名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)より

悪い習慣を変えるための5つのコツ

※名越康文メールマガジン 生きるための対話より



解決しない悩み事には「楽したい」がある

「つい食べ過ぎてしまう」
「つい怒ってしまう」
「ついダラダラしてしまう」

あらゆる悩みの根源には、こうした「やってはいけないとわかってはいるんだけど、ついやってしまう」習慣があります。ダイエットをしたい人は「つい食べ過ぎてしまう」習慣をやめればいい。さらに言えば「悪い習慣をやめて、良い習慣を始める」ということさえできれば、悩みごとは解決です。部屋を片付けたい人は「散らかす」習慣をやめて「片付ける」習慣をつければいいわけです。

簡単ですね。ただ、実際にはこの「ついやってしまう」(あるいは「ついサボってしまう」)習慣を変えることが難しいわけです。なぜでしょう?

もしも本気で「変えたい!」と思っているなら、悩み事のほとんどは「すでに解決」しているはずです。なぜなら、本気で変えたいと思って変えられないことなんて、そうそうないからです。

「やせたいんです」
→「じゃあ、明日から食事の量を少し減らしましょう」

「英語を話せるようになりたいんです」
→「じゃあ、勉強したらいいんじゃないでしょうか」

ね? 簡単でしょう? 確かに「ボクシングで世界チャンピオンになりたい」とか「大金持ちになりたい」という悩みであれば、話は別です。でも、自分がいまやっている悪い習慣を良い習慣に変えるということに「できない理由」なんか本当はないはずなんです。

ただし、「本気であれば」です。

言い換えれば、「変えたいのに変えられない」と悩んでいる人は、結局のところ「本気ではない」ということです。本気ではないけれど、変えたい。つまりは「できるだけ楽をして変えたい」と思っているわけです。

 

どんなハウツーでも「負担ゼロ」はない

世の中にはハウツー本があふれています。なぜ人々がハウツーに飛びつくかといえば、「楽に変える」ことができそうだと思うからです。

もし本気で「変えたい!」と思っている人であれば、「楽に変える」よりは「確実に変える」方法を選ぶはずです。ところが多くの人はハウツーを選ぶ。「確実に変える」よりも「楽に変える」ほうを選ぶ。

ここに落とし穴があります。どれほど小さな変化であっても、人間が「今やっている習慣」をやめたり、変えたりすることには、それなりの負荷がかかります。「1日5分でやせる!」みたいなキャッチフレーズを聞くと、「ああ、楽そうだ」と思うわけですが、その「1日5分」が大変なんですね。負荷がゼロのハウツーというのはない。

僕は、世の中に存在するあらゆるハウツーは「有効」だと考えています。ただし、「負担ゼロのハウツー」は存在しないのもまた、事実です。皮肉なことに、「楽したい」という期待を抱いている人には、どんなハウツーも効果を発揮することはありません。なぜなら、どれほど優れたハウツーも負担はゼロではないし、やらなければ効果はゼロだからです。

どんなに小さなことでも「変える」というのは負担です。その負担を覚悟しないことには、人は変わることができないのです。

 

新しい世界には『小さな窓』から出る

変わるためにはまず、負担を覚悟すること。そして次に大切なことは、一気に全てを変えてしまおうとは思わないことです。もちろん、人生の中にはあらゆることがガラッと変わってしまうような転機が訪れることはありますが、私たちが自分の努力で変えることができるのは、ほんの少しの変化です。でも、その少しの変化が、やがて大きな変化につながります。

僕はよく「新しい世界には『小さな窓』から出ましょう」ということを言います。一日のうちのほんの少しの短い時間、あるいはたくさんある物事の中で、ほんの少しの範囲だけを変えてみる。

例えば「読書の習慣をつけたい」のであれば、「1日1ページを読む」というぐらいのところから始める。それくらいではやってもやらなくても何も変わらないじゃないか、と思われるかもしれない。しかしどれほど小さくても、どれほど短くても、それが確かな「変化」であれば「変わる」ことの確かな一歩になりえるのです。

毎日1ページ本を読んでいると、調子のいいときには、ふと気づくと数ページ読み進んでいた、ということが起きてきます。また、読んでいるうちに別の本を読みたくなってきたり、本に登場する場所に行ってみたくなったりする。

どれほど小さな変化であっても、そこからしか「変わる」ことはできません。たとえ初めは小さな「波」で会ったとしても、そこに身を委ねていれば、思いのほか、大きな変化となっていくことがあるのです。

 

小さく変えるための5つのコツ

小さな変化を大きな変化に変えていくためには、いくつかのコツがあります。ここでは5つほど、そのコツをご紹介しておきましょう。

1)負荷を楽しむ

人が「変わる」には、負荷がかかります。しかし、「負荷」というのは必ずしも辛いことや、退屈なこととは限りません。人が成長するときというのはむしろ「負荷そのものを楽しむ」ということができているときです。

例えば編み物が大好きな人にとっては、編み物はつらいことではありません。「試験に受かるため」とか「体重を5キログラム減らすため」といった目的意識で努力を続けるのは、強い意志が必要です。しかし、「本を読むことそのもの」「食事の記録をつけることそのもの」を楽しむことができる人は、ふと気づくとそれを継続している、ということがあります。

2)集中力の対象を変える

「ついダラダラとテレビを見てしまう」という人は、自分に集中力がないのだと思い込みがちです。しかし、そういう人は「ダラダラとした生活」に没入していることが少なくありません。

一度、ダラダラとした時間を過ごしている自分の状態を観察してください。そこにはある種の熱気や、集中状態があるはずです。その集中を、何か別の対象に向けてみる。これは、ふと気づくと暴飲暴食を繰り返す、といったタイプの悪癖を改善するときにも、使える方法です。

3)全体性に目を向ける

悪癖というのはだいたい、身体の中でも「部分」の欲求を満たすものになっています。例えば暴飲暴食であれば、胃袋の欲求に屈してしまっているわけです。そして、これは自分の意識においても同じです。妄想や自我は言葉を替えれば「部分」への固執なのです。

部分から全体へと注意を向けていくと、自然と「部分の欲求」に屈しなくなっていきます。胃袋だけではなく、腸や、肺や、心臓や、背中や腕の筋肉といった全身の声に耳を傾けるようにしてみる。そうすると自然と、無闇に食べ続けようとする欲求が減衰してくるのです。

4)夜をターゲットにする

1日のうちで、悪い習慣が起きやすい時間帯というのがあります。多くの場合、それは夜です。1日の疲れがたまり、自制が効かなくなると、暴飲暴食や夜更かしといった悪癖が顔を出します。

よって、習慣を変えていくのは夜をターゲットにするのがポイントとなります。いつもより30分早く眠るだけでも、体調はずいぶん変わります。身体が気持ちよくなれば、悪い癖を追いかけにくくなるでしょう。

5)より大きな目標を持つ

悪い癖にはまってしまう最大の理由は、「それ以上にやりたいこと」がないからです。早起きができないという人は、「明日の朝7時に起きること」を自分の人生でもっとも大切な目標として設定してみましょう。

そうすれば自然と、前の日に無意味な夜更かしをしようという気にはならなくなるはずです。

 

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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