岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

「イクメン」が気持ち悪い理由

84a76c5901ee455e99ddb878c75f79e1_s

ぼくは「イクメン」が気持ち悪い。そしてぼくが気持ち悪いものは、たいてい理由がある。その社会的背景がある。そこで今日は、イクメンがなぜ気持ち悪いかを考えてみたい。

そもそも、人がなぜ子育てするかといえば、「楽しい」からだ。人間は、赤ん坊を育てることに楽しさを覚えるようにプログラムされている。それは本能のようなものだ。だから、食事や睡眠、あるいはセックスと一緒の種類なのである。

その誰もが喜んでやる行為を、わざわざ名前をつけて称揚しているのが、まず気持ち悪い。「イクメン」がもてはやされるなら、大食漢は「ショクメン」、三年寝太郎は「ネルメン」、セックス依存症は「セクメン」としてもてはやされるべきだ。最近はセックスレスの人が増えているから、これはあながち冗談とはならないかもしれない。

さて、しかしながらなぜ「イクメン」が話題になるかといえば、それは子供を育てることに「苦痛」を感じている女性が増えているからだ。その苦痛を男性に分担してもらいたいから、「イクメン」を合い言葉にキャンペーンを展開中なのである。

つまり、「イクメン」は「子供の世話が苦痛」なのが前提なのだ。その苦痛を押しつけ合っているという構図である。

ぼくは、これが本当にアホらしい。そんなに嫌ならそもそも産まなければいいのだ。仮に意図せず産まれてしまったとしても、ちゃんと本質に向き合えば子育ては楽しくなるはずである。ということは、彼らは本質に向き合えていない人ということでもある。

ぼくは、そういう人が苦手である。しかも、そういうダメな自分に気づかず堂々としていることにも抵抗を感じる。

ところで、ややこしい問題が一つあって、「物事の本質に向き合えない人」というのは、実はとても「本質的な人」だ。人間は、そもそも物事の本質に向き合えないように(向き合わないように)できている。なぜかといえば、本質と向き合うのはあまりにもきつすぎるからだ。そのため、ある程度心を鍛えないと、本質には向き合えないようにできている。

その意味で、本質に向き合えない人こそ「本物の人間」だ。そして、本物の人間がその敏感なセンサーで何を感じ取っているかといえば、それは「子育てが苦痛だ」という信号である。子供を育てることに拒否感を抱くような緊急プログラムが、彼らの中で発動中なのだ。

なぜそのようなプログラムが発動しているのか?

それは、今の人類(特に日本人)が「人口減少局面」に入っているからだ。増えすぎた数を減らすことで、種としての存続を図っている。そして、最も穏やかに種を減らす方法として、「子供を産まない」というソリューションを採択しているのである。

その意味で、最近になって子供を産んだ人というのは、空気が読めていない。信号をちゃんと受け取れない人たちである。そうして、「イクメン」と声高に叫ぶ女性や、あるいは自らをそう自称する男は、二重の意味で空気が読めていないことになる。

どういうことかというと、一つは、そもそも彼らは「子供を産みたくない」という信号が自分の内から発信されていたにもかかわらず、それに逆らって(あるいは気づかず)子供を産んだ。これがまず空気が読めていない。

もう一つは、産んだら産んだでそのまま信号を無視していればいいものを、今度はそれに気づいてしまって、急に子育てが嫌になった。そんなふうに、中途半端なセンサーを持っているので、やることなすこと裏目に出ているのである。

ところで、世の中で最も不幸になる人間は中途半端な人間だ。
なぜか?
それは女性アイドルを例にするとよく分かる。

女性アイドルというのは、可愛ければ売れる。その逆にブスなら売れない。この二つは、結果がはっきりしているのでその後の方針を立てやすい。可愛い子はアイドルを続けるし、ブスはアイドルを辞める。

ところが、中途半端に可愛い子は、売れない上に辞める踏ん切りもつけられないので、いつまでも宙ぶらりんのままなのである。そうして、結果的にどこへも行けず、最も不幸になるのだ。

中途半端なセンサーを持つ人たちもこれと一緒で、信号に気づいたばっかりに不幸がいや増し、心の健康を害していく。こういう人たちには近づかないのが一番である。

それが、イクメンを気持ち悪いと思うもう一つの理由である。
※この記事はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」に掲載されたものです。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら
http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

実に微妙な社会保障議論についての11月末時点での総括(やまもといちろう)
【期間限定】『「赤毛のアン」で英語づけ』序文(茂木健一郎)
東芝「粉飾」はなぜきちんと「粉飾」と報じられないか(やまもといちろう)
「罪に問えない」インサイダー取引が横行する仮想通貨界隈で問われる投資家保護の在り方(やまもといちろう)
フジテレビ系『新報道2001』での微妙報道など(やまもといちろう)
私が古典とSFをお勧めする理由(名越康文)
カーボンニュートラルをめぐる駆け引きの真相(高城剛)
Tカードは個人情報保護法違反に該当するのか?(津田大介)
信仰者の譲れない部分(甲野善紀)
競争法の観点から見たTwitter開発者契約の不利益変更とサードパーティーアプリ禁止問題(やまもといちろう)
問題企業「DHC社」が開く、新時代のネットポリコレの憂鬱(やまもといちろう)
カナダでは尊敬の意をこめて先住民族をファーストネイションズと呼びます(高城剛)
アップル暗黒の時代だった90年代の思い出(本田雅一)
ウェブフォントを広めたい・ふたたび(西田宗千佳)
史上最高値をつける21世紀の農産物(高城剛)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