小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

岐路に立つデジカメ、勝ち組キヤノンの戦略

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年2月17日 Vol.116 <進歩の階段号>より

2月15日、キヤノンは春の新商品として、計7モデルを発表した。2月23日から国内最大のカメライベント「CP+」が開催されるが、メディア向けには先行して実機の披露目という格好である。

今回はエントリーモデルのリニューアルが主で、目立った新機能があるわけではない。だがデジカメ不況と言われる昨今において、勝ち組であるキヤノンの新製品戦略から、色々と見えてくるものがあるはずだ。今回はその辺を考えてみたい。

まずレンズ交換式カメラの市場推移としては、一眼レフ・ミラーレス合わせて2013年には220万台を超える規模でピークを迎える。だが翌年から失速し、2016年には128万台に減少。たった3年で100万台近くの市場が消えてなくなったことになる。

・レンズ交換式カメラの市場規模

業界としては、これはデカい。ニコンが平成29年3月期連結業績を下方修正したが、この市場のシュリンクで押し出されたという事だろう。

ニコン、2017年3月期業績予想を約10%下方修正

リコーは事務機器の不振というこれまた違った理由で事業再編を進めているが、当然リコーブランドやペンタックスブランドのカメラ事業にも何らかの影響が出るのは必至であろう。

リコー、国内外で拠点再編 数千人規模の配置転換か

もちろん、キヤノンとてその影響がなかったはずはなく、当然厳しい戦いを強いられてきたわけだが、一眼レフではシェア54%で1位、ミラーレスでは20%で2位、レンズ交換式カメラというトータルのくくりではシェア39%で1位と、相変わらずの強さを見せつけている。

・キヤノンの2016年シェア

 

2017年の戦略を占う

昨年キヤノンは、ハイエンドからミドルレンジ、そしてミラーレスまで、かなりのテコ入れを行なっている。ハイエンドではEOS-1 Dx II、ミドルレンジではEOS 5D IVとEOS 80D、ミラーレスではEOS M5を発売した。どれも数年は最前線で戦えるモデルであり、苦しいと言われるデジカメ業界の中で、これだけ充実した製品を繰り出していれば、そりゃ勝つだろうという話である。

そして今年2月と4月に分けて発売されるのが、今回発表の7モデルだ。コンパクト系は2月23日、レンズ交換式は4月上旬発売となっている。

・2月15日に発表された新製品

キヤノンの強みであるレンズ交換式にフォーカスすると、今回発売の3モデル、EOS M6、EOS 9000D、EOS Kiss X9iは、どれもエントリー向けに位置する。しかし昨年ミドルレンジに搭載された画像処理エンジンDIGIC 7をさっそく搭載、センサーもデュアルピクセルCMOS AFを搭載するなど、エントリー機だから旧世代技術といった格好の差別化は行なわれていない。このためモノによっては、ミドルレンジとスペックが逆転している部分もある。

・エントリー機ながら、機能的にはミドルクラス

昨年はキヤノンもEOS M5で本格派ミラーレスに参戦として話題になったが、この次期モデルとなるM6は、機能的にはほとんど変わらない。ボディは、お手軽ミラーレスのM3と、マニアックなM5のハイブリッドのような作りになっており、ビューファインダなし(外付け)、だがデュアルマニュアルダイヤル搭載だ。M5ではゴツすぎるという意見へのフォローアップモデルなのかもしれない。

・本格撮影にも対応するエントリーモデル、EOS M6

だがエントリーとはいえ、M6(ボディのみ)で直販価格税別9万2,500円、15-45mmレンズキットが税別10万7,500円、18-150mmレンズキットが税別13万5,000円、ダブルズームキットが税別13万円という値付けになっている。すでに値段がこなれてきているM5よりも高いわけだ。

つまり4月の発売当初は、実売ベースではミドルレンジとエントリーが逆転している状況になることが予想される。M6も時間が経てば販売価格が下がってくるのだろうが、こうした値動きの仕方は方法論としてちょっと古いのではないかという気がする。

つまり販売店が値下げした価格でも利益が出るということは、卸値がそれだけ下がってくるということなのだろうか。量産効果により製造コストが下がるので当然かとは思うが、消費者としては早く買った者ほど損をしたような気になるというのでは、健全とは言えないだろう。

 

今年の見所は…

キヤノンの春の商品戦略は、エントリー強化という方向だということがわかった。昨年は上の方を頑張ったから今年は下の方、という順番理論で片付けられそうではあるが、昨今のデジカメ市場低迷からすれば、すそ野を新たに広げる、あるいは買替え需要を煽るといった戦略なのだろう。

今年2017年のデジタルカメラ市場は、キヤノンによれば昨年より微増という予測がなされている。だがそれほど楽観的な要素は、今のところ見つけられないというのが正直なところだ。

そんななか今年は、EOSブランドの登場から30周年の節目にあたる。加えてキヤノン創業80周年の年である。そんな大事な年に、去年のスペックを継承したエントリーモデルを出して終わり、というわけはないだろう。

今年は満を持して新シリーズ、あるいはハイスペックの記念モデルの登場もあるのではないだろうか。今年の夏から秋以降、キヤノンの動きに注目しておきたい。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2017年2月17日 Vol.116 <進歩の階段号> 目次

01 論壇【西田】
 VRにおける「技術実現レベル」を無想する
02 余談【小寺】
 岐路に立つデジカメ、勝ち組キヤノンの戦略
03 対談【西田】
 BuzzFeed Japan・古田大輔編集長に聞く「信頼されるウェブメディアの作り方」(4)
04 過去記事【西田】
 音声認識はネット連携で花開く
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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