると発表しました。
グーグルプラス関連サービス・アプリケーションの開発者が、50万人ぶんのグーグルプラス会員情報にアクセスできる状態にあったことが、閉鎖の理由だとしています。すでにこのバグは塞いでいるのですが、なぜかグーグルはこの事実を公表しませんでした。
確かに実害はありません。グーグルによると開発者がこのセキュリティーホールを利用した形跡はないそうで、よって被害者はゼロ。現在のコンシューマー向けグーグルプラスの存在感の低さを考えれば、閉鎖によってグーグルが失うインセンティブもほとんど無視できるレベルでしょう。しかし、問題の本質はそこではありません。
いちばんの問題は、このシステム上の問題(バグ)を発見していたのが3月だったことです。グーグルは2018年5月25日にEUが新たに施行する一般データ保護規則(GDPR)を控え、個人情報の扱いに関して慎重にならねばならない時期だったからです。
GDRP施行後にグーグルが訴えられる可能性は極めて高いと、施行前から指摘されていました。なぜなら、実際にグーグルはクラウド型サービスを利用しているユーザーのデータや行動履歴を、ターゲティング広告の分野で応用してきたからです。グーグルは実質的に“広告屋”なのですから、これは自然な流れと言えます。
グーグルはFacebook(および2つの関連子会社)と共に、GDPRに基づいて「個人情報の扱いを許可せよと強制している」として訴えられています。具体的には多くのスマートフォンの基礎となっているソフトウェアであるAndroidについて、利用継続の代償に個人情報の提出を強要しているとの疑いがかけられています。
問題の本質はバグではない。
訴訟の行方は現時点ではわかりません。また、グーグルがバグ(プログラムの誤り)で個人情報を危険にさらしたとしても、それが意図したものでなければモラル的にも批判されるゆえんはありません。ミスを許容できない社会なんて存続できないのですから。
しかし、今回のケースはどうでしょう? バグが出るのは仕方がない。でも、バグによって個人情報が危険にさらされていたならば、その事実をユーザーにも知らせるべきでしょう。
問題があることを隠す行為は、ミスをするよりもはるかに重い罪と言えます。これはどんな企業においてもです。しかし、今回のケースで問題なのは、グーグルにはもうひとつの顔があることです。彼らはインターネット広告を販売する業者で、その収入はターゲティング広告に依存しているということです。
グーグルはサービス利用者の行動をクラウドベースのサービスの中で収集し、さらには利用者が使っている情報の中身を(内容は認識してはいないものの)用いて、特定ジャンルの広告を表示するなどに活用しています。
また、グーグルが毎年のように機能向上を誇らしげに発表するとき、その多くは上記のようなクラウドベースのAI機能です。例えば、写真を多数アップロードしてくれることが、クラウドベースのAI機能を発展させる上で望ましい。
クラウドの中で企業や個人のさまざまな活動をサポートし、その対価として広告事業を展開している(が、自分たちはEvilではないと主張している)のがグーグルです。今回の出来事は(彼らの意図がなんであれ)、グーグルという企業の危うさを示したという意味で、とても重要な出来事だったと言えます。
グーグルが問題を発見した後、何の対応も採らなかったとは言いません。実際、すぐにバグは塞がれたのですから。
ところが、(たとえ実際にバグを利用した開発者がいなかったとしても)問題について利用者に報告しないまま放置したことになる上、GDRP施行前の微妙なタイミングで一連の情報公開を遅らせようとしたという疑念は残ります。もし、彼らの行動の源が“隠蔽”、あるいはGDPR施行時期を意識しての時間稼ぎなのであれば、今後のグーグルに対する目線は変えねばならないでしょう。
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」
2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。
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