高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

時代に取り残されてしまった東京の飲食業

高城未来研究所【Future Report】Vol.650(12月1日)より

今週は、東京にいます。

長年にわたる金融緩和の影響と円安政策が続き、現在の日本は良くも悪くも世界有数の生活物価が安い国となりました。
世界各都市の生活費を鑑みれば、ニューヨークを100と規定した場合、シンガポール=86 、ロンドン=83、ソウル=76、香港=73、東京=42となり、もはやマニラ=39と大差ないほどに安価な街になってしまっています。
このままでは今後、輸入品や輸入サービスは徐々に手が届かなくなっていくでしょう。

また、東京は清潔ではあるものの文化的に先進的であるかと言われれば、決してそうとは言い難いのが実情です。
よくインバウンドが日本は安くて美味しい物ばかりと言ったお話しを耳にする一方、ビーガンやグルテンフリーの食事が他国に比べて圧倒的に少なく、お困りの海外ゲストが多数いらっしゃいます。

首都圏では、イスラム圏からの来訪者が求めるハラル以上にどこかで先進国の潮流にキャッチアップせざるを得ないと思われますが、残念ながらその様子はほとんど見られません。
カリフォルニアやカナダから日本へ遊びに来た友人たちは、世界一の大都市なのにビーガンレストランの少なさに驚き、それなりのレストランでもグルテンフリー対応のなさに嘆きます(あっても美味しくありません)。

もう10年以上お話ししていますように、飲食店の稼ぎ頭だった飲酒が世界的にトレンドアウトし、時代を代表する飲料は朝シフトとともにコーヒーやハーブティー、水などへ移り変わっています。
いわゆる「ソバーキュリアス」(Sober=しらふ&Curious=好奇心からなる英造語)が急増しており、こちらの波は日本でも若年層を中心に徐々に浸透してきているように思われます。
地域で見れば、飲酒することが大前提にある港区ビジネスが終焉を迎えつつあり、ジェントリフィケーションの影響もあって清澄白川や神宮前2丁目など港区以外から話題店が出るようになったのが、この5年の傾向です。

また、飲食業界のロビー活動も大変弱い印象です。
日本は、戦後自動車産業が強いロビー力を誇り、この影響もあって長年路上駐車や飲酒運転が黙認されてきた時代が続きました。
港区が持て囃されたのは、銀座などと違って路上駐車がしやすかったことが大きな要因で、西麻布周辺(材木町や霞町、笄町など)のなにもないところに、いま飲食店が林立しているのは、当時の名残に他なりません。

さらに東京の飲食店は、インバウンドも含め「ご新規さん」がほとんどで、売り上げピークの期間が1〜2年程度しか続きません。
それゆえ、次々と店が入れ替わる焼畑農業のような業態になってしまい、3年で70%以上が閉店しています。
不動産関連業社におもねって、政府は出店規制しないことからロンドンの4倍も飲食店数が東京に存在し、結果、大資本のチェーン店ばかりになってしまっているのが現状です。

なにより、世界のトップレストランで何年も予約が取れない「ノーマ」が、閉店する時代です。
これは地代の高騰と労働集約型産業の行き詰まりを物語っており、事実、コロナの補助がなくなった日本の飲食店は、今年史上最大閉店数になることが確実視されています。

政府は「日本式システム」を維持するために、当面円安政策を続けると思われますが、もし、米国発の大きな経済的ショックが起きれば、相対的に円高に振れ、インバウンド数も株価も大暴落することが予測されます。
現在、米国経済は株値がいまだ堅調でGDPの数字が強いにも関わらず、税収が前年度比で大幅に減少していることから、バブルが崩壊した後のソフトランディング中だと見て間違いありません。
今後、FRBによる利下げが発表されれば、日本の株価も大きく動くことになると思われ、インバウンドの先行きも相当怪しくなると思われます。

もはや飲食業界に限った話ではありませんが、あらゆる業界が自身で舵を切ることができず、風や潮に流されて進むしかない大型船団に思えてなりません。

一見活況に見えますが、時代に取り残されてしまった感がある東京の飲食業。
5年後に生き残る店は何軒あるのだろうか、と開いたばかりの大規模商業施設で考える今週です。

もう12月に入りましたが、東京の夜の街は盛況とは言えません。
寒い冬のビル風が一層身に沁みます。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.650 12月1日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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