高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

史上最高値をつける21世紀の農産物

高城未来研究所【Future Report】Vol.616(4月7日)より

今週は、パナマのダビデにいます。

いまから十年ほど前、この地域から「21世紀の黄金」が出て大騒ぎになったことがあります。
その黄金の名前は「ゲイシャ」。
いままでになかったコーヒーの新種が、史上最高値で取引されたのです。 

ゲイシャは、アラビカコーヒーの遺伝子多様性の世界的な貯蔵庫と言われるエチオピア南西部カファ地方にて、1931年にゲシャ山周辺で発見された品種です。
その後、検分のためタンザニアのTengeru(現Lyamungu)コーヒー研究ステーションに送られ、1953年にはリャムングでVC-496として栽培に成功したコーヒーノキがコスタリカのCATIE(Centro Agronomico Tropical de Investigacion y Ensenanza)に持ち込まれます。
これを当時パナマ農業省の職員がパナマに持ち帰り、パナマでゲイシャの栽培が始まりました。
しかし、ゲイシャは栽培と商業的な困難さのため、しばらくは放置されることになりました。

それもそのはず、ゲイシャは相当高度な地で育てなければ味を引き出すことができません(当時は知られていませんでした)。
その上、一般的な商用栽培品種のアラビカコーヒー種のコーヒーに比べて収量も半分程度しか獲れません。
こうして、長らく見捨てられた状態が続きました。

しかし、21世紀に入ると、スターバックスに代表されるチェーン店のコーヒーとは違う、本当のコーヒーの味を求める人たちが急増。
このムーブメントにあわせて、1960年代にバンク・オブ・アメリカの元社長ルドルフ・ピーターソンが買い取ったエスメラルダ農園の3代目ダニエル・ピーターソンが、ゲイシャを再栽培し、独特な味を引き出すことに成功します。
2004年にコーヒーの国際品評会である「ベスト・オブ・パナマ」にて当時の落札最高額の世界記録を更新して優勝し、一躍脚光を浴びるようになりました。

一見、ゲイシャと聞くと日本の芸者を連想しますが、実は縁も所縁もありません。
原産地だったエチオピアのカファ(コーヒーの語源)では、1990年代まで文字を持っていなかったため、発掘された地域「Gesha」が訛って伝わり「ゲイシャ」になりました。 

一般的にゲイシャコーヒーは、花の香り、ジャスミン、チョコレート、蜂蜜、紅茶などの甘い香りを持つことで知られていますが、繊細でデリケートなことから、栽培だけでなく管理もしっかりしなければ、せっかくの風味が損なわれてしまいます。

価格は高値で取引されており、事実上パナマゲイシャに特化しているコーヒーの品評会「ベスト・オブ・パナマ」のオークションで1ポンド(450g)あたりの生豆の価格が、エスメラルダ農園(Hacienda La Esmeralda )からゲイシャが出品された2004年は21ドル、2006年に50ドル、2007年に130ドル、2013年に350ドル、2017年に601ドル、2018年に803ドル、2019年に1,029ドル、2020年に1,300ドル、2021年には2,568ドルと年々高騰。
まさに「21世紀の黄金」なのです。

ちなみに、カリフォルニア等娯楽大麻合法地域のリテール大麻価格が、10gあたり日本円にしておよそ1万5,000円。
ベスト・オブ・パナマで落札したパナマ・ゲイシャは、コーヒー1杯10gあたり2万円程度のリテール価格で提供され、いまや大麻価格の値段を上回り、消費量が多いことから総売上高は娯楽大麻の比ではありません。
モチロン、世界中で合法です。

史上最高値をつける21世紀の農産物。
スペシャリティ・コーヒーの明るい未来は、もう少し続きそうです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.616 4月7日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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