やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

迷走ソフトバンクのあれやこれやが面倒なことに


 うっかり潰れられちゃうと大変なことになるソフトバンクグループですが、このところ「あ、本格的にキャッシュがないんだろうな」と思わせるネタが多発しております。

 個人的に、ソフトバンクグループやビジョンファンドが触っていたのだろうなあと思う案件の近くに来るようになったので、格段に情報が入るようになったというのもあるのですが、昨今のかなり強引なZホールディングス各社の合併と人事しかり、英Armのイギリス市場での上場取りやめからのアメリカ転出しかり、通信会社ソフトバンクの株式を担保にした借り換えしかり、まあそりゃそうですよねという案件が増えたのは寂寥感と共に警戒も呼び覚ますのも当然と言えます。

 今般、アメリカや台湾が資本だけでなく実際の工場やR&D施設ごと日本に「疎開」してくる話が本格化しており、ついでに日本国内に総額1兆円規模の新規施設を製造と開発両面で立てるかどうかというプロジェクトまで出てきています。その一方で欧州ドイツでの施設増強は見送るということは、これまたまあそりゃそうですよねという流れの話でありまして、さてどうしたものかとも思うわけです。

 さらに、現地紙伝になっていますが、インドの電子決済会社Paytm社の株価低迷に伴って、アリババ系金融機関アント社とソフトバンクグループが持ち株を売却する観測が流れました。

ソフトバンクGとアント、印決済ペイティーエム株売却を模索=現地紙

ソフトバンクとヤフーの合弁会社が、インドのPaytmと連携し、バーコードを使った新たなスマホ決済サービス「PayPay」を今秋提供開始

 Paytm社に関しては、ソフトバンクグループが保有するPaytm社の発行済み株式の約3.8%にあたる約2,900万株を1株当たり485ルピーから535ルピー相当と見られる金額で売却し、155億ルピー(約275億円)の調達を行ったと見られます。はした金やんけ…。実際、これらのインド投資のオフショア資産管理会社であるソフトバンクグループ系SVF India HDによる調達なんですが、この辺のレベルのキャッシュを調達するためにPaytm社の株式売却は意外で、実際Paytm社の株式は上場来80%近い下落になっています。

 いいツラの皮になっているのはこのPaytm社のQRコード決済技術を使っていながら、自社グループ主力の技術依存先を売り散らかしてとうするんやってところでしょうかね。もちろん、ちゃんと事後の技術的手当もあってのことだと思いたいですが、そこは「正義さんのやることだからなあ」と思わないでもありません。

 この辺の話は、当メルマガでも2018年12月25日発行のVol.246、2019年11月30日発行のVol.281でも概要をお伝えしています。ボク言いましたよね。

人間迷路 Vol.246 日経平均株価1,000円超下落の先にある現実を見すえつつ、中華製通信機器問題やキャッシュレス決済騒ぎなどを語る回【夜間飛行】2018年12月25日

人間迷路 Vol.281 「Yahoo! JAPANとLINEの経営統合」にまつわる諸事を深掘りしつつ、人工知能に向ける世間の期待への懸念にも触れてみる回【夜間飛行】

 繰り返しになりますが、このソフトバンク系統のZホールディングス社がQRコード決済で販促してきたPayPay事業はアリババ系アント社と並んで中華決済ブランドのアリペイのクローンなのであって、これらは経済安全保障がどうこう言う以前に技術的にもサービス的にも双子の関係にあり、その大元の決済技術を担うトラの子であるはずのPaytm社の株式を売却しちゃうよって話になると、これらのサービスの継続や拡大のための研究開発はZホールディングス社が自前で担保できるようにならなければなりません。

 しかしながら、ヤフー方面からその辺の話で研究開発費を特盛で増やしましたなんて話はまったく聞かず、どちらかというとリストラの話ばかりが流れてくることを考えるとある意味で来年の種もみに手を付けているとも言える状況ではないかと思います。三顧の礼で川邉健太郎さんが連れてきた元インターポールの中谷昇さんが事業意欲を喪失するなどして更迭・失脚話が流れてきていたのもこの辺で、中谷さんのような有為な人材ですら切り出す話が出ているというのはよほどのことなのではないかとも思います。

 それもこれも、世界に拡大するICTコングロマリットとしてのソフトバンクグループ万歳とばかりの栄華を誇っていたはずが、コロナ禍を挟んで世界的なリセッションと米中対立の余波で急速に孫正義的やり方が色あせてしまったのは残念なところです。うっかり飛ばれると面倒なので正直どうにかして欲しいところなのですが、ウォッチャーとして気になるのは単にソフトバンクグループがひとつの事業体としてのストーリーを終えてホークスの呪い的なダイエー末期の様相となるだけでなく、具体的にソフトバンクグループを事業投資から積極的に外す動きが昨今顕著になっていることです。

 Zホールディングス社の各社統合でカニバリが発生し売却を目指していたとみられるLINEモバイルが典型ですが、ある程度、売却のめどがついたと風評が流れるごとに正座待機していたところ諸般の事情で流れるということが何度か繰り返し、なんやねんと思っていたら実は「ソフトバンクグループの事業再編で調達を目指す動きには同調できない」とか何ともデリケートな理由が後付けで流れてきてこれはどうしたことかと思うわけです。

 また、冒頭にも書きましたが台湾系がごっそり九州に投資をするタイミングで、かなり微妙な感じでのソフトバンク外しをやっていて、まあ理由の半分ぐらいはソフトバンクグループにカネがなさ過ぎて何か打診しても応じてくれないだろうからというのもあるのでしょうが、残り半分はアリババとの関係も含めて経済安全保障と信用不安のようなものの併せ技でソフトバンクにはそもそも相談にいかない、ソフトバンク系の出資を受けている会社にさえ発注かけないと明言する関係先が増えてきたように感じられることです。

 単なる妨害とかではなくて、明確にソフトバンクグループがなんかマズいことがあって外しているのは明確で、例のArm China社でのゴタゴタの余波があったとか単発のネタではなさそうだ、というのが実に沈みゆく太陽を思わせます。関係先も含めて精励している人たちもいる中でマネーゲームに興じている場合ではないと思いつつ、ただ目の前のキャッシュがないのだ、だからコアか非コアか関わらず現金化するのだと言われればまあ頑張ってねと思わないでもありません。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.397 迷走するソフトバンクのあれやこれやに触れつつ、カカクコム「食べログ」問題やAIの今後についての雑感などを語る回
2023年2月28日発行号 目次
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【0. 序文】迷走ソフトバンクのあれやこれやが面倒なことに
【1. インシデント1】カカクコム「食べログ」VS韓流村「Kollabo」のアルゴリズム裁判がもたらす破滅的なもの
【2. インシデント2】これからAIを巡って起こりそうなことを雑に考えてみる
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】NFTゲームを巡る暗号資産取引の法理と論点

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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