小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

ライドシェアの本質をアメリカで見た

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年10月12日 Vol.192 <未来をコントロールする号>より

読者のみなさんもご存じの通り、西田はこの9月、ほとんどの時間をアメリカで過ごした。自動車の免許もないので、移動はもっぱらUberやLyftなどの「ライドシェア」に頼るのが通常だ。

ただ、今回はちょっと違っていた。

まず、短距離については「電動スクーター」「電動自転車」のシェアリングを使った。筆者が使ったのは「Lime」というサービス。スマホアプリと連動し、街中に乗り捨てられているLimeの電動スクーターや電動自転車を借りる、というものだ。Limeは日本のクレジットカードを使って簡単に登録できるため、利用のハードルが低い。スマホさえあれば、「歩いて10分から30分までの距離(=電動スクーターで約半分)」については、1回数ドル以内で移動可能になる。ライドシェアを依頼するより気軽で、安価なところがいい。
 
・今回使った「Lime」の電動スクーターと電動自転車。どちらも同じアプリで使える。サンノゼでは電動スクーターを、シアトルでは電動自転車のお世話になった。

乗り捨てが景観を汚す、街中をそれなりのスピードで走るので危ない、などの問題はあり、諸手を挙げて支持されているサービスではないのだが、正直旅行者にとっては、快適で安価な良いサービスだと思えた。今後世界中で似たサービスが使えるなら、旅行時の移動は本当に楽になる。なんとかいい落としどころが見つかればいいな、と思っている。

だが、こちらは6月に長期間渡米した時にもチェック済みだったので、そこまで新奇性はなかった。

今回驚いたのは、ライドシェア、なかでもLyftの進化ぶりだ。

9月に行ったアップルとOculus(Facebook)のカンファレンスでは、取材移動の足として、両社がLyftの利用クーポンを配っていた。

アップルやOculusが関係者に配るのは初めてだと思うが、こうしたシステムは以前からあったものだ。たいてい、「期間中は○○ドル分の乗車が無料に」といった形式のクーポンである。とはいえ、そういう配り方をするところが多かったわけではない。単なるクーポンなので、その会社と関係ないところで使われる可能性もあるからだ。管理はできないものの、飲みにいくのに使われちゃたまらない、というのが正直なところではないだろうか。

だが、今回のクーポンはちょっと違っていた。

なんと「出発地や到着地が固定」のクーポンだったのだ。以下は、実際の画面である。特定のエリアが指定されていて、そこを発着とする形でしか有効にならないのである。これだったら、クーポンを無駄遣いされる危険性もかなり減る。使う側も安心して使える。
 
・クーポンを使う場合、ピンクのエリア内だけが有効になる。このエリアは当然、クーポンごとに異なっている。

なぜこういうクーポンが登場したのか、詳しいことはわからない。だが、最近Lyftが始めたものであるようで、おそらくは、Lyftが大きなイベントを主催する企業に売り込み、使ってもらっているのだろう。相当なディスカウントがあっても不思議はない。

Lyftも上手い手を考えたものだ。この仕組みが定着すれば、ライドシェアでシャトルバスなどの業務用交通の需要すら奪える。バスを仕立てて管理するより、ライドシェアの方が安くつくし便利、という発想だ。

こういうコントロールができるのも、システムの柔軟さがあってのことだ。

「ライドシェアって、要は白タクだろう?」という発想は捨てたほうがいい。システムによって配車をコントロールすることで、公共交通を大きく変えられる、というのが、ライドシェアが生み出した変化の本質だ。

このことを、日本のタクシー会社はもっと真剣に考えた方がいいのではないか。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年10月12日 Vol.192 <未来をコントロールする号> 目次

01 論壇【小寺】
 2030年を考える
02 余談【西田】
 ライドシェアの本質をアメリカで見た
03 対談【小寺】
 「テレビメディアをガラガラポン」は成功したか (4)
04 過去記事【小寺】
 スマートホームは現実になるか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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