高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

土建国家の打算に翻弄される南アルプスの美しい山並

高城未来研究所【Future Report】Vol.524(2021年7月2日発行)より

今週は、南アルプスにいます。 

長野県、山梨県、静岡県に跨って連なる赤石山脈(通称:南アルプス)は、日本第2位の高峰である北岳や、山脈名の由来である赤石岳など、9つの険しい山々が連なる自然豊かな地域です。

美味しい水の産地としても有名で、白州町は「南アルプスの天然水」やウィスキー「白州」の採水地としても知られ、そのまま地域や町名がブランドになっていますが、ここに美味しい水があると知っていのは、なにもサントリーだけではありません。
誰より早く、この地にある美味しい水を知っていた人たちがいます。
それが、縄文人です。

丸木舟に乗って海洋から多摩丘陵の突端に到着し、そこから多摩川や相模川を遡上して内陸に入り込んだ縄文人(スンダランド人)は、かつて海面が急上昇し、住んでいた大陸を失った経験から山岳信仰となり、また、自然の恵である動植物と美味しい水を求めて内陸に向かい、この周辺から諏訪一帯にかけて(富士眉月弧)、縄文の王国(あたらしいスンダランド)を作りました。
いまも、この地で発掘された縄文文化には、南方的な要素が色濃く示されておりましたが、寒冷化と共に王国は散開。
日本の古代は、ここから各地へと流れ出したのです。

映画「もののけ姫」は、この地を舞台にした作品であり、近年、豊かな生態系を保全し、自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域としてユネスコ・エコパークにも登録されました。

ところが、この南アルプスの土手っ腹に穴(山岳地帯の地下400メートルに10.7キロを貫通するトンネル)を開けようとしているのが、JRが推進するリニア中央新幹線です。
2019年、JR東海にとって最も採算性の高い直線の「南アルプスルート」建設工事をめぐって、太古から連なる美しい自然や静かな居住空間が失われるとして、南アルプス市の住民がJR東海に対して、工事の差し止めなどを求める訴訟を甲府地方裁判所に起こしました。 
裁判は、いまも平行線が続いています。

また、南アルプスがまたがる静岡県側では、川勝県知事が「ルートや開業時期は、JR東海の企業としての都合」と何度も繰り返し、「大井川水系に影響が出ることを懸念する」と述べ、「静岡にメリットがない」のであれば「ユネスコのエコパーク指定を受けた南アルプス地域とリニア新幹線なら、静岡はエコパークを取る」と、ハッキリ名言していますが、知事の言う「メリット」とは、経済的メリットを主に述べているようにも聞こえます。

2027年の開業を目指すJR東海リニア中央新幹線が完成すれば、現在、東京ー名古屋間90分が40分へと短縮(最高速度が500km/h)。
総工事費10兆円近い本プロジェクトは、オリンピック後、我が国最大の土木事業となります。
果たして、着地点はどこかにあるのでしょうか?

本件もオリンピック同様、変われぬ「土建国家」として、なし崩し的に進んでいくんだろうな、と南アルプスの美しい山並みを見ながら想う今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.524 2021年7月2日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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