やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

2023年は「人工知能」と「公正取引」の年に


 クソ円高担ってみたかと思えば黒田サンタの上限金利引き上げプレゼントで一気に円が買われて揉み合っており、まあまあ黒で収まって良かったなと思う日々であります。

 相対的に見れば2023年は日本は世界的に高成長を実現するにせよ、それは今年しゃがんでるからであって、大量の経済対策予算をばら撒いたけど税収は6兆円しか増えなかった問題と並んで「来年以降の社会はどうなるんや」というのは非常に重い問題となりました。

 というのも、日記を読み返してみると2019年ぐらいまでは「来年はこれをしよう」「こんな1年にしたい」という割と前向きな単語が並んでいる一方、コロナになって、さらに世界的なサプライチェーンが細り、おまけにまあまあ米中対立の最前線に日本が立つようになると「あれをしなくては」「これをやらねば」という話と共に、いままでお付き合いもなかったようなところから声がかかり「知恵を出せ」という無理難題がやってくるとどうしても後ろ向きなことも携わらねばならなくなります。

 思い返せば、仕事で多用にしていた12年前、ちょうどカプコン社を辞めたゲームクリエイター氏や海外CPさんとの取引拡大の際に次男が生まれ、また、高齢の親父もいよいよ引退だとなり山本家家業を本格的に継承するぞというときに「やりたいことができなくなる、ワイは不幸だ」と思っていた以来のことです。結局なんだかんだセミリタイヤした後も楽しく日々を過ごしているのは性格のゆえでしょうか、健康も含めて運が良かったからでしょうか。

 で、50歳目前となり相応にジジイとしてレーダーを磨く仕事にも精が出るところ、身の回りで本当に意味のある仕事とは何か、価値を生むとはどういうことかをよく考えるようになりました。技術革新は著しいし、世界的な景気低迷を前に野放図で自由なインターネットの世界観が終わりを告げ始めても次なるものは何かを模索することの重要さは消えません。いろんなテクノロジーに投資をしたり、あるいはそういうプレイヤーとご一緒する機会がある中で思うのは、本質に近しいところでの技術革新は、概ね「計算量の多いところ」「効果的に価値を生み出す仕組みを持っているところ」に偏在しているように思います。中でも人工知能については単なる流行語で終わることなくインターフェイスから価値創造のところまで広く必要とされる普遍的なツールへと深化していっており、もはや活版印刷やNC旋盤にも近いコモディティ的な代物になっていくと考えています。

 ただ、CADAMができれば工作機械は動かせるモノの世界と異なり、3Dプリンター関連であれマンマシンインターフェイスであれ社会分析であれどの分野でも効率よく何かを運ばせるために計算量が必要という世界観へと変わっていき、そこの中でよりよく人工知能を扱える人が課題を設定し教師データを作るためのクレンジングができるという状態ですので、昔でいう鉄砲鍛冶や鉄道技術者にも匹敵するコア技能へと進展していくことは間違いないと思うのです。

 他方で、自動運転の停滞や航空宇宙の活用限界なども見えてきて、いまあるグローバルな電力と計算量から比較してどれだけの価値をネットワークから引き出すかという競争が具現化していくのではなかろうかと。楽観的に「自動運転いけるっすよ」と言っていたセカイが終盤に差し掛かり、やっぱり量産と挙動の詰めが必要でやんすと気づいてからどういう動きができるのか。あるいは、今後飽和する宇宙開発において、より計画的に価値を生み出すビジネスを構築するための投資の額が一桁二桁と上がり、ちょっと前までは気象衛星10億でどうよといっていたのがいつの間にか20億50基とかになっててマネーゲームってレベルじゃねえぞと。

 で、他方でこの自由なインターネットを使い頑張ってきたGAFAM的なビッグテックと徴税と自国民の情報保護という問題を突き付けられた各国政府、そこの下地にウェブを巡る米中対立の激化でインターネットガバナンスという点では大きな転機を迎えるようになりました。いままでは、言うたら村井純風な牧歌的世界観だったものが、よく聞いてても村井純はなに言ってるか良く分からないよねって話になって、誰も首に鈴をつけられない状態で俺たち何を議論してたんだっけというモードに入っているのは特徴的です。いままでは、単なるパーツに過ぎなかった個人情報保護法のような情報法や、そもそもの公正なルールを決めるための競争法界隈の問題が実は国民の権利を守るために必要な要素だったのではという話となるうえ、いまのプラットフォーム事業者向けの規制ではショッピングも金融も教育データも医療情報も全部トラストとの兼ね合いになっていくんじゃないかという話が盛り上がってきた。実際には2020年ぐらいから話題にはなっていて、AIと憲法という深淵なテーマが議論されてきた一方、地に足をつけた世界では実務上の問題からどこにデータあるねんとか、誰がそれを見られるねんといった課題から、じゃあTikTokはどこのサーバーで誰が情報にアクセスできるんですか、中国にとって都合の悪いアメリカ人ジャーナリストがTikTokを起動したときの位置情報を見ているというのはアメリカがどういう法的バックグラウンドでこれを守るんですかという話にまでなるわけですよ。

 そうなると、ホワッとゆるふわインターネットガバナンス的な世界観から一気に守れるものは兵隊送り込んで拠点防衛するぞ的な私の大好きな闘争ワールドになっていくんじゃないかとすら思います。それは、廃れ逝く地上波を巡るNHKと民法の争いもさることながら、ほとんど日本の産業と情報をいかに効率的な産業に再編成し、世界との戦いで日本の権益を守るかというモードですよねこれ。

 ゆえに、私人間契約も踏まえたうえで、憲法と競争法はホットな領域になっていくのは単にプラットフォーム規制で独占禁止法を適用するしないというシンプルな内容ではなくて、国家が国民に約束している内容を踏まえて民主主義を守るためにプラットフォーム事業者による横暴で国益や社会的安定が損なわれないようにするために競争法をしっかりブラッシュアップして適切に法的枠組みを作り上げていこうという話と、それと並んで通信の秘密をどう守らせ、守れているかどうかを監視できるところまで行かないと駄目でしょう、Web3的なものも目配せしつつも制度的隘路の問題は個情法、競争法、税法各分野で詰めておかないとデジタル敗戦の二の舞になりかねないというのがあるわけで。

 なので、足掛け4年ぐらいずるずるとやってきた検討については、単にプラットフォーム対応だ、ディスインフォメーションだ、情報利活用だ、NHK対民放だという国内議論でしかないものから如何に早く脱却し、目的を見定めたルール作りを徹底し、国民の情報をこう守るから政策としてはこういう段取りにするのだという話にまでぜひ進めていって欲しいなあと願うところであります。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.392 2023年のありようをつらつら考えつつ、みんな大好きエクシア問題やイーロン・マスクさんとTwitterのあれこれに触れてみる回
2022年12月26日発行号 目次
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【0. 序文】「おじさん」であることと社会での関わり方の問題
【1. インシデント1】薗浦健太郎さん議員辞職とライズジャパン
【2. インシデント2】AI自動生成は人類にとって僥倖となるのか厄災となるのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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