岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

これからのクリエーターに必要なのは異なる二つの世界を行き来すること

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より

先ほど、サンフランシスコとロサンゼルス(クレアモント)への旅行を終えた。今は、日本に帰る飛行機の中である。

クレアモントでは、ドラッカー・インスティテュートの会合に出席した。「ドラッカー・インスティテュート」とは、ドラッカーの功績を後世に伝えていくための機関で、さまざまな活動をしている。例えば直近では、ドラッカー夫人のドリスさんが亡くなったため空き家となったドラッカーの家を買い取り、博物館として展示、公開したりしている。

そのドラッカー・ハウスのオープンニングイベントに参加することが、今回の旅の一番の目的だったわけだが、その詳細については、後日稿を改めたい。今日は、その前に訪れたサンフランシスコの印象と、そのまとめについて書いてみたいと思う。

サンフランシスコからナパへ向かう途中で、かの有名なゴールデンゲートブリッジを渡った。この橋は、かなり昔に作られたため鉄骨でできているのだが、その割には巨大で、まるで恐竜の背の上を走っているかのような印象だ。そうして、その橋を渡りきった先には、大都会とはまた別の世界が広がっている。

それは「自然」である。ただし、野ざらしの自然というわけではなく、人間によって厳密に管理された自然だ。その一帯は、開発をぎりぎりまで制限して、自然の景観を保っているのである。

そうしてそこに、住宅街を作って住んでいる。だから、お金がすごくかかっている。おかげでその町は、とても裕福な一帯となっている。




その町の自慢は、なんでも「ウォルマートがないこと」だという。つまり、ディスカウントショップを必要としないほどお金持ちばかり住む町なのだ。あるいは、ドイツ車の保有割合も、全米一なのだそうである。そういう、超リッチなコミュテイが築かれている。

そして、その町の象徴の一つがジョージ・ルーカスである。なぜかといえば、ルーカスはその一帯に広大な土地を所有し、そこを「スカイウォーカー・ランチ」と名づけ、自分が住むのみならず、撮影スタジオや映画研究施設、あるいは牧場やブドウ畑なども運営しているからだ。

端的に言うと、ルーカスは超リッチな一帯の領主のような存在だ。そういう中世の王様のような暮らしをしている。また、その友人のコッポラも同様に、ナパに巨大なワイナリーを所有している。

これらのことから分かるのは、人間というのは、結局社会の中で貧富の差、階層の差を築く選択をしているということだ。中世から現代にかけて、文化、文明はいろいろ進化したようにも見えるのだが、結局社会の構造はそう変わっていないのである。

サンフランシスコというのは、またスティーヴ・ジョブズを生み出した街でもある。彼も大金持ちだが、ルーカスのように貴族的な暮らしをしていたわけではない。ただし彼は、圧倒的な影響力を手に入れ、プロダクト、つまり工業製品で世界を変えた。また、ピクサーという現代における圧倒的な映画制作会社を生み出してもいる。

現代社会は、そういう圧倒的なエンターテイメントを生み出すことによって世界を変える人間が、階層の最上位に行くような仕組みになっている。そして、そういう人間の代表的な二人が、奇しくもサンフランシスコという町から生み出されているのだ。

これは、単なる偶然ではないだろう。この町には、そういう現代の王侯を生みだす素地があるのだ。
その素地とは、おそらく、都会と自然とがクロスオーバーしているところではないだろうか。あるいは、昔と今とが交錯しているところ。つまり、異なる二つの世界の境界線が、ここサンフランシスコ、あるいはゴールデンゲートブリッジにはあるのである。

先述したように、サンフランシスコはゴールデンゲートブリッジを挟んで、大都会と自然とにくっきり色分けされている。これは、逆に言えばゴールデンゲートブリッジの近くに住む人間は、都会と自然の両者を比較的気軽に往来できるということだ。

あるいは、ルーカスやジョブズが生まれ育った町は、50年代の古き良きアメリカの典型的な街並みだった。これはスティーヴン・キングなどもそうなのだが、その後の60年代の大変化を経験することで、彼らは期せずしてクロスオーバーする二つの世界を生きることになった。

おそらく、この「二つの世界を生きる」ということが、巨大なブレイクスルーを達成する人間の土壌として欠かせないのだろう。そういえば、偉大な小説家には、幼い頃に貴族的な暮らしをしながら、その後没落して貧乏を味わったという人が多い。エンターテイメントに必要な素養を磨くためには、幼い頃にそうした背反する価値観を両方体験しなければならないのかもしれない。

そう考えると、もしこれからクリエーターとして生きていこうとしたら、そういう二つの世界の境界線をどこかに見つけ出し、そこの近くに住んで、両者を往来しながら暮らしていくということが必要となるだろう。自分を異なる二つの環境の中に行き来させ、その中で揺さぶっていくことが、ブレイクスルーできるかどうかの決め手となるのだ。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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夜間飛行、2014年11月

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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