高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

大国の世相変化に翻弄される香港の今

高城未来研究所【Future Report】Vol.448(2020年1月17日発行)より

今週は、香港にいます。

中国に対する大型デモばかりがクローズアップされる最近の香港ですが、日々の街角は、至って平穏です。
しかし、景気は明らかに悪化しています。

数年前に香港を訪れた際、いつも発売日に必ず売り切れていたiPhoneが売れ残っていた様子を見て、香港は今後曲がり角に差し掛かるだろうと、本メールマガジンでお伝えしました。
それが、如実になっているのが、現在です。

一般的には「デモのせい」で景気が悪化したように語られますが、昨年第3四半期(7〜9月)の成長率は前期比でマイナス3.2%と過去10年でもっとも良くない数字が出ており、大型デモがはじまる前からリセッション(景気後退)に突入したことがわかっています。

また、「香港の経済は米中貿易摩擦や中国経済の後退で足踏みを続けている」と識者は話しますが、僕はそれだけが原因だと思いません。

21世紀に入り、香港はアジアのトレンドリーダーとして、周辺諸国を牽引してきました。
停滞する日本を横目に見ながら、シンガポールと香港は大国中国を市場とし、英国式法律と社会を背景に、また小国であることを糧としながら、金融業を中心に「ハブ」として急成長してきました。
特に香港は、世界最大の人民元決済オフショアセンターであり、他国の企業は香港を利用することによって、銀行や金融機関が提供する幅広い人民元サービスを簡単に利用することができました。

ところが2015年6月12日、中国バブルが実質的に崩壊してから、香港の様子が変わります。
それまで、建てれば売れていた湾港開発の象徴とも言われた香港式タワーマンションの売れ行きが伸び悩み、本土からの観光客の財布の紐が急速に締まりました。
中国共産党の金融緩和政策によって、2014年7月から始まった株価の急騰によって、15年5月中旬までに上海総合指数が2.3倍まで膨れ上がり、そのバブルが崩壊した荒波が、近年香港に到達したのです。

そして2016年秋、米国でトランプ大統領が誕生して以降、米中貿易摩擦が如実になって、香港も影響を受けます。

また同年、かつての宗主国だった英国がEU離脱を掲げ、表に裏に面倒を見ていた香港を、英国が助ける余裕がなくなってしまいました。

つまり、中国バブル崩壊とトランプ政権の誕生、そしてブレグジットなどの大国の世相変化によって香港の経済状況は悪化し、そのガス抜きとして、煽られながらデモが巻き起こったと僕は考えます。

もし、香港がアジアをリードするトレンドリーダー、つまり香港は風見鶏のような機能を持っているとしたら、大国による世相と社会変化などのリストラクチャリングの影響は、今後、すべての国々に影響を及ぼすと考えられます。

僕が見る限り、景気が著しく悪化する香港で賑わいを見せているのは、金装飾品を扱う「金行」だけでした。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.448 2020年1月17日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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