津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

津田大介×石田衣良 対談<前編>:メルマガは「アナログ」なメディアである

津田大介メールマガジン「メディアの現場」vol.184より

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特別対談:津田大介×石田衣良

(津田大介氏より)
池袋のすぐ北側に隣接する東京都北区滝野川というところの出身だったので、大学に入るまで、遊び場といえば池袋が基本でした。なので、石田さんの代表作『池袋ウェストゲートーパーク』は特別な思いで読んだことを覚えています。石田さんのことは、テレビなどで拝見して、話や視点が面白い人だなと思っていたのですが今回夜間飛行さんから「対談しないか」というお誘いを頂き、対談させてもらいました。人にメルマガのアドバイスをすると、自分のメルマガを見つめ直す良い機会にもなりますね。ほかでは読めないであろう、僕と石田さんの対談をぜひお楽しみください。
 

※2015年7月からスタートした石田衣良さんのメールマガジン『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』はこちらから購読できます。





 

『ビックリハウス』のようなごちゃまぜ感を出したい

津田:創刊号、拝読させていただきました。第一印象は、「すごく盛りだくさんだなぁ」と。いきなりフルスロットルであの量を毎週書いていたら、石田さんの体力的にも、ネタ的にももたないんじゃないと思ったんですが(笑)。

 
石田:僕のメルマガは隔週配信ですから、作業量としては何とかなるかなとは思ってます。今のところ、しんどいというよりは、書いたり、企画を考えるのがとにかく楽いです。だから、どんどん内容が増えていってしまうんですよ。昔は、『ビックリハウス』とか、個人の責任編集の雑誌が結構出ていたじゃないですか。僕のメルマガも、ああいう感じで、面白くてヘンなネタがとにかくごちゃまぜに入ってるみたいものにしたいと思っているんです。

 
津田:『ビックリハウス』懐かしいですね! 石田さんの創刊号は、確かに個人雑誌的で、時事ネタから小説まで、いろんなコンテンツがあって読者を飽きさせないつくりになっていると思いました。Q&Aだけをとっても、恋愛から仕事の相談まで、切り口が多彩で面白い。さすがだなと思いました。実は僕も力一杯盛り込みたくなるタイプなんで、どんどんコンテンツが増えていってしまう気持ちはよくわかります。どうせやるなら読者に喜んでもらいたいですからね。

ただ、やっぱり毎号精一杯出し切っていると、どこかで辛くなる時期がくる。メルマガは大事だとしても、そのほかの仕事もあるわけですし。その時に、無理をしていると結局、「読者に納得をしてもらえるものが作れない!」という状況に陥ることもあると思うんです。それは本末転倒で、読者に対する裏切りにもなってしまう。

だから、僕はある時期からは、とにかく無理をせずに、サステナブルに一定のクオリティを保ったまま提供し続けるということを第一に考えて、メルマガを出すようにしていますね。石田さんの読者も、きっと長く読み続けたいと思っていると思うんです。だから、例えば、紙の書籍のための連載をメルマガに掲載するとか、うまく「今までの仕事」とリンクさせる形で、ただ単に仕事の負担が増えるという状態は避けたほうがいいと思います。

 
石田:なるほど。津田さんは、紙の読者とメルマガの読者と質的に違うと思いますか?

 
津田:違うと思いますね。メルマガはやっぱりファンクラブに近いところがありますから、読者との適度なコミュニケーション感が重要で、紙の書籍よりも、さらに近い距離感を読者との間に築く必要があると思っています。だから、メルマガの連載をまとめて本にするときも、見せ方とかは直したりして、工夫しています。もちろん、紙と似ている部分もあります。これはメルマガを出している中で、気づいたんですけど、メルマガってネットで決済と登録を済ますので、デジタル的な媒体だと思いがちですよね。だけど、実はとてもアナログなメディアなんです。
 

石田:面白いなぁ。どのあたりがアナログなんですか。
 

津田:マネタイズが成功している紙メディアの代表って新聞ですよね。部数は落ちてきているといっても、読売や朝日は、まだ600万から900万部くらい毎日発行している [参考:日本の新聞業界にネットの嵐—止まらぬ部数減/新聞の発行部数と世帯数の推移] わけです。以前ある新聞社が「今の時代、情報を得ようと思えば、ネットでいち早くとれるのに、なぜわざわざ購読料を払ってまで、新聞をとるのか」という調査を大々的したらしいんです。すると、いくつか理由が挙がった。「記事の質が高いから」とか、「この新聞の経済の記事に興味があるから」とか。

でも、「なぜ新聞を購読しているのか」という理由で断トツに多かった項目があるんです。それは、「ただ何となく」「習慣だから」だったんです。つまり、水とかテレビとか電気と同じように、ある種の層──ほとんどは高齢者でしょうけど、そういう人たちにとっては新聞を契約しているの状態が日常に組み込まれているんですね。ちなみに、「我々はネットと違って質の高い情報を出しているから、その情報を求めて購買されているんだ」と予測していた新聞社は相当この結果がショックだったらしく、「この結果は公表できない」ということで、調査結果はお蔵入りになったそうです。

