津田大介
@tsuda

若手中国ウォッチャー・山谷剛史氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

この9月、中国各都市で大規模な反日デモが起こり、日本でも話題になりました。その原因は、日本が中国との間で領土争いをしていた尖閣諸島(釣魚島)を日本が国有化したからではないかと見られています。しかし真の原因は明らかになっていません。尖閣諸島や反日デモをめぐる騒ぎが、新聞やテレビ、そしてネットなどのメディアでどう扱われたか――本メルマガでは、一連の出来事の本質は、いわばメディアの合わせ鏡を通して初めて見えてくるのではないかと考えました。そこで今回は、中国事情に詳しい北京在住フリーライターのふるまいよしこさん、そして若手中国ウォッチャーとして注目されているフリーランスITライターの山谷剛史さんのお二人にお話を伺います。

 

中国政府によるネット言論統制の現状

津田:今回の反日デモでは、中国で新たなネット世論が巻き起こっていることに注目が集まりました。そこで、微博(ウェイボー)[*1] とツイッターでどのような動きが見られたか、ふるまいさんのお話でも「若手中国ウォッチャー」としてお名前が挙がったITライター・山谷剛史さんにお話を伺っていきます。実は山谷さんは、僕の出身高校である東京都立北園高校の3つ下の後輩で、2ちゃんねる創設者である西村博之さんの同級生でもあるんですが、今日は取材ということで、よろしくお願いします。

山谷:よろしくお願いします。

津田:今回の反日デモについては、同じ中国国内でも、いわゆる既存メディアとネットメディアで論調が違っていたように思うんですね。山谷さんがウォッチしていた範囲では、どのような違いがありました?

山谷:新聞のような既存メディアは割と統率されていて、最初の段階では「中国はこれだけ怒っている、尖閣を取られないようにがんばろう」といった論調でした。ただしその後、暴動がエスカレートしすぎた感もあり、「理性的にやりましょう」となりましたね。

かたやネットでは、行き過ぎを戒める声もあったものの、「反日デモをやりたい」という声のほうが大きかったんですよ。去年日本では、フジテレビの番組編成が韓流に偏っているとして、ネット発の「フジテレビ抗議デモ」が行われました。中国の反日デモも、あれと似たところがありましたね。絶対数は多くないでしょうが、デモ推進派が圧倒的多数。それを諌(いさ)める声が伝わらなかった感はあります。

ただ1日、2日経ち、デモが暴動化するにしたがって、「ちょっとこれ違うだろ」というほうに、みんな動いてきた。ツイッターやその中国版のウェイボーみたいなSNSでは、既存メディアに先駆けて論調が変わっていました。

津田:中国政府がウェイボーなどの発言にフィルタリングし、反日傾向を抑えようとしていたという話もありますね。

山谷:はい、デモが始まった最初の頃からやっていました。今回のデモは全土的に行われた15日西安などで大暴動に発展したんです。[*2] それで「西安のエリアでネットに規制がかかった」という話を各所から聞きました。実際、デモ翌日には「反日」などの言葉を含む書き込みが、かなり消されていましたね。

津田:中国政府はこうしたネット世論を監視するため、ネット世論監視ソフトを使っているそうですね。

山谷:ネット世論監視ソフトはいろいろな会社から発売されています。これは主に二つのラインがあるんですね。一つは企業向け。企業が自社に関する変な噂がネットで流れた時、すぐに封じるために使っています。もう一つは、中央政治、地方政治含めた政治向けです。特定のキーワードをセットしておくと、すべての中国語サイトを対象に、ほぼリアルタイムで書き込みを検索し、レポート画面を作って問題のサイトや警察に通報するというしくみです。

津田:それから、中国のネット世論を毎日レポートしているサイトもあると。

山谷:有名なものに、新聞社の人民日報がやっている「人民網輿情観測室」[*3] があります。これは毎日更新だったのですが、反日デモ後、一時的に更新が行われなくなりました。同じ位置づけのサイトに「中国輿情网」[*4] があります。こちらは15日以降、更新が止まりました。どちらもおそらく血まなこで情報を分析していたのでしょうが、対応にナーバスになって、外部に情報を出さなかったのでしょうね。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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