名越康文
@nakoshiyasufumi

『驚く力』文庫版より

目的意識だけでは、人生の中で本当の幸せをつかむことはできない

「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」ことができるのは、馬がお腹を空かせている間だけだ。ニンジンを食べて満足した馬は、走るのをやめてしまうだろう。

 

驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』(名越康文 著)より

 

「そんなに勉強してどうすんの?」というたった一言によって、もろくも崩れ去ってしまうような情熱と、何があっても継続できる情熱との間には、どういう違いがあるのでしょう?

私は、そういう些細なきっかけで情熱がなえてしまうのは、あまりにも学びの目的がはっきりしすぎているからではないかと考えています。

 

「え? 目的がはっきりしているのはいいことじゃないの?」

 

と思われるかもしれませんね。

 

確かに「いい大学に入る」とか「これを学ぶことで年収をアップさせる」といった具体的な目的を持ち、努力を重ねることは、普通「良いこと」と考えられています。実際、私たちが受験勉強やスポーツ、その他の習いごとに取り組むときには、はっきりとした目的を持ったほうが良い結果をもたらすことは多いでしょう。

 

特に、受験勉強など「短期間の勝負」では、目的はできるだけはっきりしていたほうがいい。スポーツや芸事などでも、「次の試合に勝つ」「今度の発表会でいい演奏をする」といった目標を設定し、そこに向けて一致団結したほうがきっと頑張れるし、結果を残すこともできるでしょう。

 

ただ、そういう「はっきりとした目的意識」には、大きな弱点があります。

 

まず、「短期間の勝負」に向いているということは、裏を返せば「中長期的な勝負」には向いていないということです。

 

例えば「来月」や「来年の三月まで」ぐらいの期間なら、ある程度具体的な目標を定められるし、そこに向けて努力することもできるでしょう。しかし「三年後」「一〇年後」となると、目的や目標はどうしても抽象的なものにならざるを得ず、動機づけとしては弱くなってしまうでしょう。

 

また「そんなに勉強してどうすんの?」という言葉で一気に意欲がなえてしまうのは、自分自身が心の底から、その「目的」の価値を信じることができていないからでもあります。

 

そもそも目的意識による動機づけは、目的が達成されるとモチベーションが落ちてしまうという宿命を抱えています。

 

「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」という比喩がありますが、その方法が有効なのは、馬がニンジンを食べていない間だけです。「ニンジンを食べたい」という目的意識で走っている馬は、ニンジンを食べて満足したら、当然、走るのをやめてしまうでしょう。

クラブ活動などに一生懸命取り組んできた高校生が、三年生の引退試合が終わった瞬間、ぷっつりとその競技から離れてしまうことがあります。これは「はっきりした目的意識」というものが抱える、宿命的な弱点を端的に表しています。

期間が限定されていることと、目的を達成した「その後」のモチベーション維持が難しいということだけでも、目的意識だけでは一生涯にわたって学びを継続するような強い動機づけは得られない、ということがわかります。

 

逆に言えば、一生涯にわたって物事に対する熱意を持ち続ける人は、こうした具体的な目的意識とは異なる「動機」を持っていることになります。

ではそれはいったい、どういう「動機」なのでしょう?

 

 

※続きは本書をご覧ください。

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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