川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.022より
 

kirin
<筆者撮影>

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動物園の5つ目の役割とは?

今年の三月と五月に、関東地方の動物園に勤務する若手の勉強会「関東若手動物園研究会」の講師を連続して二回務めた。去年(2015年)、問題になった、日本のイルカ飼育について主に話したのだけれど、フリートークの中でこんな質問を受けた。

「動物園の4つの役割はよく知られていますが、5つ目の役割を挙げるとすれば何がありますか?」
 
最初はピンと来なかった。そんなのってなにかあるのかなあ? と。

でも、ふと口をついて出てきた。

「コミュニティづくり、じゃないですかね」と。

まず、復習しておこう。動物園の4つの役割というのは、
 

・種の保存
・環境教育
・調査研究
・レクリエーション

のことだ。
 
動物園とはすなわち、「動物を飼育して見せる」ところであり、人類の歴史上、安定した社会では、繰り返し作られてきた。その目的・役割・機能として、時の権力者(王や貴族など)や市民を楽しませるため、という時代・場所も多かった。そういったものをZooではなく、Menagerieと区別する場合があるが、少なくともこの議論の中では広義の動物園としておく。

そして、1980年代から北米を中心に練り上げられてきた、現代的な動物園のあり方を示すのが、「4つの役割」なのである。今も、動物園(と水族館)は、はっきりとその原則のもとにある。日本動物園水族会協会(JAZA)のウェブサイトを閲覧すると、「JAZAの4つの目的」として、高らかに掲げられている。
 
「動物を飼育して見せる」動物園は、人間が生き物を見たいという欲望に根ざしているのは間違いないことで、否定すべきことでもない。しかし、現代的な動物園は、一歩踏み込んで新たな「役割」を引き受けているのだ、と理解している。

では、そんな流れの中、5つめの役割というのがあるとすれば、どんなものか。

それが、会場からの問いかけだった。

それに対して、なぜかぼくの頭に「コミュニティづくり」という言葉が浮かんできたのだ。

 
 

動物園は穏健な自然保護・動物福祉の核になりえるか

そのコミュニティとはどういうものか。その場ではうまく説明しきれなかったこともあり、ちょっと考えてみる。

まず、前提として──動物園は、「飼育し、見せる」中で、なにがしかのメッセージを発している。

今の動物園に来て、そこで楽しみ、感じ、学ぶような人は、おそらく──
 
・動物が好きだ、と思っている。
・野生動物を飼育すること自体は容認できるが、適切に飼育してほしいと思っている。
・展示されている動物の野生での姿にも、たぶん興味がある。
・自然保護は大事だと思っている。

というふうなことに大体合意する人たちではないだろうか。
 
つまり、バリバリのアニマルライツや、ディープエコロジーの人でも、まったくの無関心派でもなく、マイルドな自然保護・動物福祉派にくくることができる人たちだ。

そして、もうひとつ大事なこととして──
 
・動物園が、娯楽の場でありつつ、人間と生き物の
関係を改善していくための場になりうると感じる人たち。

でも、あるかもしれない。
 
 
そういう人たちが、動物園という場を核にして、集うことができる。自分たちをひとつの「クラスター」として意識できる。そういう機能が動物園にはあるのではないか、と思ったわけだ。
 
 

ボランティア・グループや動物園ファンの
ネットワークはすでにある

じゃあ、実例はあるのか? ぼくの頭の中にあったのは、大きく分けて2系統だ。

ひとつめは、動物園側からの仕掛けが大きいもの。たとえば、動物園を舞台にしたボランティア・グループ。中には、自主組織として成長し、何十年もの歴史を持っているところもある。

もうひとつは、ある意味新興勢力で、今回特に強調したいもの。動物園ファンがソーシャルネットなどを使い、自主的にゆるくつながることが増えている。
 
前回(メルマガ21号)、ニュースの欄で紹介したと思うけれど、大阪の動物園写真愛好家が地域で写真展を開いたことは象徴的に思えた。
http://abeno.keizai.biz/headline/2229/
 
