やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

立憲民主党の経済政策立案が毎回「詰む」理由


 2月21日、立憲民主党で経済政策の調査部会が立ち上がる、というニュースが出ました。

立民、党内に経済政策調査会を設置

 私は直接かかわっているわけではないのですが、近しい筋が大変苦労されているということでお話を伺う機会は少なくないなかで、個人的に「ねえ、これどうやって着地させようとしているの?」という内容がどんどん深刻になってきておりまして、問題のない範囲で書いてよいというので私的な見解を述べたいと思います。

 立憲民主党と経済政策という点で言いますと、幾つか大きな逃げようのない制約があります。概ね分けると4つになります。

 ひとつめが、支持母体との整合性。

 ふたつめが、“選挙協力”を視野に入れた他の野党との政策連携。

 みっつめが、過去に旧・民主党政権として打ち出してきた経済政策の連続性。

 よっつめが、現・自民党安倍政権との対立軸を打ち出す必要性。

 ここに、立憲民主党各議員、各地方議員など地方組織の各位の認識を固める作業という組織上の課題が発生し、かくして「これはどう着地させるべきなのか?」というでっかいジレンマが発生するわけであります。

 一部に出ていた「社会保障」と「経済成長」の両輪を睨んだ政策立案を行うというお題目については、ついに成長も文言に入れられるようになったかという感慨深いところもある反面、社会保障の充実が経済成長のエンジンだというある種のイデオロギー的な強弁も必要とされ、持続的な経済成長や産業的な付加価値とは真逆の位置にある社会保障の拡充が野党の経済政策の目玉たりうるのか、という点は極めて深刻な論点になるのであろうと思います。

 もちろん、ここについてはアベノミクスを長らく標榜してきた安倍政権が必ずしも経済成長、生産性の向上に資する政策を打ち出すことができなかったところはあるのですが、実際のところ安倍政権の経済政策は総花的で現実重視なところがあり、これを全面的に否定しながら有効な経済政策を野党として打ち出すというのはなかなか大変なんじゃないのと思うわけです。例えば、社会保障の問題を一つとっても、立憲民主党は根強い緊縮財政路線(政府の無駄遣いを徹底的に減らし、国家公務員などの削減を目指す)で頑張ってきた歴史があります。

 一方で、社会保障を充実させようとなれば、当然国会では財源論になるため、消費税増税も賛成なんですよねという野田政権末期の三党合意の悪夢を思い返させるネタを掘り起こされる危険もあります。いや、消費税は逆進性もあり貧乏人に厳しい税制だから法人向け税制の拡大や所得税増税を狙うのだという話をするとしても、結局は増税による歳入費増大をという話になるため、設備投資も冷え採用は見送られて経済的には悪影響で、せっかくお題目に押し込んだ「経済成長」とは無縁の大きな政府、財政拡大論に堕してしまう怖れもまた強いわけです。

 また、財政規律の確保も行いましょうという話になれば、増税すれども財政出動はしませんという経済政策になって国民生活はさらに細るので、起爆剤となるような目玉の政策を何らか捻り出さなければなりません。ところが、実際に立憲民主党内で検討されている内容というのは韓国の経済政策で失敗したような最低賃金の引き上げや、より硬直化した雇用制度であって、本当に必要である出生・教育対策、科学技術関連費、地方経済にまつわる各種助成体制についてはほとんど手つかずで追って検討というレベルになってしまっているのが印象的です。

 つまりは、たいして得点になっておらず経済成長もしていない安倍政権よりも劣後の経済政策しか打ち出せない恐れがいまの段階では高いので、よりスローガン重視でポピュリズム側に寄った、ファンタジー感のあるアドバルーンにしかならないんじゃないかという状況になってしまっているのが難点です。最低賃金も大事な議論ですが、入管法改正で低賃金で働いてくれる外国人が100万人単位で日本に中長期定住可能な状態で賃金引き上げたところで採算に合わない事業所が畳まれて失業が増えるだけだというのは韓国経済の二の舞です。それが分かったうえで、産業の活力よりも生活資金の確保だというストレートな政策課題を掲げてしまうと、まあ文字通り阿鼻叫喚に陥ることは当然と言えます。

