やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ヤフーがニュース配信をやめる日


 かつて、私もヤフーニュース個人の配信契約を「満了」され、同意を反故にして一方的に過去の記事を削除されたことがありました。

私の記事が、ヤフーニュース個人からすべて削除された件について

 また、私の近しい関係先で、やはりヤフーニュースからの記事配信契約を一方的に切られたり、ヤフーニュースの編集部側から「このようなテーマの記事を過激には書かないでほしい」と要求されたことが一切ならずあります。

 要するにこれ、ヤフーニュースについているコメント欄(以下、ヤフコメ)対策のために、過激だったり扇動的に読める記事はなるだけ排除したいというヤフー側の編集権行使の動きだよねってことだろうと思います。

 大手はともかく、中堅以下のネット媒体にとって、ヤフーニュースに記事が配信できるかどうか、また、ヤフーの編集者が人工知能などを使ってヤフートップに記事を掲載したり、ヤフートピックスにおすすめ記事を入れることで文字通り100万円近くの収入が得られるかが変わります。死活問題なのは、鉄道弘済会(KIOSK)やコンビニ配本がシェアを持っていた時代の雑誌営業と、いまのヤフーニュースのタブーぶりは変わらないということの証左でもあります。

 ところが、ヤフーは問題となっているヤフコメについては人工知能を使って非表示にしたり、問題のあるアカウントをBANしたりなどの対応をすることはあっても、頑としてヤフコメ自体を閉じません。

 個人的には、そういう内容のひどいヤフコメであっても、いわばそれがそのトピックスや記事のテーマに関する「興味のある国民の民度そのもの」ですから、ヤフーがいくら嫌だ、キレイにしたいと願ったとしても、それが真の国民の意見であり、国民の脳内であって、事実、実態そのものだと思うわけですよ。

 それが問題だぞ、いい加減にしないとヤバイぞ、となったのは明確に今回の皇室問題、とりわけ小室圭さんと眞子さんの結婚問題について国民の対ロイヤル感情を抑えきれない話題が続発したからであって、メディアも煽り立てるまでもなく国民世論が爆発しておるし、どうしようもないのでしょう。

 小室圭さんと眞子さんのご結婚について、第三者であり皇室問題にこれといった知見のない私があれこれ論評するのは避けます。ただ、議論の中で見えてくるものは、皇室問題に限らず、日本社会で暮らす私たちの琴線に触れるようなデリケートな話題は、往々にして、ヤフコメは爆発する傾向にあるぞということです。

 最近になって、週刊誌系のメディアが日韓外交の不調に関する記事をヤフー配信しないという方針を出してきました。売れ線のテーマなのに、なぜ配信をやめるのかと編集長に聞くと、結構簡単に「そういう圧力が(ヤフー担当から)あったから」と回答をしてくるわけです。記事を書くジャーナリストからも、横のつながりで「ヤフーはどうなっているんだ」と相談があったわけなんですが、ニュース配信のプラットフォーム事業者であるはずのヤフーが、記事の内容に踏み込んで、好ましいか好ましくないかを判断することは本当に妥当なのかという議論になるのもまた当然のことです。

 確かに、韓国との外交問題をうっかり記事にすれば、ヤフコメが荒れるのもまた当然のことです。誹謗中傷や民族差別を誘発するようなヘイトスピーチに近しいコメントが並ぶのは間違いない。

 そして、おそらくは、Yahoo!JAPANを運営するZホールディングスとしても、これらのニュース配信による誹謗中傷や民族差別に対する事業上のリスクを強く感じているのでしょう。だからこそ、そういう過激で扇動的な内容になりうるテーマについては、ヤフー編集部から具体的に編集権の行使として記事配信をする媒体側に「そういう記事はやめてほしい」と記事内容に介入するわけだし、そのような話があるたびに、媒体側では「ヤフーからこういう話が来た」と電光石火のように情報共有が業界内で為されることになります。

