やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

日経ほかが書き始めた「デジタル庁アカン」話と身近に起きたこと


 最近、突然日経が張り切ってデジタル庁批判を始めたのでみんなビックリしているわけですよ。

 しかも、23日になってデジタル庁事務方のトップであったデジタル監の石倉洋子さんが退任し、後任に浅沼尚さんが就任するというニュースまで出てきました。

デジタル監後任に浅沼氏で調整 デジタル庁デザイン責任者

「会議に出たくない」 デジタル庁、民間出身職員が反発

デジタル庁迷走「誰が決めているのか」 発足から半年

 問題の嚆矢となる記事はデジタル庁発足直後に私も記事にしましたし、それを受けて今回もいきなりデジタル庁DISがあったので取材依頼があるなどして騒ぎになっているようです。

期待と多難のデジタル庁、いきなり粛清人事と幕引き用報告書の謎
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87542

 これらの混乱については、いわずもがな香川一区の平井卓也さんがデジタル庁発足前の準備段階からデジタル行政に通暁していると同時にパワハラを乱発するなどして、また不透明な株取引に対する疑惑もあったことなどから衆議院選挙で小選挙区を立憲民主党小川淳也さんに負け、比例復活の銅メダルとなったこともあって、岸田派であるにもかかわらず初代デジタル大臣人事は牧島かれんさんになりました。

 そもそもデジタル監で石倉洋子さんに白羽の矢が立った理由が、それまで起用を考えていた伊藤穣一さんがエプスタイン問題の影響で政治的に不適切の判断が出たことで急遽人事をやる必要に迫られ、複数の候補者に断られた結果、ある種の消去法で平井卓也さんの大学の先輩だからという理由で起用された面もありました。石倉さん自身も本意ではない退任ではないかと思いますし、きちんとサポートが入れば全然仕事のできる人だったようにも見受けられるので、健康を理由にフェードアウト気味にお辞めになられるのはもったいないなとも思う部分は多々あります。

 ただ、同様にデジタル大臣人事で起用されたこの牧島かれんさんは大変にまじめな方であると同時にあまり誰かを押しのけて何かをされるタイプでもなく精神的にもちょっといろいろあるため、デジタル臨調ほか行革の旗振り役としてもデジタル大臣としてもいまひとつ本来の力を発揮できないことなどから、非常に指導力・推進力の面で多難なんだろうなあと思うわけですよ。

 また、副大臣や政務官として小林史明さん、山田太郎さんが選任され、相応に詳しい人が指揮しているにもかかわらずデジタル庁がうまくワークしないとされる理由は、デジタル庁に出入りしていれば分かる通り単純に「やるべきことに対して、人員が不足しているうえに、寄せ集めてきた人たちの仕事の進め方の常識に温度差があり、一人の職員がプロマネ的に複数のeガバメントのプロジェクトを担わされる」ことで充分な機能が実現できていないことに尽きます。必要とされる仕事量に対してアサインされる人員が少ないわけですから、当然検討事項も根回しも多く必要になり、過負担となってさっさと辞めるという選択肢になるのも仕方がないことだろうと思います。

 これは何度も申し上げてきたことですが、菅義偉さんが手腕を発揮して政権としてデジタル庁を早期に立ち上げて政府DX化を推進させると一念発起したのは素晴らしいことであったし、パワハラ批判もありながらもそれを担った平井卓也さんも一面の功績は間違いなくあるんですよね。他方で、霞が関の情報化を進めるにあたって、あらゆるプロジェクトを横断的に進めるにあたって当初デジタル庁600人態勢なんて人手が足りなさ過ぎて無理、その10倍は欲しかったところです。やろうと思っても、旧弊も大きくちょっとデジタル化で噛むだけではなかなか無理なこともまた多いわけですから。

 かねて私に対してデジタル庁の状態について嘆いていた人たちは「やると決まっていることについては、形になるまで粘る」と言っていますが、デジタル庁に期待して社員を出していた企業が人員の引き上げをすることが決まってからはさすがに堪えた様子でした。気持ちは分かる。それもこれも、当初デジタル庁の発足の段階でこうなることは充分に予見できたことだけど、政府のデジタル化について専権的、また横断的に手がけるという野心的な事務官庁でしたから、きっと官民利権の巣窟になりウハウハになるとでも思ったのではないでしょうか。

 とはいえ、各員やるべきことに向けて精励している状態ですから私が口を挟むのも野暮と思う一方で、私が直面しているのは教育データとデジタル庁の絡みで情報法の観点からずっとやり取りし、お互いに問題意識を共有して、これから具体的にこういうやり方で取り組もうとコミュニケーションを取ってきた担当者たちが、霞が関あるあるの佳境で人事異動というアレを喰らって地方自治体の教育委員会に飛んで行ってしまったことで話がゼロベースに戻ってしまった面があったりもします。これはもう、霞が関(デジタル庁があるのは赤坂見附だけど)の宿命だからあきらめなければならないんだろうけれども、複数年度会計と並んで悲願でもある専門分野に熟達した行政マンの育成という観点からは非常にがっかりしましたし、また、デジタル庁がこれからもいろんな省庁から人を集めてきて政府の電子化、DX化を進めるんだよといったときに適切な知見のある人が担当官になっていないときに起きる悲劇で損害を被るのは日本国民であり日本企業であります。

 そういうことがあるたびに、もうちょっとどうにかならないのという心の叫びも放つわけですけれども、そうであるからこそ、官民学で然るべき政策コミュニティを作り、日本国内・社会の要請だけでなく、国際的な規制や潮流を読み取って日本の政策に反映させていくプロセスをどう作るのかという「場」の問題になっていくのだろうと思います。何か問題を抱えるごとに、かつて担当者だった誰誰さんがまだいたらあれができたのにな、と死んだ子の歳を数えるかのようなネタになるのはあるある話の酒の肴では済まされません。

 さまざまな課題を抱えながらも、なんとかやってきたのが日本の役所であり行政だったのだ、と言われればそれまでで、先人の苦労はいま以上であったろうことを考えれば、それを良い形で担い、また問題を次の世代に残さないように知恵を尽くすのもまた私たちの役割なのかもしれません。

 などという原稿を書いていたら、岸田文雄さんが今政権の成長戦略はweb3.0だと言い始め、お前それ違うだろ的な空気も流れてきました。いやまあsociety5.0がありDX化があって、次なるビッグワードはweb3.0なのでしょうが、じゃあお前らがこれからお世話になるAWSやAzureはどこが提供したものだと思ってるんだよとか、次号メルマガで詳述したいところですが欧州ではデジタルビジネス法が欧州委員会での概ねの合意を得て制定される方針となっているいま、日本の場合は周回遅れというか詰めておかなければならない事項が多すぎて草というのが正直なところです。いったいどうするつもりなんでしょうね。

 それはそれとして仕事量が多すぎて死ぬ。助けて。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.366 なにかと揶揄されがちなデジタル庁に対して思うことを記しつつ、上手くいかない少子化対策にまつわる話や若年サイバー犯罪グループ事件の顛末に触れる回
2022年4月25日発行号 目次
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【0. 序文】日経ほかが書き始めた「デジタル庁アカン」話と身近に起きたこと
【1. インシデント1】「出産一時金」と少子化対策の是非
【2. インシデント2】サイバー犯罪グループ「Lapsus$」の出現が意味すること
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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