やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

英オックスフォード大のフェイクニュースに関する報告書がいろいろと興味深い件


 英オックスフォード大学が26日「The Global Disinformation Order」という、世界の偽情報(フェイクニュース)を網羅する報告書を今年も出していたのですが、なぜか名指しでFacebookがもっとも偽情報の宝庫になっていると指摘されていまして、非常に興味深い内容になっています。

 といっても、そもそもイギリスは例のEU離脱によるBrexit問題で国民の投票の傾向に対する調査が明らかになりつつあり、基本的には「EU離脱に何となく賛成の地方」対「EU離脱なんてとんでもないと考える都市部」の問題であって、かなりのイギリス人がこの問題に詳しくないのに投票した、という結果が出ていることもあって、さてどうしたモノだろうかとも思うところです。

The Global Disinformation Order

 サマリーにだいたいのことは書いてあるわけですが、細やかに読むと実に趣深い内容になっていて、楽しいです。

Despite there being more social networking platforms than ever, Facebook remains the platform of choice for social media manipulation. In 56 countries, we found evidence of formally organized computational propaganda campaigns on Facebook. (Figure 4).

抄訳:SNSプラットフォームの利用が以前よりさらに増大しているにもかかわらず、Facebookはプラットフォームによる情報操作の温床のままになっている。56か国において、組織的なオンラインプロパガンダがFacebookで行われている証拠が明らかになっている。

 なぜか報告書内では、フェイクニュースでの情報操作を行わない国として日本が入っていて、これは誇りとするべきなのか、どうでもいいと思われているのかは分かりませんが、この意味ではホワイト国に属していると見受けられます。

 また、方法論に関する記述もありますが、あくまでこれらは報告書に掲載されている概要と、その結果に関するまとめであって、何がどのようにアプローチされたのかは残念ながら明示されていません。そこまで書いているのならば、あるというエビデンスも含めてリファレンスをつけてほしいかなあとは思います。

 10ページ目には「TABLE 1 - ORGANIZATIONAL FORM AND PREVALENCE OF SOCIAL MEDIA MANIPULATION」(表1-各国のソーシャルメディア操作を行うための組織形態と頻度)という国別マトリックスが掲載されていて、我が国はSNS上で行われている情報流通の中身の精査もしていなかったのかと愕然たるところはあります。

 一連の報告の内容を見ていると、フェイクニュースの利用に対してなんでもありのロシアに対して、意外と人海戦術を駆使している中国、さらにはbotを使わずもっぱら盗んだアカウントで第三者を装おうとする北朝鮮というように、各国特務の「お人柄」が分かるような内容になっているのは興味深いところです。

 重要なことは、各国の社会における情報流通を国がどこまで管理しようとしているのか(予算をどう捻出し、組織化をして、何の問題に対応しようとしているのか)でありまして、報告書をしげしげと読んでいるとCYBER TROOP CAPACITY(サイバー部隊の能力)が高いとされている国々は概ねフェイクニュースを統治のツールと位置づけ、自国においては主に結社化させないこと、デモを打たせないことを通じて社会不安を封じようという方策を練っている一方、他国への介入においてもまた社会での相互不信を掻き立てるようなニュースの発信・拡散に寄与していそうであることは分かります。

 そして、それらの舞台はFacebookであり続ける、ということなのですが、レファレンスを見ていると参考にしている論文のほうに大元の記述があるのが確認できるのみで、この報告書を執筆するにあたって重大なFacebookの何らかの瑕疵が判明したというわけではなさそうです。

 また、日本についても、この報告書を作成するプロセスを見る限り「日本の情報方面の特務に関する、レファレンスをするに足る英語文献が見当たらない」から日本は情報操作を行っていないホワイト国だと分類されてしまっている可能性があり、ただ「日本政府が」という主語でフェイクニュースを扱っている節はまったく無いため、これはこれで… と思うところでございます。

 日本の行く先については、じゃあこれらの各国の情報特務活動の方向性を見ながら日本独自の道を歩んでいくのだという風になるのかというとすぐにそういう結論が出るとは思えず、また、特務をやるよ、その対象は日本国民だよという話になれば、組織化し国が予算をつける段階でいろんな人たちが騒ぐことになります。そういう抑圧する情報活動を日本がやるとは現段階では思えず、さてどうするのだろうかというあたりに深い悩みを感じるところです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.274 国家の情報特務活動としてのフェイクニュースの実態を紐解きつつ、携帯キャリアと政府のいざこざや教育産業について思うことを語る回
2019年9月29日発行号 目次
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【0. 序文】英オックスフォード大のフェイクニュースに関する報告書がいろいろと興味深い件
【1. インシデント1】新たなフェーズへ突入しつつある携帯キャリアと政府の戦いはどこへ向かうのか
【2. インシデント2】教育に効率を求めることの無理が積み重なりつつある時代
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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