 私も過去いろいろとヤフーニュースのビジネスモデルには触れてきましたが、要するに人通りの多い駅前(ヤフートップ)で、チラシ(ヤフー広告)を価値のあるティッシュ(記事)につけて配っているだけのことです。ヤフーからすれば、人通りの多い駅前でティッシュの品質に問題があるぐらいなら、その人通りをショッピングに全部誘導したいぐらいの勢いで事業転換を考えてもおかしくないのでしょう。ショッピングは中傷とも名誉棄損とも民族差別とも無縁ですから。

 もはやヤフーニュース個人などで自分の名前でヤフーに記事を配信することのない私からすれば「好きにすれば」という話でしかないのですが、他方で、昨今のプーチンロシアによるウクライナ侵攻で日本語圏のディスインフォメーション流通の一大拠点となっているのは他ならぬヤフコメを含めたヤフーニュースです。ヤフーも頑張って対策をかなり進めているとはいえ、そこまでヤフーニュースに経営リソースを割いていないヤフー経営陣の裏をかくように、大量のアカウントが生成され、おそらくディスインフォメーションのビューを稼いでいるのか、別の定点観測先からの閲覧者流入元でヤフーが上位にいるのはとても気になることです。

 他のニュース配信先からの収入があまり上がらない中、ヤフー一強の状態で長らく続いてきたネットニュース界隈からすれば、まともに取材をしたり記事を執筆した経験もないようなヤフー側担当者から急降下爆撃のような記事内容・テーマへの介入をされるのは時節柄やむを得ないとはいえ不満が出るのは当然のこととも言えます。

 もしも、そのような誹謗中傷の責任が記事を配信しようとする各媒体社の側にあるのだとヤフーが言いたいのであれば、一面において「それはそうですね」と首肯はしつつも「でも、そういう中傷や民族差別のコメントを掲載させているヤフー側の問題でもありますよね」という反論もしたくなります。だって、そういうヤフコメが書かれて、そこに万単位の同意する人たちが可視化されている状況で一目瞭然のように、それだけその記事にヤフコメが書かれることでヤフーはビューを稼ぎ、そこに広告が貼られて、広告主のサイトにビューが流れ、ヤフーは収益を上げているのですから。

 つまりは、ヤフーは過激なことを書いているヤフコメがついた記事の稼ぐビューに依存して、収益を上げているよね、ということです。

 だとするならば、抜本的な対策をヤフーが打つとすると、ヤフコメをサービスとして閉じたり承認制とするか、記事配信そのものを止めないといけなくなります。過激な記事は掲載しないと編集権をヤフーが行使するのは一億歩譲って「そうですか」となるとして、そこで書かれた中傷や民族差別のようなヤフコメはヤフーの事業の問題にすぎませんから。

 一連の問題が、ヤフーによる「商品の仕入れ」ではなく「商品を売るためのビジネスの仕組み」にあるのは明確なのですが、ここでヤフコメを全部やめるとなれば、ヤフーの事業全体にとって、ニュース配信を含めたメディア部門のさらなる部門採算の悪化を引き起こすことになります。合併したLINEも含めて、ニュース事業の統合や、サービスの廃止もどんどん進んでいくことでしょう。逆に言えば、そうなってしまうとヤフーは単なるでっかいショッピングサイトになりかねません。

 「それでいいんならどうぞ」と少数株主的には思いますが、傍目には、どんどんヤフーでなくてもよいことが増えるだけで、なんだかなあとは思います。

 まあ頑張ってね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.360 なんとなく焦臭い時代の焦臭い話をあれこれまとめて論じてみる回
2022年2月28日発行号 目次
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【0. 序文】ヤフーがニュース配信をやめる日
【1. インシデント1】経済安保法案にまつわるあの醜聞の追記とか
【2. インシデント2】ウェブ進化の先に待っていた劣化という業
【3. インシデント3】ウクライナ情勢とロシア発のフェイクニュース(ディスインフォメーション)ほか情報工作の概観
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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