 しかしながら、3月に行われる統一地方選挙も参議院選挙も、大枠で見れば野党側が一定以上の議席を確保すると見られ、どんな微妙な経済政策を掲げたとしてもそこそこ勝ってしまうと見られます。単純に自民党政治に対する反動で批判票の受け皿となる野党に票が流れるという図式で間違いないわけですが、そこで野党側が「立憲民主党の掲げる経済政策を国民が良しとした」という間違ったメッセージの受け取り方になると野党第一党として党勢を高めるかもしれない立憲民主党の発言力が上がっていく中で大変なことになりかねないとも言えるわけです。

 それでも救いは野党側からようやく「経済成長は必要だ」という声や「論文数や大学ランキングなど海外から見た日本の大学をどうにかしたい」という話が聞かれるようになり始めた、ということであります。もちろん、特定の英語圏の人たちに「この大学知ってる?」と訊いて作る大学ランキングの上下に一喜一憂する必要がどこにあるのか、また、年金をもらえる高齢者が退職後に嘱託として企業に残り高くない賃金でも喜んで働く環境下でGDP÷労働人口で計算する生産性を計って日本が低迷していることにどれだけの意味があるのかはよく考えるべきであろうと思います。もしも本当に見た目の生産性を高めたいなら、低賃金になりがちな女性や高齢者は働かせないのが一番です。ましてや外国人を大量に入れてどうするのだと思うわけですが、いまや地方経済をどうにか回す仕組みはこれらの外国人労働者と最低賃金での雇用に頼る部分が大きく、そういう地方経済を中央で税金を納める日本人が無理矢理税金を支払って維持することにどれだけの意義を見出すべきなのかはいま一度考え直す必要があります。

 産業界の言い分を聞きすぎる安倍政権も問題なら、それに対するカウンターとなる経済政策を打ち出すことのできない野党の質も大いに問われるべき事態であるところから、一歩でも二歩でも日本の将来のためにきちんとした政策議論が行える状況にするべきだ、という話は毎回しています。しかしながら、その歩みは非常に遅く、また、目の前の選挙のためのスローガンづくりのために、さして有効でもない政策立案を行い、問題解決とは程遠い口触り目障りの良いワンフレーズポリティクスのようなものを志向するのだとしたらこれはこれで問題です。

 野党の経済政策、とりわけ左翼サイドの物言いは、長らく共産党との選挙協力を行う過程で共産主義的経済政策に巻き取られ、いまどきマルクス経済学かよと思ってしまうようなレベルのことを平気で言う議員や党本部員や左翼系学者によって占められ続けてきたという悪弊が強く残っています。計量経済学から一歩進んで行動経済学という新たな地平線が拓け、また、人工知能やクラウド技術などデータ資本主義への経済体制の移行が各国急ピッチで進んでいく中では、やはり適切な規制や法制度、公正な競争を実現できる各種委員会や行政の権限強化、国内産業の足腰となる学術振興が充分に行える出生、初等教育、高度教育への十分な投資といった、新たなキャッチアップへの働きかけ、動きというのが必要な時代になっていることは間違いないのです。

 そのような新しい時代の扉を開く存在は、本来は、既得権益や内向き志向の政治体系を培おうとする自民党政治ではなく、より発展的に社会を導こうとする野党の役割だったはずなのですが、まあなんか良く分からない状況になってしまっている、というのは実に残念なことだと思います、日本人的に。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.253 我が国の野党政治の残念な感じをしみじみと論じつつ、中国「大湾区構想」や新興決済サービスのあれこれに触れてみる回
2019年2月27日発行号 目次
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【0. 序文】古市憲寿さんの「牛丼福祉論」は意外に深いテーマではないか
【1. インシデント1】不思議な評価経済、報酬なき勤労はどこまで適法か
【2. インシデント2】日本独自の情報銀行制度は無事にスタートできるか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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