やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「スマートニュース」リストラ報道と報道記者喰えないよ問題


 ダイヤモンドシグナルの岩本有平さんがスマートニュースのレイオフ騒動について核心となる記事を公開していて界隈が震撼しておりました。言われてみればこの半年ぐらいスマートニュースを退職して独立される方や、スマートニュースで枢要な仕事をされていた方のステップアップ転職のご報告めいたお話が流れてきておるなあと思っていたんです。

 スマートニュースは英語圏でも割とイケてる感じの雰囲気で話題になっていただけにショックでした。

【独自】本当は「全社員の4割を削減」だった──スマートニュース、レイオフ騒動の深層

 もちろん世界的にはリセッション前夜なのははっきりしているのでビッグテックも投資界隈も冷え気味で、リストラ三昧となっているトレンドは間違いなくあります。そんな中でスマートニュースだけが向かい風でも高く帆を揚げて快速前進なんてこともあり得ないわけですから、起きるべくして起きたというのが正確なところなんでしょうか。

 ――とまあぼんやり記事を書いていたら思った以上の騒動で、スマートニュースとは直接関係ないよと思えるところからも火の手が上がっていて、ニュースサイト・アプリに限らず広告依存のオンラインサービスは修羅の様相を呈しています。単純な話、ウェブニュースを中心にコロナバブルの崩壊とも言えるPV数の総量の減少により配信記事数の低下(まあ廃業になるサイトも多いので当然と言えば当然ですが)に見舞われています。これはもう駄目だ。

 芸能やスポーツのような、ある程度書き飛ばしや、記者会見をそのまま記事にしました系も含めてコタツで成立する分野はまだPVが取れる分広告単価の下落があっても量で稼ぐことは可能なのでしょうが、問題はちゃんとコストかけて執筆している人たちです。

 まあ、私も取材したり調査かけたり、手間暇かけて「これは書いておかねば」という記事はPVが少なかろうが実入りがなかろうが書いてしまいますが、取材費もでないようなネットニュースがカネをかけずにライターさんにお願いして書くような記事の品質にはおのずから限界があります。

 加えて、プレジデント発祥の出版する本との著者タイアップ記事が発明され、本を書くぐらいの専門性のある人なら量産しても大丈夫だろうと思っていたら、ちょくちょく著者や出版社ごと炎上したり、どうしようもない技術本を出して酷評されても出版強行したりするような騒ぎも起きてきています。言い換えれば、ウェブ媒体も出版社の出す本も「情報にかけられる金額・予算の減少」によって著者の名前やテーマの話題性だけで売る本がそれだけ増えたということでもあります。ひろゆきの本がベストセラーになる時代ですからね。

 結局、昔ながらの取材を繰り返したり、有識者さながらに背後関係も全部読み解いて専門的なことを間違いなく書ける人しか品質面での担保ができないわけですが、しかし、読み手は必ずしもその人におカネを払ってくれる仕組みがあまりうまくワークしない以上、noteなどで情報を売るか、YouTubeで稼ぐか、オンラインサロンをやるかぐらいしか生き残りの方法がなくなってきてしまっているのが現実とも言えます。

 ある週刊誌の特集記事でご一緒し、あ、この人の調査能力はすごいなと思っていたベテランの記者の方が記事執筆だけでは喰えなくなり、ご本人が「もうすぐ還暦だけど体力だけはあるから」と寂しそうな顔をしてUBERでアルバイトしていることを打ち明けられたときは驚いたを通り越して椅子から落ちそうになりました。

 また、一時期はたくさんPVを取れていて企画が当たりまくっていた面白系ライターさんたちがやっぱり喰えなくなり、オウンドメディアに流れてきて独立したもののパッとせず、貧しくなって心に余裕がなくなると面白くできるはずの企画も面白くなくなってライター界隈から消えていく現象もあります。いわゆるショーケースとしての連載やブログも下火になると、SNSで情報を切り売りするだけでは稼げるPVで飯が食えないということなのかもしれません。

 ヤフーニュースやスマートニュースの変調、さらにLINEもブログサービスを閉鎖するなどして発信を担える裾野が沈没していくと、そこで何とか草刈り場にして頑張ってきた人たちが拠って立つところはTwitterやTikTok、Instagram、YouTubeしかなくなるのもまた事実で、そこの単価も猛烈に下がってくるとインフルエンサーどころか屋台骨になっている調査報道自体もフリーランスでは担える人がいなくなっていくのだろうなあと残念に思うのでした。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.394 厳しさを増す報道ビジネスの行方を憂えつつ、スマホアプリのサイドローディングやNFTゲームにまつわる問題を考える回
2023年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】「スマートニュース」リストラ報道と報道記者喰えないよ問題
【1. インシデント1】雑感ですが、スマホアプリのサイドローディング自由化で人類は幸福になれるのでしょうか
【2. インシデント2】消費者問題としてのNFTゲームと課題の整理
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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