やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

日本人の情報感度の低さはどこからくるのか


 夏の終わりに臨時のヘルパーさんをお願いするなどして、少し休みを取り、家族を連れて結婚式出席がてらグアム、ハワイと西海岸、豪州へとラッシュ旅行をしてまいりました。もっとも、家内と子供をグアムにおいて西海岸は得意先巡りでほぼ時間が消滅したわけなのですが、サンディエゴでパドレス戦を日本人会の人たちとご一緒出来たのは何よりも良かったです。

 海外から見た日本は非常にバイアスがかかりやすく、日本すげえ一辺倒か、出羽守的な日本は劣化した論に振れやすくなるのですが、個人的には一長一短、昔ながらの日本観、日本人論でもそう大きく変わりのない日本の姿でした。日本とのビジネスをしている人たちとの交流ですから、彼らも日本についてある程度以上の知識があるからこそ、落ち着いた日本人評をするのを聞いているわけですけど、それを割り引いても「まあまあ良くやっている」という点では、それほど悲観するほどもなく、ただ存在感は薄れていて、その存在感が薄れている理由も「退屈」だが「誠実」な隣人といったところだと感じます。セキュリティ分野では相変わらず駄目な日本ですが、パートナーとしてはまずまず文句を言われることは無さそうな雰囲気で。

 ただ、政府関係者の方とご一緒してみると、この日本の存在感のなさは端的に言って中国や中東諸国の混乱や成長、台頭との相対的なものであることに気づきます。日本政治の状況についての基本的な知識は当然共有しながらも、例えば「安倍晋三総理がこういうことを言った。その意味は何か?」とかいう解釈論にまでは話が及ばないのです。安倍さんのことだから、まあいつもの調子だろう、で終わり。As usual。

 一方で、中国の習近平国家主席となると、他愛のない一言、何気ないふるまいが解釈論の対象になります。もちろん、喫緊の北朝鮮問題や極東安全保障、新疆ウイグル自治区などでの人権問題や、トランプ大統領が仕掛けた米中貿易問題にいたるまで、何かあるごとに習近平さんは何を考えているのか、どう判断するつもりなのかといったあたりが大変な議論の対象になるのです。

 この界隈では、一時期の中国国内の情報網が中国政府のスパイ摘発作戦で一網打尽にされ、協力者とされた数十人の殺害や拉致などの壊滅的な被害を受けた事例に対する衝撃が大きかったこともあると思いますし、ロシアやイスラエルとの関係も遠巻きに見ながら中国との対立構造もきちんと視野に入れている担当者が増えたことが背景にはあるのでしょう。

 日本においても、中国系情報網の確認に手間取るだけでなく、日本人が中国訪問した際に、思わぬ形で当局監視の対象となり、場合によっては当局に連行されたりしています。昔は、本当にその方面の有識者をピンポイントで狙って来ていたのが、むしろ最近は中国側当局の点数稼ぎの対象となっているのか、根こそぎ調べられ、情報を抜かれるケースが増えているようにも思います。この状況下で日中関係の信頼を回復させようという舵取りをしようにも、大事なところで日本人拉致や摘発というスピンが出て台無しになることを繰り返すのではないかと懸念するところでもあります。

 日本型組織、とりわけ日本人純血の組織に特徴的だなと思うのは、情報の軽視と、それに伴う情報の真贋を見極める仕組みの機能低下です。ものごとの真贋を見極められないのだから、どの情報が国益や組織防衛において重要なのかが分からないわけでして、いまごろになって日本型FBIの創設を、とか、諜報機関を作ろう、とかいう議論がのんびり出てくるのも悩ましく思うのです。正直、そういう企図をしようとしている人も背景も見抜かれているわけでして、そこに注力しようと思ったら日本国内においても正面から殴られて終わりです。

 我が国の場合、普遍的価値を大事にしようという旧来型の秩序の護持者でもあります。いわば、民主主義、人権思想を根底に、綺麗事ではあるけどこれを抜きにして語ってはいけません、という大前提があるからこそ、アメリカをはじめ各国が「まあ日本は穏健だから」と振れ幅の期待値を低く見てもらえている、だからこそ存在感がないとも言える。一方で、それを武器に何かを進めることにも無頓着で、おそらく隣国なのにウイグルやチベット、北朝鮮などでの人権侵害状況についてまともに調査している人もそれほど多くない、というのが実際のところです。

 何処にカネを使うべきなのか、何に努力を払うべきなのかを、明らかに間違えて現在まで来てしまっているのだろうなあというのは、海賊版サイトのブロッキング議論で平然と憲法違反の話を政府がしてしまう体たらくのほうに課題を感じます。私だって、人権は人間同士の決め事に過ぎず、森羅万象の世界とは異なっているわけですから、それを金科玉条にし過ぎるのは駄目だとは思いますよ。ただ、それを守る側の陣営で平和と安定の果実を受益しているのだから、もう少し真面目に配慮しろよ、とは思うのです。

 それでもこういう議論が表で平然とできるのは、日本が平和で安定している証拠、と言われるとそれまでなんですけどね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.237 日本人の情報感度の低さについて語りつつ、止まらない野党の地盤沈下を憂え、QRコードベース決済サービスの近況を探る回
2018年9月28日発行号 目次
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【0. 序文】日本人の情報感度の低さはどこからくるのか
【1. インシデント1】沖縄県知事選、の脇で起きている野党の地盤沈下
【2. インシデント2】QRコードベースの国内モバイル決済市場を巡るポジション争いのあれこれ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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