小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

Adobe Max Japan 2018で「新アプリ」について聞いてみた

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年11月23日 Vol.198 <移りゆく社会号>より

11月20日、パシフィコ横浜にて「Adobe Max Japan 2018」 が開催された。10月にロサンゼルスで開かれた「Adobe MAX 2018」の日本版であり、昨年に続き2回目である。

10月のAdobe MAXは、ニュースを見ていてドキドキした。iPad版の「フル機能Photoshop」に、完全新規開発のペイントツール「Project Gemini」、そして、AR向けソリューションの「Project Aero」と、新しいアプリが2019年、相次いで登場すると発表されたからだ。

「その場にいたら色々聞くのに!」

と思っていたら、Adobe Max Japan 2018にて、プレス向けに「新モバイルアプリケーション」についてのラウンドテーブルがある、とのご連絡を、Adobe広報からいただいた。というわけで、参加して、気になっている点をガンガン聞いてきた。とりあえず、順番に回答をお伝えしていきたい。

お答えいただいたのは、Creative Cloud & Document Cloud デザイン担当シニアディレクターのEric Snowden氏と、Creative Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPOのScott Belsky氏だ。
 
・Adobe社 Creative Cloud & Document Cloud デザイン担当シニアディレクターのEric Snowden氏(左)と、同 Creative Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPOのScott Belsky氏(右)。

 
Q1:iPad版Photoshopは、iPadのメモリー量でも大丈夫なの?

A1:大丈夫。200枚以上レイヤーがあるPSDファイルでも3GB以内。クラウド連携することで、大きなファイルにも対応。レイヤー数に制限はない。
 
・Adobe Photoshop on iPad。公開は2019年の予定。

 
まず、Photoshopの話。iPad Proがいかに高速なSoCを使っているとはいえ、搭載しているメモリーの量は厳然と異なる。iPadは3GB(過去モデル)から4GB程度だが、Photoshopでメシを食っている人なら、搭載メモリー量が32GB、という人だっているはず。この辺は、そもそものデータ量がそこまで多くならないこと、ファイルそのものをAdobeのクラウドであるCreative Cloudと連携することで、容量面の不利をカバーできる仕組みであるようだ。

Q2:PC版のPhotoshopとの機能差は?

A2:現状は未公表。ただし、「機能削減版」にはしていない。タッチUIに特化している関係上、操作が違う部分はある。

現状、Photoshop on iPadの機能はすべてが公開されているわけではない。だが少なくとも「機能削減版ではない」とされている以上、「ガンガン大きなファイルで作業できるもの」と考えて良さそうだ。

Q3:Project Geminiについて。使うファイル形式は? Photoshopなどとの連携は?

A3:Project Geminiでは、新しい独自形式ファイルを使う。一方、Photoshop やIllustratorのファイルを直接読み込み、シームレスに連携できる。Illustratorのファイルを扱う場合にも、ベクター形式のまま扱えて、いちいちラスタライズは不要。
 
・Project Gemini。まったく新しい、スタイラスペンでの利用を前提としたペイント/ドローイングツールになる。現在はiPad向けに開発中。

 
Project Gemini(発音は「ジェミナイ」)は、画材シミュレーションを含めたペイントツールと、ドローツールを融合させた、まったく新しいペイントドローイングツール。その性質上、新しいファイル形式が導入されるものの、他のAdobeのツールとはシームレスな連携ができる。なので、「PhotoshopとIllustratorでそれぞれデータを作り、Geminiに持ち込んで仕上げる」といったことも可能になりそうだ。

Q4:Project Gemini は、iPad以外にも提供される?

A4:まずはiPad向けだが、WindowsやAndroidなど、スタイラスをサポートしているプラットフォームにもアプリを提供する。

Project Geminiはその性質上、スタイラスペンでの操作が必須になる。そのため、プラットフォームとして「スタイラスペンをサポートするOS」を想定しているようだ。Adobeは現在、内部でマルチプラットフォームベースでの開発を行っており、移植も最初から想定されているようである。

Q5:Project Aeroでは、どのくらいのデータ量のものを扱うことを想定しているのか?

