やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ドイツは信用できるのか


 EU統合から環境主義的な流れは、ある意味で世界全体のエスタブリッシュメントの志向性をリードしてきたことは間違いなく、その中でもドイツ政府と周辺の欧州貴族コミュニティの関わりが非常に大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。

 特に日本でもいまだこだわる人の多い昨今のSDGsのムーブメントは広告代理店や企業イメージ醸成のためのツールとしても便利に使われるだけでなく、英語圏と欧州を中心とした環境問題における脱原発運動や脱炭素、ゼロエミッションなどの動きもまた、非常にコアムーブとして語られてきたものが多くあったように思います。

 もちろん、左翼的な教条主義ばかりでなく、具体的な活動の意味もありました。実際に気候変動が大きくなり、熱波が干ばつを引き起こし、皮肉のような電力不足の引き金になったのは人間の手で温暖化ガスのこれ以上の放出を控えるべきだという国際的なコンセンサスづくりに大きな意味があったことは間違いありません。

 この気候変動の激化と共に国際経済へ与えるダメージは大きいよねというのは間違いないにせよ、これらの問題への取り組みの中でも割と欺瞞に満ちていた部分がはげ落ちた一番大きな要因はロシアによるウクライナ侵略という人為的なイベントでした。悪く言えば、ドイツがいままで脱原発や脱ガソリン車・ディーゼルでEV中心で再生エネルギー中心の構成で行くのだという理想論は、裏を返せば欧州全体に対し比較的安価なロシア産LNGがパイプラインで送られてきているというバックボーンがあるからこそ成立していたものなのであって、いざロシアが戦争状態になって欧州がウクライナの向こう側で対立構造を作るぞと意気込んだところでロシアがガスを止めてしまうと「この冬はどうやって越すのだ」というエネルギー問題の前に立ちすくむことになります。他方で、世界的な景気減速が一層露わになってくると、あれだけ高騰していたLNG相場を中心にエネルギー価格も総じて落ち着き、LNG先物もWTI原油先物もまずまずの値段で揉み合うようになりました。

 実需を睨んだ経済的な枠組みとして脱炭素でやるんだよというのは、制度的にどうにかまとまってきていることもあって、インフラとEV、産業構造の関係も何となく見えてきたのは良き哉と思います。ただ、コロナ禍を挟んで海運ショック、ウクライナ侵略と国際的なイベントが立て続けに起きている現状から振り返ってみると、やっぱり「おいドイツ」っていう思いは抱かざるを得ません。

Arne Schönbohm: German cybersecurity chief sacked over alleged ties with Russia

 その舞台装置に対する不信感の最たるものは、ドイツ政府の情報部門トップのスキャンダルでありまして、かねてロシア系企業との関わりが指摘されてきたものの、人事指名を強行した人こそ東ドイツ(旧共産圏)出身の前首相メルケルさんその人であり、その前任役職は環境・自然保護・原子力安全担当大臣であって、首相として05年から21年まで実に16年もの間、欧州政治をリードしてきた人物でもあります。政治の正解ですから白黒右左すっぱり割っていける合理的な世界ではなく妥協の産物も多々あったであろうことを踏まえても、やはり総括として一連の過剰なまでの環境問題への傾斜や、国際社会に対する不必要なコンフリクトのきっかけになる出来事は振り返り、まとめ直す必要があるのではないかと思うわけですよ。

 「ドイツもウクライナ侵略の被害者だったんだ」と言い募るのは構わないんですが、一時期韓国が騒いでいたように戦後補償の優等生であるドイツを日本は見習えと言っていたものが、いまでは話が逆回転して戦争被害を被ったポーランドが一転ドイツに戦後補償の見直しを迫り、180兆円単位の賠償請求を求める(そして実際には支払われることはない)ことも含めて、私らが見せられていた世界的な虚構のようなナラティブは何だったのかという話に逆戻りをしてしまいます。

 それでもドイツは民主主義国家の一員として果たすべき役割を十分にこなしている面はあるにせよ、EUのルール作りに対する目線も含めてもっと是々非々で捉えるべきことも多いのではないかと思います。米英との関係が深まっているからこそ、日本も改めて諸外国から共感をもって強く言われることは少なくなくあります。「ドイツは信用するな」と。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.386 ドイツという国との付き合い方をどうするべきかあれこれ考えつつ、Netflixの広告モデルはどうよという話や最近の自動運転にまつわるあれこれを語る回
2022年10月31日発行号 目次
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【0. 序文】ドイツは信用できるのか
【1. インシデント1】Netflixが「配信コンテンツに広告掲載」で壊れるビジネス環境の世界線
【2. インシデント2】2022年現在における自動運転の現実とこれからの可能性
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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