やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

急成長女性向け風俗の蹉跌とホスト規制


 一部界隈ではすでに原案と関連議論が漏れて出てしまったようで、大騒ぎになりつつあるホスト規制ですが、他方で「ホスト型デリヘル」業態として問題となっている東京秘密基地のような派遣型女性向け風俗も顕在化。もっとも、東京秘密基地は本番行為は禁止であり、派遣されてきた男性をモノにできない女性が来るって訴え出た然の被害報告ぐらいしかなくてこれはこれでひとつの完成形だから東京秘密基地はセーーフじゃねえの、という感じすら致します。

女性用風俗「東京秘密基地」急成長の秘密

 こういうの、放っておくとすぐ潰しに行く人が出ますからな…。

 裏を返せば、それだけホストクラブやオンラインカジノ、女性向け風俗の弊害を訴える声が増えてきたぞということでもあり、これを行政が「どこまでが健全とするか」の線引きを考えるのは一苦労とも言えます。

 とりわけ、20代女性でホストクラブ通いから疑似恋愛を釣りに法外なおカネを要求され、風俗に沈む女性がトー横キッズ化するという、colaboの存在もまあ分からんでもないぞぐらいの勢いで面倒なことになってきており、これが以前は歌舞伎町や渋谷センター街がねぐらだったものが、ホストクラブの郊外化と共に新大久保や下北沢、川崎あたりまで散っていく現象を起こしています。そりゃ制限がかかりそうな地域に店をそのまま出しておく必要はありませんからな…。

 ある程度歳が行くと、自力で稼ぐ人はギャラ飲みやパパ活からプロ愛人方面へ、さらに不動産営業などと夜の商売の二毛作へと発展していくことになりますが、行政で喫緊の課題となりそうなのは弱年齢層への広がりと、おっ被せられる法外なツケ金額の極大化です。ぶっちゃけ、日本に送られてくる技能実習生にブローカーが家族に借金を追わせて仕送りを強要するのが現代の奴隷制度だとするならば、それの国内性風俗版だと指弾されても致し方のないところでしょう。

 今回問題となった組織のひとつであるホストクラブ運営のオーナー筋は、最初はどうも脱税だぞと思われていたものが、実は違法薬物からファクタリング、違法カジノ運営まで犯罪のデパート然としていたところに問題がありました。年内にも摘発なのだろうと思いますが、横展開で闇バイトに人員派遣しているようだという話が出たり、ネット上で不適切な投資商品を売っている元反グレグループとのかかわりが強く取り沙汰されるなど、これもうポスト暴対法でのヤクザと同様じゃんという指摘は事欠きません。

 また、嫌疑のかかった別の組織はど真ん中元関東連合で、ただし一度罪を認めて有罪判決となり、服役後シャバに出てきてまともに真面目にやった結果が合法な性風俗とその周辺にいる反グレの皆さんというこれはどうもならん雰囲気の世界観ですので、これはもう適法にやってくれていれば仕方ないやって諦めざるを得ないような案件になりつつあります。

 もちろん、これらの問題は実質的に経営を行っているオーナーとその周辺の皆さんと、表向き会社の代表取締役をやったり会社組織の構成員・役員だったりする堅気の皆さんとで役割も構造も異なるのだという点です。これらの組織の常として、カネや女性を巡る揉め事の結果、チクリや抗争が起きてはご破算になる展開があるのですが、シノギを吸い上げる仕組みまでは分かっていても、それがオーナーに対する契約に基づいた適正な経営指導やロイヤリティなのだと言われてしまうとそれはそうですねってなるのがまたミソです。そうなると、おぜぜの出入りのところは国税庁さんにお任せして、取り組むべきはやはり犯罪的な行為なのか、社会的に不健全とされる事案に対する関わりのところを泥臭く洗い出していって一個一個摘発、ということにしかならないのもまた仕方のないところです。

 しかも、冒頭にあるように東京秘密基地は本当の意味で適法なので、本来はこれは現段階で完全にセーフと見込んで違うところで事案を積み重ねようというのが筋論になるはずが、やはり利益が出ているとか急成長しているとか言うと目立つうえ、そんなものをのさばらせていいのかという感情論もまた出てきます。いや、それはお気持ちでやんすよ…。

 私なんかは、かつてアクロバティックにテレホンクラブ(テレクラ)やブルセラショップ規制などで割とギリギリの摘発劇となったことも含めて思い返すことはたくさんあります。あれは本当に摘発するべきものだったのか、いまだに議論は分かれますが、そのころと現在とでは、ネットはあるわ支払い手段は追いかけづらいわ本人はそこにいるわけじゃないわで事実認定が面倒くさいことこの上ないのもまた事実です。これらが反社で反グレでAMLの文脈から犯罪収益移転防止法で仮想通貨も差し押さえなんだと幾ら息巻いてもなかなか現状で対応はむつかしかろうというのが正直なところです。

 やはり、売上が上がること、需要があることは一定認めて、その合法の範囲内でやりたいと思っている事業者と渡りをつけて、業界内でここまではセーフとするという線引きを行政や官憲と一緒に枠組みを作って前に進めるようなやり方でないと、各県警でバラバラに案件化して整合性が取れなくなって身動きできなくなり、結果的に性犯罪・性的略取が止まらない現状が野放しになることの方を怖れます。それは間違いなく被害女性がいる話ですし、世の中そんなもんだから、と割り切らないようにするにはそういう方法しかないのではないかと思うんですけどね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.411 急成長女性向け風俗産業はどうしたものかと考えつつ、文春VS木原誠二さんの件やビッグモーター問題の先にある懸念などを語る回
2023年7月19日発行号 目次
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【0. 序文】急成長女性向け風俗の蹉跌とホスト規制
【1. インシデント1】いつの間にか割と天王山になってしまった文春VS木原誠二さんの戦い
【2. インシデント2】ビッグモーター問題で気になるサイバーセキュリティ対策を支えるトラスト
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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