高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

数値化できる寒さと数値化することができない寒さ

高城未来研究所【Future Report】Vol.600(12月16日)より

今週は、札幌にいます。

先週滞在していたベトナムとの気温差が、およそ40度。
時差ぼけより気温ボケのほうが堪えるもので、また、着用する服もまったく違うことから、どんなに重ね着しても限界が生じます。

しかし、札幌には「地下歩行空間」があります。

いまから16年ほど前、日本に住んでいた僕は、縁あって札幌市の仕事を手伝っていました。
長年の読者の方ならご存知かもしれませんが、当時「札幌芸術の森」のなかに不動産を所有し、新千歳空港にハマー2を停め、定期的に通い北海道中をウロウロしながら仕事をしていました。
その中のプロジェクトのひとつが、札幌駅前通地下歩行空間だったのです。

札幌駅と大通駅をつなぐ「地下歩行空間」は、東京のカッコのままススキノまで行ける、というのがウリのひとつで、事実、羽田から新千歳空港に着き、JRに乗り札幌駅で降りて直結する地下歩行空間を歩けば、表に出ることなくススキノまで行けますが、実際はJRの駅が吹きっ晒しのため、時間によっては寒さを凌がなくてはいけない場面もあります。ともあれ、札幌に来るや否や、厚着する必要はない巨大な地下空間を作るのを目指しました。

このプロジェクトは、モントリオールに着想を得ています。

世界最大の地下街としても知られているカナダのケベック州モントリオールは、ショッピングセンター、7つのホテル、銀行、オフィスビル、博物館、4つの大学、地下鉄10駅、1200のオフィス、2つの主要デパートを含む約2000の店舗、約1600の住宅、200のレストラン、40の銀行、40スクリーンを提供する映画館やその他の娯楽施設、芸術広場、大聖堂、ベルセンター(モントリオール・カナディアンのホーム)、3つの展示ホールとコンベンションセンター(パレデコングレスドゥモントリオール)、そしてオリンピックセンターにつながる巨大な地下空間を誇ります。
通称「RESO」。
モントリオールも冬が厳しい街ですが、世界最大の地下街の利用者は1日に50万人を超え、一歩も外に出ることなく、冬季は市民に大いに利活用されていました。

そこで札幌市もモントリオールに負けない地下空間を目指して、「街の軸」を古びた繁華街から移動させ、さらにはあたらしい価値を見出せないか、というのが、当時のミッションでした。

地下歩行空間とは呼ばれるものの、まずは「機能としての道路」と「気分としての広場」の2つの側面に再整理し、誰も考えなかった後者の「気分としての広場」を高めるため、一案として一角にガラス張りのDJブースを設置しようと試みました。
コストもかかりません。
実は札幌は大都市のなかでもDJが多くいる街で、良いコミュニティも存在します。
月曜の朝と金曜の夕方では機能面の違いから「広場」で流す音楽も異なるわけですから(などと考えていた人は皆無でした)、人通りを見ながら選曲するプランを立案。
DJのギャラは基本給に、地下歩行空間に連なるショッピング街や飲食店の金曜夕方や週末の売り上げ増と連動するような「投げ銭」により、例えば1店あたり500円徴収できれば相当の額になると算出しました。
これを目指して移住するDJもいるだろうと思案していたほどです。

続いては、市が地下歩行空間に連なる「空中権」を握るというものです。
モントリオールの地下街を設計した都市計画家のヴァンサン・ポンテは、中央駅北の見苦しい鉄道線路を覆うことから仕事をはじめました。
そして整理した後、メトロの駅入口上空の空中権を「優良不動産」として地域建設業者と市が共同で開発する、という施策で税収を高めました。
このアイデアにヒントを得て、市が地下歩行空間に連なる「空中権」を握り税収にあて、なにより公共事業でよくある「見苦しい」チグハグな作りに規制をかけ「緑化」を図ることができるのではないか、と考えました。

続いては、地下歩行空間を防空壕にするアイデアです。
永久中立国スイスでは、国内に点在する自動車用トンネルの大半を防空壕へ転換できるようになっており、緊急事態にスイスに住むすべての人を収容することが可能です。
当時の日本は、いまのように近隣諸国との緊張感もなく、また、ミサイルが頻繁にEEZまで飛んで来るようなこともありませんでしたし、東日本大震災が起きる前でしたので、大きな危機に備える意識も高くありませんでしたが、緊急インフラを整える事を提案しました。

結局、これらの案は市長の内諾を取れても、どこかで有耶無耶になってしまい現実化するどころか地下歩行空間の名称すら決めることもできず、今日では単に「チカホ」と呼ばれるだけの殺風景な空間になりました。

地場で力があるゼネコンにしてみれば、穴が掘れればそれでいいのですから、その後の活性化はどうでもいいところか「余計なこと」にすぎません。
この地下歩行空間と駅前再開発という巨大公共事業の後に目論んでいたのがカジノ誘致と札幌オリンピック誘致で、これらを錦の旗とした街の再開発が水面下で進められますが、数年後、旗振り役だったひとりが収賄罪で逮捕されることになりました。

そして、僕は市内に持っていた不動産を処分し、欧州に転出します。

一方、当時駅前にできると夢想していた巨大家電量販店タワーは、2028年に竣工予定。
現在、札幌都心で行われている再開発のほとんどが、地下通路と直結している案件ばかりになり「街の軸」が予測通りに動きましたが、札幌地下歩行空間の無味乾燥とした光景は、冬になるとより一層目立ちます。 

令和2年度には市税を抜いて国庫支出金が最も多く全体の約4割を占めるようになり、霞ヶ関や永田町の意向と権限が強まって、あわせて大型開発案件では、中央ゼネコンとのジョイントベンチャーが以前にも増して目立つようになりました。

東京オリンピック問題も広告代理店までメスが入りましたが、ゼネコンに手が入る様子はありません。
政略結婚と談合によるゼネコン資本主義・日本。

この街には外の寒さと気持ちの寒さがあり、前者は数値化できても、後者は数値化することができません。

それを久しぶりに再認識した氷点下の今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.600 12月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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