津田大介
@tsuda

若手中国ウォッチャー・山谷剛史氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

「Yahoo!ニュース」を見ている人に現状を伝えたい

津田:今回の反日デモは日本のマスメディアでも取り上げられていました。そうした一連の報道を見て、どう捉えていますか?

山谷:テレビについて言うと、日本と中国ではそもそも放送のシステムが違うから、どうしても違うように見えちゃうんですよね。

日本はニュースをやっている時間帯が民放の場合、だいたい同じじゃないですか。夕方ごろチャンネルを回すと、どの局も反日デモ、しかも同じ破壊活動の映像が流れている——といった具合。だから、イメージが刷り込まれやすくて、「中国人は恐ろしい」イメージができあがりやすいんじゃないかと思いますね。

一方の中国では、まず「中国中央電視台」という全国ネットがあり、それとは別に広東省など省ごとのネットがあり、その下にさらにネットがあって——となっている。ニュースのチャンネルはそれぞれに1つしかないから、内容はそんなにかぶらないんです。だから、一つの映像が何度も刷り込まれるってことは、そんなにないでしょう。内容の是非は別として。

津田:日本のネット世論で何か気づかれたことはありますか?

山谷:僕自身がツイッターでフォローしているのは、中国に足を突っ込んでいる方ばかりです。だからタイムラインは、極めて冷静でした。もちろん、それが日本の世論でないことは十分存じているところです。

ネットではどういう媒体を見ているユーザーかで反応が違います。たとえば、僕がふだん、IT系ニュースサイトの「ITmedia」で記事を書くと、寄せられる感想は冷静なんです。だけど、同じ記事が「Yahoo!ニュース」や「ニコニコニュース」に転載されると、伝えたいことがなかなかストレートに理解してもらえない。そういうもどかしさがあるんですね。

今回の反日デモをめぐる記事は、Yahoo!ニュースを見ているような人に読んでほしかったんですよ。中国や中国人のことを「ニセモノ」「愛国」「毒」「爆発」などといった悪いステレオタイプだけで見る人に、目を通してほしかった。

日本では中国の掲示板のコメントが翻訳されて中国人の反応として記事化されるように、中国ではYahoo!ニュースのコメントが翻訳されて日本人の反応として記事化され、両国のネットユーザーが誤解し合う悪循環が起きている。

だから、ありがたいことにいくつか連載枠がある中でも、Yahoo!ニュースに転載される可能性の高いITmediaを選びました。もちろん、ITMediaが一般ニュースを扱いたがっていた、僕がずっと書いている媒体で読者ともうまい具合につながっていた、という事情もあります。今回はちょうどマッチングがうまくいった感じですね。

津田:ところで、山谷さんは今、日本に戻ってきているけれど、もともとは中国にお住まいでしたよね。また現地に戻る予定は?

山谷:う〜ん……正直、なかなかキツいですね。僕はガジェット系のニュースを書く仕事をやっているんですよ。今、中国では日本人とわかると、オンラインでもリアルでも、ものが売ってもらえないという話も出てきています。だから面倒だなあとは思っています。

津田:「身の危険を感じる」ということではなく、「商売がやりづらくなるだろうな」と。

山谷:はい。心配なのは、基本的にそっちのほうですね。

中国の人は、お互い面と向かって話すぶんには、いきなり殴りかかってくるようなことはしません。ただしグループになると、普段は理性的な人でもワーッとなって、タガが外れて暴力に走ったりしやすい。そうなると怖いですよね。

もちろん、日本や日本人に何らかの意味で依存している地域であれば、状況は早めに改善していくかもしれません。でも、外国人がいない地区や日本人が行かないマイナーな都市では、「日本人お断り」と書いても何のリスクもないし、カッコよくみえる。だから、意味はなくても反日アピールをする人間は必ずいるんです。

津田:反日デモの余波はまだ続きそうだと。今日はどうもありがとうございました。

 

《この記事は「津田大介の『メディアの現場』からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》

 

▼山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター。主に中国やアジアの国々のIT事情を執筆。日本人の感性で現場の庶民の視点を紹介するルポ執筆のほか、中国のITを軸にしたテーマの講演を行う。ITMedia、ASCII、Impress Watch、日経BPなどのIT系メディアやJBPress、ダイヤモンドオンライン、東洋経済オンラインなどの経済誌などで執筆。著書に『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)。今秋、インプレスのNext Publishingより中国IT事情をまとめた本『中国インターネットトレンド[2011.11-2012.10]現地発ITジャーナリストが報告する5億人市場の真実』をリリース。
・公式サイト:http://www.geocities.jp/dtgoshi/
・ツイッター:@YamayaT

 

[*1] http://www.weibo.com/

[*2] http://www.jiji.com/jc/zc?k=201209/2012091600275

[*3] http://yq.people.com.cn/service/index.html

[*4] http://www.pubtopic.org

[*5] http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1209/03/news089.html

[*6] http://s.weibo.com/weibo/%25E5%25AE%25B3%25E5%259B%25BD&Refer=index

[*7] http://news.xinhuanet.com/photo/2012-09/17/c_123726019.htm

[*8] http://xinhuanet.com/

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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