岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

ドラマ『ハウス・オブ・カード』〜古くて新しい“戦友”型夫婦とは

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より

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このドラマは10年代を代表するキラーコンテンツだ!

最近、再び『ハウス・オブ・カード』を見ている。先日、シーズン4が公開されたばかりだ。ぼくは、これを見るためにわざわざNetflixに入会した。それほどのキラーコンテンツなのだ。

けっして大袈裟な表現ではなく、『ハウス・オブ・カード』は10年代を代表する映像作品だ。それは、面白さもさることながら、内容が現代の本質、あるいはこの社会の行く末を暗示しているからだ。それを読み解くためのヒントがちりばめられている。

かつて『二十四の瞳』を初めて見たとき、そこには1940年代を読み解くためのヒントがちりばめられていることを知った。『秋刀魚の味』を見たときも、そこに1960年代を読み解くためのヒントがちりばめられていた。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も同様で、1980年代を読み解くためのヒントがちりばめられている。

そういうふうに、すぐれた映像作品にはその年代を読み解くためのヒントが(おそらくは無意識のうちに)無数にちりばめられている。そうしてそれは、数十年後に振り返ったとき、初めてそれが指し示していた意味が分かる。

『ハウス・オブ・カード』も、それらの列に並ぶものという予感がある。しかしながら、同時代を生きる我々には、なかなかそこにちりばめられたこの時代を読み解くためのヒントが解読しにくい。

それでも、これは非常に重要なことだと思ったので、数十年後の世界から見ているつもりになって、それを読み解くことに挑戦してみたい。

19世紀的な競争社会が復活しつつある今、
夫婦の形はさらに変わっていく?

まず注目させられたのが、夫婦の描き方である。『ハウス・オブ・カード』の主人公夫婦において重要なのは、二人が「戦うために協力し合う同志」ということだ。戦友なのである。

これは、古くて新しい「夫婦の形」だと思った。かつて、夫婦は協力し合う同志である場合が多かった。なぜなら、そうでないと物質的に貧しい世の中を生き延びられなかったからだ。

しかし、20世紀に入って物質的に豊かな社会が築かれたとき、夫婦は必ずも戦うために協力し合う必要がなくなった。そうしなくても生きていけるようになったからだ。

それで、夫婦の関係は大きく変わった。今では、「戦うために協力し合う同志」という関係はめっきりと減った。

しかしながら、この二人はあえて現代にそういう関係を結んだ。なぜかといえば、そうしないと勝てないからだ。なぜ勝つ必要があるかといえば、

それは現代が競争社会だからである。

現代において、人々は否応なく競争を宿命づけられている。それは、たった20年前の20世紀とは大きな違いだ。その中で気持ち良く生きていこうとしたら、勝つしかない。

この映像作品の見た人の中には、「なぜこの夫婦はこんなに戦っているのだろう? 

もう富も名声も十分手に入れたのだから、戦う必要がないではないか?」と思う人もいるだろう。

しかしながら、それは旧時代的な考え方であり、厳しい言い方をすれば「呑気」だ。きっと、まだ前世紀の既得権益の上にあぐらをかいているから、そういうのどかな考え方ができるのだ。やがて、そうのんびりとはかまえてはいられなくなるはずである。

現代は、19世紀までは当たり前だった「食うか食われるか」の競争社会が復活しつつある。そう考えると、20世紀の飽食の時代こそが実は特別であり、人間には本質的に「弱肉強食」が宿命づけられているように感じる。

もちろん、人間の場合の「強」や「弱」の定義は虎やサメとは違うから、それは野生の掟というわけではないが、それでも、強くなければ生きる資格はないといえよう。

『ハウス・オブ・カード』の主人公二人は、そういう時代の空気を敏感に察知し、戦いの中に身を置くという選択をしている。そこで勝とうとしている。

そんな二人の採った戦略が、「夫婦でチームを組む」ということなのだ。

なぜかといえば、その方が有利だからである。

現代において、夫婦というのは必ずしも「同志」ではない。彼らは「協力し合う」というよりは、便宜的に一緒にいるだけという場合が多い。

それで、夫婦でいることの意味合いが薄れてしまった。結婚している人の割合が減ったのもそのためだ。

『ハウス・オブ・カード』の二人は、そこに目をつけた。彼らは、結婚という制度に「戦うために協力し合う同志」という古くて新しい価値観を復活させた。幸運なことに、今のところそういう夫婦は少ないから、これは大きなアドバンテージになるのである。そこで多くの敵を出し抜ける。ほとんどの夫婦は戦うために協力し合えていないから、そこで戦いを優位に進められる。

今のこの競争の時代をどうやって勝ち抜くかを考えたとき、『ハウス・オブ・カード』の二人の生き方は非常に参考になる。ぼくも、こういう夫婦、あるいはファミリーを築いていきたいと強くインスパイアされた。

 

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35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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