切通理作
@risaku

切通理作メールマガジン「映画の友よ」

「愛する人にだけは見せたくない」顔を表現するということ

「きょう、映画館に行かない?」公開記念インタビュー

俳優・可児正光 ~青春に向き合う「演技」

聞き手・切通理作(同作『これから』監督)
 
2010年8月21日に開館した兵庫・元町映画館の10周年を記念した作品「きょう、映画館に行かない?」が11月27日から公開されている。
https://eigakan.localinfo.jp/pages/5165831/page_202108101224

11人の映画監督が贈るオムニバス映画だが、これに、かつて監督第一作『青春夜話 Amazing Place』を元町でかけて頂いた私・切通理作も参戦した。

私の担当作のタイトルは『これから』。
元町映画館がオープンした10年前、高校生だったあかり(涼花)と直也(可児正光)は、一緒にこけら落とし作品を観に行こうと約束するが、運命のかけ違いのために実現しなかった。
そして10年後の現在、東京で就職していた直也のもとに、あかりからのLINEメッセージが……。

物語は直也のモノローグで進行する。演じる可児正光はピンク映画やVシネマほか数々の作品でナイーブな青年像から不気味な殺人鬼まで幅広く演じており、2021年度の第2回ピンク映画ベストテンでは主演男優賞を受賞。対象作の一本『よがりの森 火照った女たち』は、そのR15版『眠れる森のミチコ』が元町でも上映され好評だった。

今回の『これから』も『眠れる森のミチコ』はじめ可児正光出演作を複数手掛けてきた深澤浩子の脚本によるものだ。

公開に合わせて、あらためて可児正光さんにインタビューした記事をお送りする。


『これから』可児正光(撮影:杉本晉一)
 

なんで僕はボタンを外したのか

小・中・高と卓球少年だったという可児さん。高3の夏に部活卒業後、バイト先の同年代の女性とお付き合いしたのが初めての男女交際だったという。高3で異性を意識しだした『これから』の直也と一脈通じるのかも……などと漠然と思いながら、お話を伺っていった。

切通 台本を最初読んだときにどう感じましたか。

可児 もう……なんて純な話なんだろうと思いました。正直。
自分がこの直也という役を演った時に、どういう気持ちで観たらいいんだろうというのがありましたね。

切通 純な学ラン高校生の中身を、10年経って社会人になっても持っているという。

可児 僕の中学・高校時代も学ランで、これは演り終わって、完成した映画観た後の感想も混じるんですけど、学生服着ることももう多分ないんだろうなと。いま28歳なので「これはもしかしたら最後の学生服を着る作品だったのかもしれない」と思って。
 僕は小学校も学ランだったんです。下は短パンだったりしましたけど。

切通 小学校の時から学ランとは珍しいですね。私立だったんですか。

可児 いえ全然、公立です。岡山の。中学校時代とかはもう小学校のまんまの制服を着てました。小学校5年か6年ぐらいで身体がちょっとデカくなるので、そのタイミングで変えて、そのまま中学頭に……。

切通 学ランとは切っても切れない仲だったんですね。

可児 『これから』出来たのを観て疑問が生まれたんですけど、僕、第一ボタン空けてましたよね。あれ、切通さんの指示でしたんでしたっけ?

切通 いや、特にお願いはしてないんじゃないかな。


『これから』涼花、可児正光(撮影:杉本晉一)
 
可児 そうですか。僕は学生時代に第一ボタンを空けたことがなかったので。なんで『これから』の中では空けてたんだろうって。疑問に思いました。

切通 友達とかでは空けてる人もいましたか?

可児 (学校で)基本「閉めなさい」と言われるんですけど、結構空けてましたね、みんな。
 
切通 自分だけ空けてなかったというのは、真面目だった?

可児 みんな空けてたんで俺は締めてやろうということなのか、ひねくれてたかわかんないですけど。

切通 俺は崩さないぞみたいな。

可児 空けなかったですね。硬派ぶりたかったのかな。

切通 今回の映画の時はなんで外したんでしょうね。

可児 なんなんですかね。(学生時代の)空けなかったけど実は空けたかったという気持ちが表れちゃってるのか……わかんないですけど、演出ではなかったんだったら、無意識だったんだなって。

切通 本当の学生時代とはズレている自分の行動が、なにか把握しきれてない無意識だというのは、面白いですね。
 僕はリアル10代の時には制服が嫌で、中学から高校行く時も、制服のない学校を選んだぐらいだったんですが、なぜか監督1作目も、『これから』も、主人公のコンビに制服を着てもらう話になった。「お前、よっぽど制服好きなんだな」って、メイキング写真見た中学時代の友だちから指摘されたんですけど、僕自身「おかしいな、嫌いだったはずなのに」って。こういうところも、自分ではまだ把握しきれていない謎があるような気がします。

可児 僕は卓球やってる時も、バンドやってる奴とか見て、モテて羨ましいと思ってた部分もあったんです。でもその頃は部活で忙しくてそんな余裕はなかった。二十歳の時、映画に関わりたくなって突然上京したのも、なにかそういう反動があったのかもしれません。


『これから』可児正光(撮影:杉本晉一)

 

本当に泣く時ってどんな顔?

