小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「USB-C+USB PD」の未来を「巨大モバイルバッテリー」から夢想する

小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2015年10月2日 Vol.052 <気分一新、秋の新発見号>より

 
この9月はとにかく移動が多かった。しかも仕事の量も多かったので、移動中にはできる限りの仕事をするのが基本路線だった。

いうまでもなく、筆者は普段からノートPCを持ち歩いており、メモや原稿執筆に使っている。ノートPCと書いたが、正確にはAppleのMacbookである。今秋、ちょっとした機器を追加したことで、移動時の仕事環境がけっこう変わった。そしてこの変化は、皆さんにも、あと1年もすればやってくるものだろうと思っている。その変化とはなにか? 実は、驚くほど当たり前の商品で起きたことだった。
 

巨大なモバイルバッテリーをMacbookで

きっかけは本当にささいなことだった。SNSで「cheero」という会社が、「Power Plus 3 Premium 20100mAh」というモバイルバッテリーを発売する、という記事を見たのだ。
 
・cheeroのモバイルバッテリー「Power Plus 3 Premium 20100mAh」
http://www.cheero.net/products/powerplus3premium/

この会社は、モバイルバッテリーやケーブルのビジネスで最近人気のところで、筆者も中の人にご挨拶したことはある。だが、別に深い関係はなく、このニュースも「へえ」と思った程度だった。今皿、モバイルバッテリーなど珍しいものではない。

だが、ふと思った。「このくらい容量があれば、Macbookの充電だってできるな……」と。

現在のMacbookは、電源に「USB-C」端子を採用している。周辺機器もここで繋がないといけないという、なかなかに驚きのシンプルさで、発売当時色々と物議を醸したものだ。現在も、「結局1端子であるのが面倒で、使うのを辞めた」という知り合いの声は耳に入ってくる。

USB-C、正確には「USB type-C」は、現在広く使われているUSBの上位規格に当たる。コネクタ形状も異なり、直接差し込むことはできないが、ケーブルなどで変換して使うことはできる。USBの機器をMacbookで使うときには、実際、アップルが標準オプションとして用意している変換コネクターを使う。

では、電源としてはどうか? 標準では、両端がUSB-Cであるケーブルを使い、USB-Cの接続端子を持ったACアダプアーを使う。だが、USBのフルサイズ(いわゆるtype-A・オス)のコネクターを片方に、もう片方をtype-Cにしたケーブルがあれば、理論的には、Macbookの充電も行えるはずである。そういう「type-A<>type-C変換ケーブルはいくつかのメーカーが販売しており、問題のバッテリーを販売しているcheeroも、同バッテリーのオプションとして売っている。

では、実際どうなのか?

つなぐのは簡単だ。いつものように、バッテリーとケーブルを繋ぐだけ。スマートフォンの代わりにMacbookが繋がっているだけである。

・cheeroの「Power Plus 3 Premium 20100mAh」をMacbookにつないでみる。使い方はスマホの場合と変わらない。

結論から言えば、「なんとかなる」というところだろうか。この裏には、USB-Cの仕様と実装の狙いが絡んでくる。
 

移動中に「カバンの中」で継ぎ足し充電

電源が入ってる段階、すなわち、Macbookを使いながらバッテリーにつないだ場合、充電はきわめてゆっくりとしか進まない。満充電までの時間が「22時間」と表示されたりする。実際のところ「給電」というのが正しい。

今のモバイルバッテリーでは、5V・2A前後の出力しか行われない。「cheero Power Plus 3 Premium 20100mAh」の場合、1ポートで最大3Aの出力ができるが、これでは、Macbookを充電しつつ動かすのは難しく、「給電」がせいぜいだ。

だが、電源が切れている(正確にはサスペンド状態で、カバンの中などに仕舞っている)時なら話は別である。消費電力が小さいので、きちんと充電が進む。

海外出張でイベント取材をする時は、取材からの取材への移動時間が長い。「ブースからブースへの徒歩移動」や「立っての取材」も多い。後者2つの場合、Macbookを開くことはなく、カバンの中に入れっぱなしだ。カバン内にモバイルバッテリーがあり、その時につないでおけるなら、Macbookの充電に使える。

この場合も、充電速度は速くない。満充電までは4時間半かかる。やはり出力が足りないのだ。

だが、それでもいい。1時間、カバンの中に入れたまま取材や移動に費やした場合で、実際、4割程度追加充電ができた。全体の動作時間を満充電時の4割、およそ3〜4時間のばすことができたわけで、納得できる範囲と言えそうだ。特に今回は、移動中に電源タップを確保するのが難しい状況に置かれやすかった。継ぎ足し充電できたのは、精神衛生上とても良い。
 

来年には出そうか? USB PD対応機器

計算してみれば当たり前のことで、これらは筆者にとっても予想の範囲内だった。だが、便利に感じたことに変わりはない。

そもそも、Macbookのバッテリー容量は大きく、約39.7Whと、一般的なモバイルバッテリー(5V・2000mAhから4000mAh程度)では満充電にできない。cheeroのPower Plus 3 Premium 20100mAhは、20100mAhと文字通り桁違いの容量が大きかったので使えたわけだ。その分重量も375gと重い。普段持ち歩くには大きすぎるだろう。

だが、取材中はカメラやモバイルルーター、スマホなど、バッテリーが切れては困る機器をたくさん持ちあるいている。このくらいの容量でカバーできるなら御の字だ。

別のアプローチとして、ノートPC自体を大型のものにして、そこに背負っているバッテリーでカバーする、という方法論もありはするのだが、大柄でバッテリー容量に余裕があるPCは、そもそもバッテリー持続時間が持たないか、Macbook+モバイルバッテリーよりも重い。

スマートフォンで当たり前のことがノートPCでできるようになるのが、USB-Cの良さだ。

実は、まだ今回はほんの序の口である。

USB-Cは仕様上、電圧と供給電力が可変になっている。充電器やバッテリーと本体側に通信チップを入れ、それらが「どちらからどちらへ、何V・何Aで供給するのか」をコミュニケーションした上で、充電をスタートするのが本来の形だ。これを「USB Power Delivery(PD)」と呼ぶ。現状、USB PD対応ではないため、効率の悪い5V給電となったが、USB PD対応機器が出てくれば、12Vなどで充電を行い、もっと素早く使えるようになる。無理に電流を上げるのではなく、規格で定められた方式で充電するようになるので、安全性の面でもプラスだ。

9月30日未明に発表された、Googleの次期開発者向けスマートフォン「Nexus 5X」「Nexus 6P」では、コネクターにUSB type-C(USB-C)が採用された。こうした機器が増えると、モバイルバッテリーや充電器も、USB-C+USB PD搭載のものが増えていくだろう。そのためのパーツが現状では高く、選択肢もなかったことから、USB PD対応製品はまだ少ない。しかし、いくつかで揃いつつある、とメーカー筋からは聞こえてきているので、来年春くらいまでには、環境も見えてくることだろう。

ノートPCでもタブレットでもスマートフォンでも、「充電する」ためにコンセントを探す日々は、あと数年でずいぶん様変わりしてくるのではないだろうか。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

10月2日 Vol.052 <気分一新、秋の新発見号> 目次

01 論壇【小寺】
 ビュンビュンかけるEl Capitanのライブ変換
02 余談【西田】
 「USB-C+USB PD」の未来を「巨大モバイルバッテリー」から夢想する
03 対談【小寺】
 Macプログラミングの歴史を紐解く (3)
04 過去記事【小寺】
 「4Kっているの?」プロとコンシューマの温度差
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
 
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筆者:西田宗千佳

フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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