報道によると、女性7人のグループで、天王寺動物園で知り合ったのち、フェイスブックでつながって写真を見せ合うようになったと、という。

そして、写真展では、「ホッキョクグマの同園から繁殖目的でアドベンチャーワールド(和歌山県)に貸し出している「ゴーゴ」や浜松市動物園に帰った「バフィン&モモ」の現地の様子も伝える」とのこと。

やっぱりカリスマ動物(個体)は、人気あるなあ、と思いつつ、それだけでは済まないテーマを背景に見て取ることができる。「繁殖目的でアドベンチャーワールドに貸し出し」「浜松市動物園に帰った「バフィン&モモ」」というのは、いわゆるブリーディングローンといって、動物園の動物をひとつの群れに見立てて、健全な繁殖をはかる種の保存業務の一環だ。
 
ブリーディングローンは、今でこそ当たり前になったけれど、日本の場合、つい十年前には、なかなか実現しなかった。実際、かつての超人気動物、ラッコは繁殖すべき時に必要な群れ飼育を実現できず、今や日本の動物園・水族館から消えようとしているし、ゴリラもブリーディングローンが実現した時には時遅く、何頭か赤ちゃんゴリラは生まれたものの、先行きは明るくない(すでに数が少なくなりすぎている)。これでは、種の保存の機能を果たすどころか、「動物園における絶滅」を待つばかりになってしまう。

ブリーディングローンを理解することは、つまり、動物園の現代的な意味を理解することでもある。大阪のファングループは、動物園で知り合いホッキョクグマに関心を寄せるうちに、かつてラッコやゴリラを出し渋った自治体や経営者よりも、種の保存の意義を理解するようになったと思われる。すとるなら、「4つの役割」についても意識するようになったと思われる。
 
さらに、記事には、「天王寺動物園にこんな動物がいること、動物たちの環境を豊かにするさまざまな工夫を表彰するエンリッチメント大賞に同園が昨年受賞した取り組みについて知ってほしい」というコメントが引用されている。

ここでは、もっと広く、動物園ワールドの広がりや、動物園における動物福祉にかかわる営み、いわゆる環境エンリッチメントについて話題が広がっている。
 
こういう理解をしてくれる人たちが、動物園の近くにいる。そういうコミュニティができる。このことは、やはり強調すべきことだと思う。
 
 

動物園とギャラリー

なお、天王寺動物園近くには、知る人ぞ知る、

「ギャラリーカフェ・キリン」gallery cafe *Kirin* 
http://www.eonet.ne.jp/~kirin-cafe/
がある。
 
立地が天王寺動物園にきわめて近いこと、オーナーさんが動物と動物園が大好きだということなど、いくつかの要素が重なって、なぜか日本の動物園ファンの憩いの場、みたいになっているらしい。(実はぼくはまだ行ったことがないのだが、評判が高い)

「日本の動物園ファン」とは大きく書いたけれど、実際、日本に住んでいる動物園ファンで、ソーシャルで互いにつながっているような人が大阪に行くと、天王寺動物園をたずねるとともに、「キリン」にも寄っていくのは、すごくよくある行動パターンだ。かくいうぼくは、その事実を自分のソーシャルネットを通じて知っている。
 
「キリン」だけでなく、いくつか、緩いつながりの「核」になるような人たちや場所があり、そこではアマチュア同士の交流だけでなく、プロ(動物園の飼育担当者や獣医、園長など)と交流する機会すらある。こういった、距離の近さは、
なにか、草創期のSFコミュニティを思わせるところもあり(無理やりつなげました、はい)、かなり独特だ。海外の動物園に勤務す日本人の「プロ」はこの状態を、日本独特のことかもしれないと指摘していた。

これが、いっときのユーフォリア(蜜月状態)なのか、持続的な「文化」になるのかわからないけれど。
 
 