これって僕は笑い話として済ませるものではなくて、ビジネスとしてとても大事な示唆が含まれていると思うんです。実は、メルマガというのは、他の有料サービスとくらべて、解約率が低いんですね。人気のあるメルマガだからといって、購読者が一気に増えるということもないけれども、解約をする人は少ない。メルマガを解約するのが面倒だということもあるのかもしれないけれど、「この人に興味があるから、習慣的に記事を読みたい。そのことに多少のお金を払うことは厭わない」という人が多いのも事実だと思います。そうであるなら、発行者のほうとしては、とにかく「習慣化」するように、コンテンツ内容も発行形態も工夫していくべきだと思うんですよね。

メルマガを「デジタル出版」だと思って、Kindleダイレクトパブリッシングみたいな、電子書籍での直販を思い浮かべる人は多いと思うんですが、むしろメルマガが参考にすべきは、新聞のように読者が毎月購読することで習慣化していく媒体です。

メルマガは、受ける人の日常に入り込むんです。小説を買って読んでもらおうとすると、読者からかなりの時間も手間ひまも取ることになる。その点、メルマガはもっと気楽に読んでもらうものなのかもしれません。でも、ただ読みとばすためのものということでもなくて、読んだあとに、「そうか、そんなおもしろいことがあったんだ。こんな考え方があるんだ。気づかなかった」と感じてもらえるものにする。そういうものが定期的に届けられるメルマガであれば、読者に受け入れられるんだと思います。

 
石田:僕も、紙の書籍とメルマガの違いについては、津田さんのをはじめとしてたくさんのメルマガを読んで、いろいろ考えてみたんです。まず、メルマガの世界は、小説の世界とはあきらかに違うんです。小説の世界では、ひとつの世界観だったり、大きなストーリーだったりを、バーンと読者に渡すんですよね。

でも、メルマガは断片的です。切り分けられた情報を読者に提供する。さらに、小説であれば、読者が注目する先は、「作者」よりもやっぱり「作品」です。でもメルマガの場合は、作者のパーソリティが注目される。今、津田さんは、「メルマガはファンクラブに近い」と言ったけど、そういう側面はあるんだろうなと思う。

それから、昔から不思議な存在だなと思っていたことなんですけど、テレビのコメンテーターって、日本にしかいないんですよね。海外では、専門家を呼んで、そのことだけを話して帰ってもらう。でも、日本では違う。有識者というか(僕はこの言葉はあまり好きじゃないけど)、いわゆるある程度のことをいろいろと知っているとされている人たちが、社会で起きた事件や政治・経済についてどう思うかを話す。視聴者は、その反応のしかたを見る。

つまり、コメンテーターというのは風見鶏で、テレビの視聴者はその風見鶏を見たがっているわけですね。それで、ネットの中でも、この風見鶏の仕事って求められている気がするんです。世の中で起きていることの、風向きや風力を伝えることには、意味があると思う。それを僕はメルマガの中でもできるんじゃないかって思うんです。

 
津田:確かに、石田さんのメルマガのコメンテーターのコーナーは面白かったですね。コメンテーターって、ちょっと見下されがちですけど、まったく予想もつかないことが突然降ってきても、意味のあることを話さなきゃいけないから、すごく難しいんですよね。これは僕のメルマガのQ&Aと近いなと思ったんですけど、石田さんのメルマガのQ&Aでは、石田さんの趣味を聞くようなパーソナルな質問だけではなくて、「このニュースについてどう思いますか?」なんて質問もありますよね。そういう時事問題についてのどうやって考えたらいいのかを知りたいという欲求はあるんですよね。

 
石田:Q&Aというコーナーは、メルマガ特有ですよね。ほとんどのメルマガにあります。それも人気コーナーになっていることも多いみたいです。あれはきっと、「サイン会」「握手会」なんですよね。サインをしたり、握手したりする時に、直接自分の相談を聞いていてもらうみたいなイメージなんだろうと、今は考えています。サイン会で、サインを書いている間の60秒くらい、ちょっとだけ話をする時間があるじゃないですか。その時に、「同棲していた相手と別れて部屋を飛び出してきたんだけど、これからどうしましょう」みたいなことを言われるんですよ。あの感じかなと。

 
津田:そうですね。やっぱり、コミュニケーションを求めている人は多いですね。「コメンテーターのコメントを聞きたい」というのも、「その人を通して見える世界が知りたい」という気持ちもあると思うんです。もちろん、小説にも同じような側面はあると思いますが、メルマガの場合は、小説よりもよりダイレクトな「著者との接続感」を求められている気がします。
 

出版業界に対する危機感があった

石田:お会いした時に、ぜひお聞きしたいと思っていたことがあるんです。津田さんがメルマガをやろうと思ったのは、何がきっかけだったんですか。

 
津田:まず背景からお話ししますね。僕がメルマガをはじめたのは、2011年の9月でした。その頃はちょうど、ツイッターがブームだったんですよ。有料メールマガジンは90年くらいからポチポチ出始めていたんですが、人気があるものは、株やFXの儲け方とかナンパ術といった、アングラ色が強いものが中心でした。そこにツイッターが出てきていた。そのツイッターのブームに乗る感じで、「ツイッターで発信力のある人が発信する中身の濃いコンテンツをツイッターよりも先に見たい」という期待が高まって、これまでとはちょっと違った有料メールマガジンが流行ってきたんです。

