総ブラック社会はやっぱり回避しないといけないよね~~『人間迷路』のウラのウラ

人気メルマガ『人間迷路』の制作裏話、新人がなかなか出てこないブログ界の事情(イケダハヤトさんをなぜいじるのか)、そしてブラック企業問題などを通して、「日本のしくみ」について語っていただきました。15000字のロングインタビューです。

聞き手:井之上達矢(夜間飛行代表取締役)

 

Q&Aコーナーに来る人生相談が予想以上にヘビーだった

井之上:やまもとさんのメルマガは、Q&Aの熱量がとにかく高いですよね。

やまもと:毎回、悩むのは「私に回答する資格はあるんだろうか」ということなんですよ。質問にはなるべくすべて回答するようにしているんですけど、とてもカジュアルには回答できない質問が結構来るんです。

例えば、「会社を辞めようと思っています。家内もいるし娘もいるし、もう仕事を続けられません」というような質問をいただいたことがあります。それで、「いや、奥さんと娘さんがいらっしゃるのでしたら、普通は仕事を続けるモチベーションが湧くんじゃないでしょうか。ご質問の主旨がピンと来ないんですが」と逆に質問したんです。そうしたら「実は、娘に重度の障害があって」みたいな話になって……。

それで奥さんが精神的に参ってしまったと言うわけです。まあ、育児と介護に追われて心身ともに疲れきってしまったんでしょうね。だから、「もう自分が会社を辞めて、政府から給付金でももらいながら娘の面倒を見なければいけない」というような話だったんです。でも、そんな話をメルマガに書けるわけがないじゃないですか(笑)。

ただ、メルマガの中で回答するのは難しいけれども、一人の人間としてあなたの背負っている十字架はよく分かるので、「何かできることがあったら力になりますよ」とメールを送ったんです。介護しながら働ける施設も、今はいろいろあるので紹介したりもしましたね。あとは、住むところですね。「自治体によっては介護が必要な方を積極的に受け入れてくれるところもあるので、そういうところを選ばれたらどうですか」とアドバイスをしたりしました。何と言うかもう、「家内とは何も相談することもできません」という感じだったので。

こういう質問を送ってきてくれるというのは、もちろん僕にとってはすごく幸せなことなんですけど、同時にやっぱりすごく「重い」ことだなあと。

今までは、僕の書いてきたものは、どちらかというと「自分」推しだったんですよ。だからメルマガも当初はそういうものにしようと考えていました。とにかく自分が興味を持っていることを書こうと。中国の情報機関が云々とか、安全保障がどうのとか、そういう僕自身が興味を持って調べているものについて書くのが面白いんじゃないかと思っていた。でもやはり、読み手さんのニーズがだんだん分かってくると、そっちの方に「拠れて」いく。

要は生きていくための「発想」と、「しくみ」に関することですよね。

僕もそれなりに40年間生きてきたわけで、失敗の人生だったとは思ってはいません。投資家としてのバックグラウンドがあるし、ウェブの中では幸いにして賛否両論ありつつも、ある程度の知名度があり、現状、読み手さんにも恵まれている――まあ、そういう意味では僕みたいな書き手になりたいと思っている方もいらっしゃるかもしれない。それはそれで大変なことですよ、とも思うんですけれども……。まあ、とにかく自分自身が身につけてきたものが「芸」として何とか成立した以上、それを土台にしながら、生きていくための「発想」を語らせていただいている感じです。

それから「しくみ」というのは、「この世はどういう構造で成り立っているか」ということですが、これについてはみなさん意外とご存じないんですね。というよりは、知ろうとしてこなかった部分があると思うんです。

以前、造り酒屋を経営されている方から「経営が厳しい」という相談が来たことがありました。財務諸表まで送ってこられて何回もメールのやりとりをするなかで、経営の厳しさとか業界構造のお話をしたんですけど、僕からすると問題はシンプルだったんです。つまり、「どうして解雇しなかったんですか」ということでした。(※1)

※1「社員を切ってください、雑巾は絞ってください」プレタポルテby夜間飛行

それで「人件費が売上に比べて過大です。もし、自分が経営者の立場だったら、2年ほど前に社員の4分の3はクビにしています」とお伝えしたんですね。「そして自分なら、そうして浮かせた人件費で足りない杜氏さんや実際に作業してくれる方を雇います。季節労働の形で雇ったり、地域の紹介で雇ったり。そういうことを専門にやっている会社を探してアウトソースしたり。そういうやり方を考えたと思いますよ」と。

その方は、親の仕事を引き継いだ方なのでお酒に関しては詳しく、仕事の中身も分かっていました。でも、経営についてはまるで分かっていなかったりするんですよね。例えば、銀行との折衝の仕方とか、どうすれば売り上げを上げられるのかとか、どうすれば社員の気分を損ねずに賃下げをのんでもらうのかとか。そうしたことについてはあまりご存じない。それは「しくみ」の問題であり、もっと言えばノウハウの問題なんですよ。

そういうことを、ナマの経営をやっている人間である僕や、周辺にいる人たちのエピソードを通じて知りたい……というニーズが結構あるらしい、と途中から気づいたんです。

まあ、こうしたことを基本路線にして書いているんですが、よりジャーナリスティックな観点から言うと、GREEさんを連発で取り扱ったのがいいのかどうかは別として、やはり号外はきちんと出していきたいと思っています。「通常の号で書きゃいいじゃないか」という突っ込みもあるかと思うんですが、市場が閉まってから出したいという事情もあって、金曜の夜に出すとなるとどうしても号外になるんですよ。

やはり僕も投資家なので「場中」でそれをやったら「お前、その会社の株を持ってるんじゃないの?」という話になるんです。実際、GREEさんの株は持っていないわけですけど。ですから「場」に対する影響に対しては制限的な時間帯をきちんと選んでユーザーさん、読み手さんに伝えたいと強く思っています。

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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