切通 深澤浩子さんに脚本をお願いして、初稿を読んだ時、直也役はもっと無骨な感じの役者さんがハマるのかなと思ってたんです。本当に硬派な感じの、それゆえ女性にも不器用で、ちょっと非モテ系が入っているような。

 だから深澤さんが「可児くんをイメージして書いた」って聞いて、ちょっと驚きました。僕は可児さんって<女性受けする甘いマスクの人>って先入観を持ってたので「あ、そうなんだ」って。でもこういう、男性側の重要なキャスティングの時は、やっぱり女性の方の感覚を信じようと。もちろん、脚本を書いた当人ということもありますし、ここは深澤さんを信じようということで、可児さんにお願いして出てもらって。

 でも今回、このインタビューで……こうやって向き合って長く話すのは初めてじゃないですか。「あ、硬派な人なんだ」って。

 映画の中にある、緊張を表に出す芝居……好きな女性にデートの誘いで電話をかける前の、動悸を押さえながらもドキドキして、ついに勇気を奮い起こしてっていうくだり、僕は現場で可児さんの演技を見て、あそこまで大きなリアクション……自分の感情に対する自分のリアクションですけど……をハッキリ形にして演じるとは思ってなかったので、ちょっとびっくりしたんですよね。

 「演技の振幅で持っていける人なんだな」って思ったんですけど、今日話してると「ああ、やっぱり可児さん自身もそういうとこあるのかな」と。

可児 今回、深澤さんが僕でって思ってくれているということは、(ピンク映画で演じた)過去の深澤作品での僕の、きっと何かがハマったんだろうと思って。
 ……ってなった時に、思い返すと、なんて言うんですかね、ちょっとシャイで煮え切らなくて、どっちかというと内気な人間の役が多かったので。わりとそれを意識しましたね。
 たぶん僕自身も、どっちかっていうとそういうタイプなので。電話をかけるシーンは、それを増幅したのかもしれない。

切通 ある種わかりやすい芝居でもあると思ったんですよね。内面を表に出してるわけだから。

可児 心の奥みたいなものを表現するなにかが欲しいなと思って、ちょっと強まったかもしれないですね。

切通 一人の時って逆にあれがこの人のリアルなのかなって。クッキリと。だから大げさだとは思わなかったけど、一瞬迷ったんです。後々のバランスを考えると、もうちょっと抑えた感じの別テイクも撮ろうかなって。でもやっぱり、これで行けると信じてみようかなと。

可児 あそこが一番、感情を出すところなのかなと。ラストシーンもありますけど。

切通 ラスト周りで、ヒロインのあかりから、あることを告げられ、「残念そうな顔を見たいと思って」って言われて、直也が演技で悔しそうな顔を自分で表現するのは、僕が脚本に足した部分なんです。可児さんに演ってもらうなら、そういう演技が見たいと思って。実際にも悲しいんだけど、悲しいということをあえて演じてみせるみたいな時、可児さんってどんな表情するのかなって。

可児 ああ、そうなんですか。腕で(顔を)隠してましたよね。僕あそこで。

切通 顔を完全に隠してはなかったけど、目元は隠れてました。(いま気づいて)なるほど!「隠してた」という動きなんですね。

可児 あの時は本当に悔しくて、でも強がりでそれを見せないように大げさにやるという解釈を僕はしたんで。わざとっぽくしてるけど、本当はわざとを使って……わざとだという演出を使って、ちょっと涙を拭っているのかなと僕は思って。わざと大げさにすることによって「本当には泣いてないよ」というのをやってんのかなと思って。実際目に腕を当てたんです。

切通 ああ、そうなんだ(感動)。

可児 たぶんちょっと涙が出るだろうなと僕は思ったんですけどね。本当の自分の立場だったら、顔もひきつって、なにか……あんまり見せれない顔になるんだろうなと思って、僕は腕をたしか付けたと思うんです。


可児正光(取材時)

 

役者は「セリフの覚え方」が気になるもの?