それで2010年ごろから堀江貴文さんや上杉隆さんといった方が、ビジネスやニュースについて書いた有料メールマガジンで多くの読者を獲得するようになっていきました。そこから、健康や趣味などさまざまなジャンルのコンテンツもメルマガ配信されるようになっていったと。それで僕も2011年から始めたんですね。

それで、僕のメルマガ『メディアの現場』は配信するにあたって3つのコンセプトを決めました。一つは、とにかく、テレビや新聞では読めない記事を提供するということです。僕はそもそも文章力で勝負するタイプの書き手じゃないので、いわゆるマスコミが目をつけていないところを取材して、それを読んでもらおうと。情報の希少性にこだわったということですね。

もう一つは、自分の考えるウェブ・メディアを作るための資金作りのためにやるということにしました。こうしたことは、普通、読者には言わないことかもしれませんが、僕はむしろ前面に出して宣言しました。クラウドファンディングのように、活動の目的をはっきりさせて、そこにお金を払ってもらうイメージですね。

それから、ツイッターをはじめとしたSNSを使って、読者の感想をどんどんRTすることで、「みんなで読んでいる感じ」を出していこうとしました。バーチャル読書会とでも言いましょうか。

あとになって、メルマガの購読者に「なぜこのメルマガを購読していますか」というアンケートを取ったのですが、読者の購読理由はきれいに3分の1ずつにわかれていたんです。もちろん人によっては重なる部分もあったと思いますが、この3つのコンセプトのどこかに反応してくれた人が購読に踏み切ってくれたということで、コンセプトを欲張りすぎたかなとも思っていた僕としては、ホッとしました。

 
石田:そういう意味では、僕がメルマガをはじめた理由は、一つですね。出版の世界に対する危機感です。今、出版の世界は市場が急激に縮んでいます。誰が見てもそれはわかる。街の本屋さんはどんどん潰れていっているし、潰れないまでも、雑貨屋みたいになってきている。本屋さんは雑貨屋さんになればいいのかもしれないけれど、出版社や僕ら作家は、それじゃあダメです。

例えば、新本格系ミステリーの作家さんで凝ったトリックを書く人がいたとします。固い読者はいるけど、3000人。今の状況で、本を出すのがギリギリですよね。こういう人が本を出せなくなってきている。でも、出版界の中の人は、ほとんど打つ手を持っていない。あきらかにスマホがメディアの王様になって、「本」というものの注目度が下がってきているのに、その打開策は出版界にはない。それで、「じゃあ、そのスマホの世界で僕ができることは何か」って考えた中で、「有料メルマガ」が一つの選択肢として出てきて、今回始めることにしたんです。

例えば、3000人の読者がついている作家を5人集めて、毎月短編を掲載する。その人たちにもちゃんと原稿料を払って、彼らの生活の基盤を確保した上で、作品を発表する場も提供することができる。いつか本にもなる。もちろん、そういうニッチな作風を好きな読者のためにもなります。そういう形にできるまで、なんとか自分のメルマガを育てていきたいなと。

夜間飛行の井之上さんに聞いたんですけど、夜間飛行は今創立4年目で、創立2年目で黒字になったそうなんですね。ということは、メルマガで読者を獲得するのは、無理筋ではなかったということですよ。本来であれば、大手の出版社がお金を出し合って、有料メルマガプラットフォームを作ってもよかった。大手からすればなんでもないくらいの規模のお金でできたことなのに、どこも動かなかった。

 
津田:文芸系の編集者の多くは、作家と密に関係を作って、作家が望んでいるテーマについてアイデアを出したり、書く環境もきちんと整えるということが、基本的な仕事ですよね。だから、企画ごとに、読者にどういう形で届けるかといったところから、考え直す習慣がないんだと思います。

 
石田:そうですね。雑誌に連載して、書籍にするか、書き下ろしで原稿をもらって書籍にすることが前提になっているので、それを取り払って企画を考えることがない。そこがもう最大の問題点だと思います。今、津田さんがとてもオブラートにくるんで言ってくれた大手出版社の編集者の仕事は、実は売れてる作家にいかに取り入って、どんなものでもいいから原稿をひっぱってくること、それだけなんですよ、今は。

出版界全体を見渡して、「次の10年の新しい柱をどう作るか」「スマートフォンで新しい市場をどう作ろうか」なんてことを考えている人は本当にいない。「新しい連載をどうしよう」とか、「誰々から原稿をとってくる」とか、そういう話しかしていない。そこが出版業界の一番しんどいところで、そういう状況を打破するきっかけになれば、という気持ちもあって、メルマガを始めたんです。
 
 
(以降、対談<後編>:「コミュニケーション」が「コンテンツ」にまさってしまう時代にに続きます。

 

《この記事は津田大介の『メディアの現場』からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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