やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ネットメディア激変の構図とサブスクリプション問題


 このところ、ネットメディアにおいてイベント(セミナー)とサブスクリプションモデルで読者を囲い込む動きが強まっておりまして、ビジネスパーソンメインのNews Picksを筆頭に古き良き月額会員誌のような動きをしているのは興味深い現象です。事業として黒字か赤字かは別として、コンテンツ力が勝負で浮き沈みの激しいメディア運営において、そのメディアを定常的に応援してくれるファンの可視化と固定化で経営を安定せしめるというのは実に優れた方法ではあります。

 実のところ、地方新聞というのはそういう地域に密着したニュースを提供する月額課金モデルと言えなくもありませんし(全国紙はつい最近まですべての読者データを販売店さんに握られてしまっていたという点で、転換が大変でしたが)、文芸春秋やダイヤモンドなどもサロン、クラブ経営をずっと続けてきておりました。定期購読の仕組みに、もう少しお金を払ってもらえる仕組みを作る、というのは紙メディアの定番であり、旧日経BP社がマグロウヒルモデルを実現した背景も「読み手のリスト化」とマーケティング対象にできるほどの十分な読者層の確保という難題を解決していたために可能であったとも言えます。

 一方、ネットメディアは無料であり広告収入を母体にして「とにかく読まれることを求める仕組み」へと進化していき、以前メルマガでも解説しましたがヤフージャパンの登場は非常に画期的なことでありながらも、メディアとしては常に無料へ、あるいはより安い方向へ読者が流れていかざるを得ません。ヤフージャパンも途中でその愚に気づいて有料課金モデルへの転換を果たそうとし、またコンテンツ売りのプラットフォームとしての機能を拡充していましたが、少なくとも現段階のヤフーニュースを見る限りスマートフォン市場への浸透は無事成功し生き残り以上の成果を得たもののコンテンツ事業者としては厳しい情勢であることに変わりはありません。

 必然的に、大手全国紙各社は、産経新聞を除き自前のシステムで定期購読&オンラインで読み放題の月額課金を行う方向で引きこもってしまいました。ここ2年ぐらいの展開ですが、まともにうまくいっているのは日経電子版で固定客の置き換えに何とか成功しつつある日経新聞社とブランド力で勝る読売新聞社ぐらいのもので、それ以外のところはなにか始めては失敗し、それごとに意欲ある人物が他社に流出し… を繰り返しているようにも見えます。

 翻って、ネットで頑張っている専門向け媒体は評価ビジネスと広告を結び付けたり、愛好者向けの物販サイトの併設などで運営費を確保しながら成長していこうという流れがメインストリームになりつつあります。その情報を知りたい人は、その周辺で生きている人ですから、彼らのために情報だけでなく商品やサービスを売るというのもまた主たるファンクションの一つであり続けたわけです。そういう専門性を持たないメディアは、どうしてもアクセス数を稼ぐために芸能ネタをやり、スクープ解説をし、常に後追いでメインとなる話題をフォローしながら読者層を確保してブランドを維持するしか方法が無くなっているのもまた事実であろうと思います。

 昔は駅売り(鉄道弘済会など)のキオスクでの雑誌販売が、いまはコンビニエンスストアでの販売が雑誌販売の主戦場となる状況で、その主たる販路である駅売りが沈没、コンビニも店入り口付近の雑誌売り場をイートインスペースに転換してお客様の時間を稼ぐ方向へシフトしたのも、ネット経由の情報配信が古き良き紙媒体でやってきた各種サブスクリプションモデルを壊してしまっているからに外なりません。文春や新潮のような定番週刊誌ですら、あれだけ連発するスクープでも定期購読が増えなくなっている現状があるのです。まあ、定期購読があるよという広告宣伝に力を入れていないからというのもあるのですが、良質なコンテンツをどれだけ提供しても、その売り上げは一過性のものであり、スクープが取れない谷間の時期は雑誌も売れない、サイトにも人が来ないという状況をどうやって埋めていくのかは至難の業です。

 とりわけ、週刊誌は一つの大ネタのキャンペーンは、それこそ一か月ぐらい引っ張れたものが、いまでは話題が持ちませんから、ドーンと打って、相手が変な反論をしてきたら二の矢を打って、というレベルでしか引っ張りようがないわけです。それもこれも、一度ドーンという記事を打つと、ネットメディアが一斉に後追いをして周辺を掘り尽くしてしまって読者の興味本位な熱量をすぐに喰ってしまうことが大きい。だからこそ、この界隈の破壊的なイノベーションは必ずしも読者のためになっていないのだろうと思うわけであります。

 次回のメルマガでもAmazon Unlimitedやdマガジン問題について触れつつ、ちょっとネットメディア異変については継続的に書いていきたいと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.243 ネットメディアが迎えつつある大きな変わり目を見つめつつ、日産ゴーン問題や最近のAI動向などを取り上げてみる回
2018年11月30日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】最近「オタク叩き」の論調がエクストリーム化して理解が非常にむつかしい件
【1. インシデント1】「それはお前の仕事じゃない」対GAFA聖戦を主張する不思議な業界カルトの雰囲気
【2. インシデント2】ヤフーとドコモが「芝麻信用」的な信用スコアビジネスへ参入する件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

教育としての看取り–グリーフワークの可能性(名越康文)
古い日本を感じる夏のホーリーウィークを満喫する(高城剛)
集団的自衛権を考えるための11冊(夜間飛行編集部)
新「MacBook」を使ってみたらーー「ペタペタ」キーボード礼賛論(西田宗千佳)
ママのLINE、大丈夫?(小寺信良)
夏休み工作、今年の「音友ムック」はQWT型!(小寺信良)
「爆買いエフェクト」と沖縄が抱えるジレンマ(高城剛)
アーミテージ報告書を読み解く――日本は二等国でいいの?(やまもといちろう)
腸内細菌のケアを心がけたい梅雨の季節(高城剛)
人生に一発逆転はない–心の洗濯のススメ(名越康文)
東京と台北を比較して感じる東アジアカルチャーセンスの変化(高城剛)
NYの博物館で出会った「カミカゼ・エクスペリエンス」(川端裕人)
総務省家計調査がやってきた!(小寺信良)
YouTubeを始めて分かったチャンネル運営の5つのポイント(岩崎夏海)
「道具としての友人」にこそ、友情は生まれる(名越康文)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 756円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