切通 昨年度、俳優の安藤ヒロキオさんに、自分が主宰するピンク映画ベストテン第1回の表彰式の司会をお願いしたんです。ヒロキオさん自身もこの第1回で助演男優賞を受賞されたのですが、他の役者さんに必ず「セリフはいつもどうやって憶えてるんですか」って訊いてたんですよ。「あ、役者さんって、他人はどう憶えているのか気になるもんなんだ」と思って。
 可児さんはセリフはいつもどうやって憶えてるんですか?

可児 僕、いままで長いセリフないんですよね、奇跡的に。ヒロキオさんは、わりと長いセリフがいっぱいあるから特にそう思うのかもしれないけど、僕なんか一言二言みたいな。長くても3行くらいしかセリフないんですよね。

切通 セリフそのものは1行ずつでも、たとえば『これから』だと涼花さんと掛け合いがあるじゃないですか。ああいうところって憶えにくくないですか。リアクションの順番憶えなきゃならないし。でも……これは涼花さんもそうですけど、2人とも完璧に入ってたんで安心したんです。

可児 そういう時は相手の分も丸ごと覚えちゃいます。

切通 とにかく覚えると。

可児 考えちゃうと……自分がここで例えば句読点入れてこういう言い回しってみたいな、そこまで考えちゃうと、現場で相手にまったく違うことされたら、ちょっとそれで狂っちゃうんで、そこに対応できないから、僕は何も考えないようにしてます。
 僕はわりと、役柄の意味とかっていうよりは覚えちゃう。

切通 で監督から違うって言われたら……。

可児 臨機応変に。特になんか「こうしてやろう」とかいうのはあんま考えず演ることが多いんです。

 

可児正光さんからのメッセージ

切通 このインタビューは、『これから』のメイキング用にとして映像でもいま撮らせてもらっているんですけど、最後に、「可児さんってどんな演技するんだろう、この映画を観ようかな~?」と思っている人への、背中を押すメッセージをお願いします!

可児 はい。(カメラに向かって)いまコロナ禍の状況もだいぶ良くなってきて、だんだんと映画館に行く人たちが多くなってきたと思うんですけど、この映画……(中断して)ええっと、あの、すみません。ちょっと最初からやり直させてください。話をまとめます。短めに話した方がいいですよね?

切通 お任せします。

可児 はい。(カメラに向かって)このたびはありがとうございます。ぜひこの映画のように、大切な誰かとこの映画を観て……お一人でも構わないですけど、いつかのそういう、淡い思いをまた(ふたたび中断して)すみません、おかしいですか。

切通 いや、いいと思いますよ。

可児 (カメラに向かって)この度は(インタビューを)ご覧になっていただいてありがとうございます。『これから』は、大切な人と観に行ったり、もしくは。過去のそういう。淡い恋愛を思い出していただいてなにか思いに浸っていただけたらなと思います。短いですがどうぞよろしくお願いします。ありがとうございます。

切通 ありがとうございます!


『これから』記念撮影。涼花、切通理作、可児正光(撮影:杉本晉一)


「きょう、映画館に行かない?」

作品&監督

  • 『神戸 ~都市がささやく夢~』18分/監督:衣笠竜屯
  • 『オードリーによろしく』11分/監督:加藤綾佳
  • 『Night Train』10分/監督:小田香
  • 『これから』13分/監督:切通理作
  • 『Moment』6分/監督:手塚悟
  • 『Home Coming Daughters』17分/監督:草野なつか
  • 『あなたが私に話しかける言葉を聞きたい』19分/監督:松野泉
  • 『すずめの涙』18分/監督:野原位
  • 『光の窓』6分/監督:鈴木宏侑
  • コメント映像:今井いおり、宇治茶
  • 『きょう、映画館に行かない?』
    元町映画館での上映期間は11/27(土)~12/10(金)の二週間。
    12/2(木) 19:00の回上映終了後には、舞台挨拶に参ります。
    https://eigakan.localinfo.jp/pages/5165831/page_202108101224

    元町映画館で公開後、12月18日より大阪・シネ・ヌーヴォ、2022年1月より京都・京都みなみ会館でロードショー。

    なお「きょう、映画館に行かない?」の参加監督がこれまで制作した作品の特集上映「元町映画館と映画作家たちの10年ちょっと。」も11月27日から12月3日にかけて開催。
    私の監督第一作『青春夜話 Amazing Place』は 12/2(木)16:50の回です。上映終了後舞台挨拶させて頂きます。
    https://www.motoei.com/post_event/motoei10chotto/

     
    ※本記事はメルマガの記事から再構成したものです。完全版は、『映画の友よ』第186号でお読みくだされば幸いです。
    https://yakan-hiko.com/BN11019

    切通理作
    1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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