津田大介
@tsuda

中国在住フリーライター・ふるまいよしこ氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

この9月、中国各都市で大規模な反日デモが起こり、日本でも話題になりました。その原因は、日本が中国との間で領土争いをしていた尖閣諸島(釣魚島)を日本が国有化したからではないかと見られています。しかし真の原因は明らかになっていません。尖閣諸島や反日デモをめぐる騒ぎが、新聞やテレビ、そしてネットなどのメディアでどう扱われたか——本メルマガでは、一連の出来事の本質は、いわばメディアの合わせ鏡を通して初めて見えてくるのではないかと考えました。そこで今回は、中国事情に詳しい北京在住フリーライターのふるまいよしこさん、そして若手中国ウォッチャーとして注目されているフリーランスITライターの山谷剛史さんのお二人にお話を伺います。

 

私は「官製デモ」と考えています

津田:9月11日ごろから9月下旬にかけて、中国で反日デモが起こりました。[*1] デモは中国各都市に飛び火。一時は125都市以上にも拡大したとされます。[*2]

デモ参加者は一部暴徒化し、ユニクロやセブンイレブン、ジャスコのような日系施設を襲っては破壊や略奪を行い、休業や操業停止に追い込みました。[*3] その様子は、テレビや新聞をはじめとする日本のマスメディアでも大きく報じられています。

事の発端は何だったのか——東京都の石原慎太郎都知事が今年4月、中国との間で領土争いの対象になっていた尖閣諸島(釣魚島)を都で買い取る計画を発表しました。その後、日本は同島を国有化する方針を固め、9月11日、それを閣議決定します。

このタイミングで、これだけ大規模な反日デモが起こった理由は、それがきっかけであろうとされるものの、真の原因は明らかになっておらず、さまざまな憶測が飛び交っています。

「中国内部の政治闘争がからんでいる」「同国で貧富の格差が拡大しているせいだ」など。

社会主義国の中国では、新聞、テレビなどのマスメディアは実質、そのすべてが政府によってコントロール可能であり、[*4] ネットの情報についても、検閲が行われています。

日本による尖閣諸島の国有化や反日デモといった一連の出来事を現地メディアがどう報じたか。それを追うことによって、今回起きた反日デモの本質や中国政府の思惑、そして日中関係の現状が見えてくるに違いない——そう考え、「メディアと反日デモ」という切り口を中心に、北京在住のフリーライター・ふるまいよしこさんにお話を伺っていくことにしました。ふるまいさん、よろしくお願いします。

ふるまい:よろしくお願いします。

津田:今回のデモには、さまざまな謎がつきまとっています。まず第一に、これは国が仕掛けた官製デモだったのか、それとも人々が自発的に始めた自然発生的なデモだったのか。世間の意見は、そこで分かれていますよね。ふるまいさんは、どう捉えています?

ふるまい:私は「官製デモ」と考えています。中国人のツイッターユーザーさんがこの前、すごく面白いツイートをしていたんですね。「政府が『自発的だ』と言うデモは政府が組織していて、政府が『誰かによって(違法に)組織された』と言うデモは、自発的なものである」と。

今回も、見事にその図式が当てはまります。あれだけ激しい略奪が横行したのに、逮捕者の数はものすごく少ない。これはどう見ても、官製デモでしょう。中国でそれを否定する人は、多分いないと思いますよ。

津田:今回の反日デモは、多くの都市で起こっているじゃないですか。そのほとんどが官製デモだったとしても、それに触発された自発的なデモも各地で起こっていたんじゃないかと思うんです。そのあたりはどうお考えですか?

ふるまい:私の考え方はこうです。日本が9月11日、尖閣諸島を国有化した。それを受けて、中国政府は全国メディアの一面に、それを非難する記事をバッと載せた。とにかく、民衆の反日スイッチをオンにしたわけですよ。

「釣魚島の主権はわれわれにあり」——そんな見出しが並んでいたら、中国人は多少なりとムードに煽られるところがあったでしょう。みんな「釣魚島はわれわれのもの」という教育を受けて育っていますから。

そうして反日の雰囲気をまず盛り上げてから、政府がデモを組織したのではないかと。聞いた話では、北京の日本大使館前で行われた反日デモにも、政府が集めたと思しき人や私服警官が相当数入っていたそうです。

そしてデモ隊の中に(反日だけではなく、反政府スローガンを叫びそうな)「不審者」が入ってくると、彼らが「あそこに変なやつがいる」ということで、周りで目を光らせている制服警官を無線で呼び込み、つまみ出させていたというんです。

私、反日デモの取材をしていた日本人の記者さんとお話ししたんですね。その方は果敢にも、デモ隊の中に何度か混ざり込んでみたそうなんです。

そうしたら、そのつど警官が何人か寄ってきて、引っぱり出されたと。私が「デモ隊には私服警官も入っているらしいですよ」と教えたら、彼も「そういうことだったのか」と納得していました。

1 2 3 4 5 6 7 8
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

空港を見ればわかるその国の正体(高城剛)
「GOEMON」クランクインに至るまでの話(紀里谷和明)
ソフトバンク・Pepperの価格設定から見る「売り切り時代」の終わり(西田宗千佳)
未来を切り開く第一歩としてのkindle出版のすすめ(高城剛)
『数覚とは何か?』 スタニスラス ドゥアンヌ著(森田真生)
DLNAは「なくなるがなくならない」(西田宗千佳)
「モザイク」は誰を守っているのか−−向こう側からは見えている(小田嶋隆&平川克美)
【ダイジェスト動画】名越式仏教心理学を語る(名越康文)
『風の谷のナウシカ』宮崎駿著(名越康文)
週刊金融日記 第272号<高級住宅地は子育てにまったく向かないという話 他>(藤沢数希)
現代社会を生きる者が心身を再構築するためのひとつの手法としてのアーユルヴェーダ(高城剛)
サイバーセキュリティと官民協力の実態(やまもといちろう)
21世紀のスマートトラベラーは天候のヘッジまで考えなければいけない(高城剛)
夏休み工作、今年の「音友ムック」はQWT型!(小寺信良)
本当の知性を育む「問いへの感度を高める読書」(岩崎夏海)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 648円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