A5:サイズに制限を設けるつもりはない。ただし、ARでの表示には性能的な制限がある。そのため、データはまずCreative Cloudで処理され、表示するターゲットデバイスに合わせてデータのサイズや密度を自動調整する。ちなみに現状、静止画と3Dデータには対応しているが、動画をAR空間に配置することはできない。
 
・Project Aero。ARアプリケーションの開発を簡便化するためのツール。Adobe系アプリケーション同士で連携しつつ、iPhoneやiPadの上で、ARKitを使ったARアプリが簡単に作れる。

 
Project Aeroは、AdobeのARソリューション。Photoshopや3Dツールの「Dimension CC」と連携し、そのデータを簡単にARとして空間内に配置できる。そうしたことは、いままではアプリを書いて実現する場合が多かったのだが、Project Aeroは、コードを一切書くことなく、デザイナーがAdobeのツールを連携させて「ARアプリが作れる」のがポイントだ。

質問にあるように、データの量によってはiOSで処理しきれないものになる可能性もあるが、今はまずCreative Cloudで前処理を行い、それから「Project Aero」アプリに流し込むような形になっており、その「前処理」で機器にあわせた最適化が行われるようだ。

Q6:Project Aeroでは、アニメーションや操作への対応などはどう記述するのか?

A6:Project Aeroは新しい専用ファイルを使う。その中には、アニメーションやインタラクティビティに関する振る舞い(ビヘイビア)を埋め込める。Project Aeroのファイル形式はクラウドに特化しており、Creative Cloudとの連携が前提。ビヘイビアについては、Dimension CCで設定したものも使う。

要は、Project Aeroのデータには、モデルやライティングなどの情報のほかに、カメラやインタラクティビティの情報も含む、ということだ。クラウド特化型の形式になっていて、「ARを表示する機器に合わせて最適化する」のもポイントだ。

Q7:今はiOS用だけだが、他のARプラットフォーム、例えばグラス系やAndroidへの対応は?

A7:まず1プラットフォームから完成させる。iOSを選んだのは、ARKitが一番普及しているARプラットフォームだから。今後他も普及し、数が増えてくれば、積極的に対応していく。

これはわりと自明な回答。ちなみに、Adobeが説明会前に流したデモビデオにはAR対応プラットフォームである「MagicLeap」の姿もあったので、グラス系ももちろん想定内なのだろう。

Q8:ARはどうやって認知を高めていくと思うか?

A8:まずは「ARをやっている動画がSNSにシェアされる」ところからだと考えている。これなら、誰もが体験可能だ。なので、Project Aeroには「動画撮影機能」が組み込まれている。その後、グラスタイプの機器などが手軽になってくれば、本格的に普及することだろう。

なお、Adobe MAX Japanの前日に、筆者のところに、Project Aeroのプライベート・ベータテストの案内が来た。内容については非公開とする条件なのだが、「作ったオリジナルの作品については、自由に動画をシェアして構わない」(Belsky氏)との言質をいただいたので、そのうち、筆者がProject Aeroで作ったARの動画をシェアすることにしたい、と思っている。

Q9:これらのツールは、Adobe Creative Cloudに入るのか? それとも別料金か?

A9:Adobeは1つのビジネスモデルしか採用しない。だから「Creative Cloud」の契約で使える。ただし、どのプランに含まれてどのプランに含まれないかは、現状未公開。
 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年11月23日 Vol.198 <移りゆく社会号> 目次

01 論壇【小寺】
 映画「ボヘミアン・ラプソディ」に見る状況変化
02 余談【西田】
 Adobe Max Japan 2018で「新アプリ」について聞いてみた
03 対談【西田】
 境治さんに聞く「バズで売れるってどういうことなのか」(4)
04 過去記事【小寺】
 またも日本は置いてきぼり? Amazon Alexaが紡ぐ未来
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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