やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

統制される仮想通貨界隈、イギリスがすべての暗号資産を国家管理に


 このほどイギリスですべての暗号資産を政府規制の枠内に置く方向で議論が進み、一部では先鞭的にいくつかの仮想通貨交換の仕組みそのものが不適切であるという名目で取引BANされたりしておりました。

英、全ての暗号資産を規制下に置く法案検討 可決ほぼ確実

FCA bolstered with oversight powers to regulate and ban crypto firms

 これらの動きはアメリカも追随する方向なんじゃねえのということで騒ぎになっておりますが、イギリスの一連の議論で揉めているのは「だってお前ら一月ちょっと前には暗号資産取引でハブ的な役割を果たす推進方向で話してたじゃん」という問題です。

イギリス新内閣、暗号資産ハブを目指す方針維持:英財務省高官

 界隈からすれば「ほんとなに言ってんの」という話なんですが、これから報じられる内容としてクローズアップされるのは混迷しているウクライナ情勢において、侵攻したロシアに対する経済制裁逃れのためにインド、中国、ASEAN経由の取引で暗号資産を使っていることが明らかになったうえで、これらが文字通りFATF対応するべきアンチテロ、マネーロンダリングの温床でやんすという話が改めて追認されたことが理由と見られます。

 「そんなこと最初から分かってたろ」と言われればまあその通りであって、とはいえイギリスも議会での議論もステートメントの内容もよく見ると「規制はするけど匿名性のところだけがまずは問題視されており、それ以外は暗号資産のトレーディング自体は賛成」という趣になっています。これって2019年に私らが金融庁と議論した際に「本人確認できないと仮想通貨の交換所自体が違法取引の温床になるし、要するに公営丁半博打と変わらない代物になりかねませんよね」と申し上げてきたのが3年ぐらい経ってようやく現実味を帯びてきたということでもあります。

 メルマガでも書いたなと思って検索かけたら私2018年に書いてるんですね…。

人間迷路 Vol.225 今後の展開が読めなくなりつつある北朝鮮情勢、そして仮想通貨マネロン問題、グローバル化するIT業界と安全保障の軋轢などを語る回
【1. インシデント1】暴力団が仮想通貨取引所を通じて資金洗浄を繰り返していた件で

 暗号資産の仕組みや、技術面でのブロックチェーン的なものを政府がどう有効に扱うかは我が国も相応に検討が進んできた一方、やはりeKYCを含めてどのように取引者の特定をしていくのかは重要な課題であることは未だ変わらず、これがない限りマネロンの経路として日本の取引所が使われることは減らないであろうことは言うまでもありません。どうも現在名指しで香港やマレーシアの暗号資産関連の事業者が問題視されているようですが、その取引の2割ぐらいは日本の暗号資産業者を経由してトレードされていると見られ、これは単純にリスク分散のために規制の緩い日本の踏み台事業者でも一定のルートを確保しておこうという考えに他なりません。

 なので、FATF対応の点でもこのあたりの規制強化をイギリスが(いまさらながら)言い始めたのも対ロシア経済制裁の抜け穴を少しでも塞いでおき、何となればそのルート解明を進めて対露制裁や交渉での手持ちのカードを増やしておこうという算段なのでしょう。

 また、あながち馬鹿にできない規模になっているのが交換所に対するハッキングで流出した各種仮想通貨の現金化を進める「盗品捌き」の場として使われるケースです。これは北朝鮮が特に最近も語られていますが彼らの手によってクラッキングされ盗まれたとみられる仮想通貨の追跡をする中で、やはり一部の日本の暗号資産取引所が踏み台に使われているようだという話と符合するところがあります。

 それでも穴埋めについての議論が国際的にまとまらず、まだそこまで国際的な協調にまで話が進まないのは、文字通り各国について暗号資産の扱いの統一的な枠組みの議論を進めるべきところが、実際にはまったく足並みを揃えることができていない問題が重要です。最近では、わざわざIMFの偉い人が出てきて「それボク言いましたよね」みたいな話をようやく公的にし始め、BTC価格が半値になりNFTバブルが終わろうかというタイミングで「話し合いしましょうよ旦那」みたいなことを書いています。いや、まあ、それはそうなんですけどね。

The right rules could provide a safe space for innovation

 また、NFTについては我が国もどこぞの自民党が成長戦略の柱にWeb3と共に盛り込んでしまうという失態を起こしてばかりですが、こちらも法制度上の問題もさることながら実需面での盛り上がりが欠けているところで「これやりまっせ」と言ってもブームが過ぎたら誰もカネを使わないようなハイテクによるポンジスキームみたいなものがどこまで続けられるのかははなはだ疑問です。

 ここから日本も西側諸国の一員として暗号資産に対してKYC基準をより強く定めて規制を一定の枠内で厳格に進めていくべきなのか議論が進んでいくことでしょうが、アメリカでも一部欧州でも暗号資産規制の話が進まないのはやはり中国本土からの暗号資産経由での資産流出が続いており、KYCを強化するとこの流れが止まってまうやんけという警戒感が強く出ている面もあります。中国人はクライアントだというよりは、不安定感が増す3期目習近平体制において進出してしまった欧州系、アメリカ系資本の逃避や、民主主義になじみのある中国人への便宜という点ではKYCを強化しすぎると資金の「浸透圧」を止めてしまう怖れに直結しますので、このあたりの目配せも考えていかなければならないのでしょう。

 踏み込んでいえば、暗号資産もブロックチェーン技術もいままでの妄想としては国家の主権に頼らない、非集権的で自由な貨幣体制を世界で構築できるというナラティブが一般的に流通していました。しかしながら、そもそもカネの価値というのは国家の経済に依存しており、これへの徴税で世界中の権力が保たれている以上、その匿名性を使って資金を動かしたい人は基本的には脱税かギャンブルぐらいしかないわけですよ。

 カジノ法案でもKYC厳しすぎるとカネを落としてくれる富裕層中国人が来なくなるでやんすという意見が多数出ておりましたが、これは言わずもがな、国際的なカジノの上客もまた富裕層の脱税か見境のないギャンブラーかのいずれかしか市場がないじゃんということの裏返しでもあります。同じようなことは、規制される仮想通貨・暗号資産界隈でも見られるのは当然のことであり、また、NFTのようにそれ自体は面白いけど必ずしも価値がどこかから勝手に生み出されるかのような詐欺的枠組みについては当然規制しなければならないし、どこの発行かに限らず保有している人たちに対してはその価値に見合った税金が課されるべきというのも当然の議論です。

 ましてや、中国やロシアのような具体的な脅威が発生しているところでマネロンや資金逃避の匙加減のところが重要になっているなか、日本の規制当局もイギリスの動きに合わせた議論をどう進めるべきなのかは思案のしどころなのではないかとも思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.384 国際政治の中における暗号資産の有り様などを論じつつ、このところの日台関係の機微やますます流行るAI自動生成に思う雑感などを語る回
2022年10月31日発行号 目次
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【0. 序文】統制される仮想通貨界隈、イギリスがすべての暗号資産を国家管理に
【1. インシデント1】「シンガポールも安全ではなくなった」と富裕層台湾人がアメリカや日本を目指す理由
【2. インシデント2】AIで何でも生成できる時代は人にとって幸いとなるのかどうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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