名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)より

「親友がいない」と悩むあなたへ

※名越康文メールマガジン 生きるための対話より

とある調査によると、今の高校生・大学生は友人が平均100〜150人もいるそうです。一方で親友と呼べる友人が1人もいないと悩んでいる若者も少なくありません。友達が多いけど親友がいない人と友達は少ないが親友がいる人とどちらが幸せなんでしょうか。(編集部より)

高すぎるハードル

「友達はたくさんいるけど、親友はいない」とか「友達は少ないけど、親友はいる」というけれど、「友達」や「親友」をどう定義づけるかによって話が変わってきますよね。

僕の感覚では「友達が150人います」って、ありえないんですよね。「友達」というからには継続的な関係でしょうし、ある程度の親密さを維持しようと思ったら、時間的にも空間的にも、せいぜい数十人が限界じゃないかというのが、僕の感覚です。でも、例えば「顔見知り」レベルの相手を「友達」と呼ぶのであれば、100人でも200人でも「友達」を作ることは可能かもしれませんね。

逆に、「私には親友が一人もいないんです」という人は、「親友」に求める親密さのレベルをめちゃくちゃ高いところに上げている可能性があります。若い人の「親友がいないんです」という悩みを聞いていると、誰かを「親友」と呼ぶときには、やたらとハードルを高くしているんだな、と感じます。例えば「何でも話し合える」とか「どんな問題も分かち合える」という基準を自分なりに作っていて、それをクリアできないと「親友」とは呼べない、という感じなんですね。

 

親密さを目的にしてはいけない

友人関係について僕が思うことは、「友達」であれ、「親友」であれ、おつきあいする相手との間に生じる「親密さ」は、目的ではなく、結果と捉えたほうが良い、ということです。月並みな言い方をすれば、「親友だから親しくする」のではなく「親しくおつきあいを続けた相手のことを親友と呼ぶ」ほうが、結果として友人関係はうまくいくんじゃないでしょうか。

親密さを「結果」ではなく「目的」にしてしまうことは、しばしば人間関係の火種になります。「友達だからこれくらいやってほしい」「妻ならこれぐらいのことは当然だ」という怒りが生じるのは、結局、「○○だったらこれぐらいのことはやってくれるはずだ」というハードルを勝手に作って、それで相手を判定する、ってことじゃないですか。そうやって親密さを目的にした人間関係って、結局怒りを呼び寄せることになるんだと思います。

確かに、人生の中で「あの人の助けがなければ、どうなっていたかわからない」という場面というのはあります。そういう意味では、人生の窮地を親友というのはピンチを救ってくれることもあるでしょうし、胸襟を開いて、腹蔵なく話しあえる相手だけを親友と呼びたい気持ちはわかります。でも、それはあくまで、長い時間おつきあいをした「結果」として、明らかになることだと思うんです。

 

「一緒にいて気疲れするか」を基準にする

親密さが目的ではなく結果だとすれば、僕らが友人関係で気を配るべきことは、「どうすれば自分が無理をせず、長くお付き合いできるか」ということじゃないかと思います。そのために必要なことは、「その相手と一緒に過ごすことで自分自身が辛くなっていないか」をチェックしておくことです。

友人関係で一番大事なことは、「一緒にいて心が休まる」ということです。社会が世知辛いものになればなるほど、一緒にいて、ホッと心が休まるかどうかが大切になってくる。

例えば二人っきりで丸一日一緒に過ごしていても、それほど気疲れしないというなら、僕はその相手を「親友」と呼んでも差し支えないんじゃないかと思います。別に「窮地を救ってくれた」とか「誰にも言えなかった悩み事を聞いてくれた」なんていう劇的な経験がなくても「一緒にいても疲れない」相手というのは、その時点で「親友」なんです。

逆に言えば、ほとんどの相手は、二人っきりになると気疲れしちゃうはずなんですよね。自分の友人、知人を思い浮かべてみてください。なかなか、二人っきりで丸一日過ごしても疲れない、という相手はいないんじゃないですか。たいていは「二人っきりはしんどいけど、数人で一緒にいるなら、それほど気を遣わずに楽しい時間を過ごせそうだな」というぐらいの相性じゃないでしょうか。そういう相手を、僕は「友人」と呼べばいいんだと思います。

そして、4-5人のグループで会っていても、どこか気疲れするとか「2時間ぐらいだったら大丈夫だけど、半日も一緒にいると何かと気を遣って億劫だ」というぐらいの相手は「知人」と呼べばいい。

身近な人間関係を「自分が気疲れするかどうか」で、親友、友人、知人に区分してみる。そうすると、親友にしても友人にしても、そうたくさん数え上げられる人というのは少ないはずです。そして、それはごく自然なことなんです。だって人間というのは一人ひとり違うし、「ともに居合わせる」ということは、それだけでも大変な心理学的テーマなわけですから。

「気疲れしない」というのは、一緒にいても自己イメージを壊されない、ということです。そんな相手はどんな人にとってもそれほど多くはないはずなんです。

 

自分が何を期待しているか

もしあなたが「友達がたくさんいるか」「親友がいるかいないか」ということが気になって仕方がないなら、自分のなかにどんな「期待」があるか、ということに目を向けてみると良いでしょう。そうすると、「友達」や「親友」がもたらしてくれる「見返り」を期待している自分に気づくことになります。「期待」があるからこそ、友達や親友がいないことに、不安を覚える。

でも、人間関係への過剰な期待は不幸の始まりです。これは恋人や夫婦、親子関係にも言えることですが、幸せな関係性というのは、ことさらに期待をかけないところから生まれるものです。

「期待するな」というとペシミスティックなように聞こえるかもしれませんが、僕は友人関係が幸せをもたらしてくれること自体を否定しているわけではありません。問題は、関係性そのものではなく、あなたの心の中にある「期待」なんです。

例えば映画を観に行くときを考えてみてください。宣伝や前評判で期待度が上がりすぎたために、実際に映画館に行った時につまらない思いをしてしまったことはありませんか。映画というのは、さほど期待せずに観に行った時ほど、楽しめるものなんです。

友人関係も同じです。別にネガティブな予測をする必要はありません。フラットに、日常の延長線上の中で友人や、親友とお付き合いする。そうすると、ちょっと仕草や言動によって、癒されたり、勇気付けられたりする。これが、友人や親友がもたらしてくれる幸せではないかと僕は思います。

親友や友人がいないと悩んでいる人ほど、「互いのすべてを分かち合える」「いつでも自分を頼ってくれる」といった妙な期待を相手に重ねています。でも、そういう期待は、あまり幸せをもたらさないんですよね。

そういう関係を築いていたら、長い人生の中では2時間、3時間と悩み相談をしてくれたり、本当に苦しい場面で助け舟を出してくれるということもあるでしょう。でもそれは、友人や親友であることの「必須条件」ではないのです。

 

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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