※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2014年12月5日 Vol.013 <未知なる物の怖さ号>より
子供のネット利用を考える上で、一般の保護者の方とお話しすると、たいてい「子供に使わせるのが怖い」という話を聞く。
この「怖い」の正体とは何か。それは、先が見通せない恐怖に類する物と同じなのだろうと思う。たとえば、初めて乗るジェットコースター。初めて入るオバケ屋敷。初めて見るホラー映画。こういうものは、誰でも怖い。物理的な身体生命の危機が訪れないエンタテイメントであっても、怖さを感じることに違いは無い。
この怖さの原泉は、次に何が起こるかわからないという、予測不能性によってもたらされると考えられる。なぜならば、一度経験して二度目三度目になると、怖さが軽減されるからだ。次に来る物が何か、すでに知って予測可能になったからである。
もっとも浅草花やしきのローラーコースターは、コースそのものよりもむしろ、作られて61年とか、じつはよく見るとあちこち錆びてるじゃんみたいなことを知れば知るほど恐怖が増す。経験すればするほど、ついにオレの番で脱線するんじゃないかというという、ロシアンルーレット型の恐怖なので、あれは反則である。
さて、先が見通せない恐怖を克服するためにどうすればいいかと言えば、先を見てくればいいのである。インターネットのムーブメントは、いつも新しいものが生まれているように見えて、実はほとんどが過去発生してきた物の焼き直しだ。かつてはゆっくりしたペースで生まれたものが、めまぐるしいスピードで栄枯盛衰を繰り返す。一見するとこれは初めて乗るジェットコースターのように見えるが、長い事ネットを見ていると、実際には似たような流れを何度となく経験することになる。
子供に使わせるのが怖いという人ほど、子供が使い始める前に先にジェットコースターに乗って、どういうものかを経験しておくべきだ。だが怖い怖いという人は、たいてい何にもしない。誰かが規制してくれればうちも面倒に巻き込まれないのに、と思っている。だから何もせず、ずっと怖い怖いと言い続けるだけである。
ジェットコースターに乗るのが勉強だと思ったら、勉強嫌いの大人は乗らない。だが子供にせがまれれば、一緒に乗らざるを得ない。一緒に乗る保護者はまだ見込みがあるが、「お金あげるからあんた1人で乗ってきなさい」という、見捨て型保護者が厄介だ。
それでも子供はほぼ全員、いつかはジェットコースターに乗る。恐怖は必ず経験することになるが、そのときに寄り添ってあげられる存在が身近にいるかどうかで、その子の人生の深さが決まってしまう。
だが僕らのようなネットを通じてアクセスされる側の人間は、オフラインで1人1人の子供に寄り添ってあげることができない。だから細かい単位での地域で、寄り添ってあげられる人をたくさん作っていく作業が、これから必要になってくる。
来年はそのあたりに着手していくことになるだろう。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2014年12月5日 Vol.013 <未知なる物の怖さ号>目次
01 論壇(小寺)
子供のネット利用、今年の問題まとめ
02 余談(西田)
カバンと身体のちょっとした話
03 対談(小寺)
今週はお休みです
04 過去記事アーカイブズ(小寺)
子供とケータイ、次のテーマは「スマートフォン」
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
ご購読・詳細はこちらから!
その他の記事
「科学」と「宗教」、あるいは信仰における「公」と「私」(甲野善紀) | |
「意識高い系」が「ホンモノ」に脱皮するために必要なこと(名越康文) | |
大きくふたつに分断される沖縄のいま(高城剛) | |
オリンピックという機会を上手に活かせたロンドンは何が違ったのか(高城剛) | |
暗転の脱炭素、しかしそこに政府方針グリーン投資10年150兆の近謀浅慮?(やまもといちろう) | |
石田衣良がおすすめする一冊 『繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史』(石田衣良) | |
自民党、まさかの派閥解消からの安倍派処分の強硬手段で政治資金ネタを有耶無耶にしてしまう(やまもといちろう) | |
スマホVRの本命「Gear VR」製品版を試す(西田宗千佳) | |
VRとは「マジック」と見つけたり(西田宗千佳) | |
ガースーVS百合子、非常事態宣言を巡る争い(やまもといちろう) | |
Yahoo! JAPAN「爆速」の終わり(やまもといちろう) | |
責任を取ることなど誰にもできない(内田樹) | |
全てを飲み込む神仏習合こそが日本の本質(高城剛) | |
トランスフォーマー:ロストエイジを生き延びた、日本ものづくりを継ぐ者 ――デザイナー・大西裕弥インタビュー(宇野常寛) | |
季節の変わり目に江戸幕府の長期政権を支えた箱根の関を偲ぶ(高城剛) |