多くのコミュニティは自発的にできる、とすると……

動物園の「5つめの役割」を問われて、「コミュニティづくり」と答えたところから、この文章を書き始めた。

で、気がついたのだが、ここまで書いた限りにおいて、ぼくが今強調したいのは、動物園が通常の業務(「飼育し、見せる」)をしていく中で、そこに集った来園者の中から、自発的にできていくコミュニティだ。
 
いわば、ソーシャル型(?)のコミュニティを念頭において、「5つめ」の役割として語ったようだ。これは、ネットの発達なくしてはありえなかっものであり、ひとたびそんなインフラが普及すると、ごく自然にできてしまったもの、ともいえる。

ならば、動物園にとって「コミュニティづくり」は役割というよりは、そのための触媒となる機能、ということだろうか。
 
しかし、「より良いコミュニティづくり」に介入する可能性は充分あって、それは、動物園(の人たち)が信じているであろう様々な価値を訴えかける格好のチャンネルになる。そのためには、今、すでにできている(できかかっている)、動物園と熱心なファンたちの関係を、好ましい形で「文化」に昇華するような戦略も必要なのかもしれない。
 
 

地域と動物園、さらにプロがつくるコミュニティ

ここからさきは、コミュニティつながりの蛇足。
 
その1。

地域社会と動物園、という大きなテーマも、すぐれて「コミュニティ」とかかわる問題だ。

と書いて、すでにこの文章自体かなりおかしい。地域社会はとは、ローカル・コミュニティなわけで、既存の地縁コミュニティが、地域社会なわけだから。

地縁でつながった人たちに、動物園の「価値」を伝えることは、ことの他大事で、勢いのある動物園はたいてい地元の支持を得ている感触がある。
 
その2。

最近、つくづく思うのは、動物園という職場がもつ不思議なコミュニティ感だ。

これまた、自分のソーシャル観察(動物園関係者がとっても多い)による雑感で恐縮なのだが、動物園に勤務する人たちは、とにかくよく動き、よく交流している。
 
そもそも、この文章を書くきっかけとなった「関東若手勉強会」だってそうだ。様々な園館の飼育担当者・獣医らが、夜、何十人も集まって遅くまで意見交換する。中には関東ではなく、遠くからの参加もある。

たぶん、「中の人」にはなかなか実感しにくいと思うので、強調しておくけれど、動物園界はそれじたいが一つのコミュニティのような不思議な世界だ。

たとえば、テレビ局に務めたからといって、違う局員同士が積極的に交流するわけでもないし、ましてや、他局に気軽におじゃましてスタジオを見せてもらう、みたいなことを日常的にするはずもない。ほかの業種でも、そんなものだろう。
 
でも、動物園の世界では、気軽に他所の園を訪ねて、担当動物の飼育状況を見せてもらったり、意見交換したり、そのまま夜は飲み会になったり、明け方、若手飼育担当者の自宅から盛り上がった写真がソーシャルにアップされてきたり(笑)等々、なにか「動物園界」がひとつの共同体、みたいな感覚があるように見える。

こういうことは、なかなかない職業なので、意欲のある人はどんどん享受するといい。
 
(この記事は川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.022に掲載されています)

 
 
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川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2016年08月19日発行vol.022
小説家・川端裕人のメールマガジン『秘密基地からハッシン!』Vol.022<新連載・アマゾンマナティを追いかけて/動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない/種子島ワールドと「宇宙遊学」/ドードー連載/再読企画:第三章>ほか

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目次

01:アマゾンマナティを追いかけて(1)まずはリマに入る
02:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
03:秘密基地で考える:動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない
04:宇宙通信:種子島ワールドと「宇宙遊学」
05:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(22)神保町のドードーから「不思議の国
のアリス」のドードーへ
06:せかいに広がれ~記憶の中の1枚:カンボジアのトンレサップ湖の子どもたち
07:著書のご案内・予定など
08:特別付録「動物園にできること」を再読する(8)第三章 イッツ・ア・ジャ
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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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