津田大介
@tsuda

中国在住フリーライター・ふるまいよしこ氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

「で、日本は何がしたいの?」

津田:ところで、当事者である中国と日本以外の国のメディアでは、今回の反日デモはどう報じられていたのでしょう?

ふるまい:北京にはアメリカやヨーロッパ諸国をはじめ、海外メディアの記者がいっぱいいます。

私は中国語のツイッターアカウントを持っていて、そちらで海外メディア記者のリストを作って見ています。

日ごろから彼らは熱心にツイッターで情報発信していますが、今回も、やっぱりすごかったですね。西洋メディアはもうネット化しているから、記者さんはどんどん前線に行き、すぐに写真を撮って、記事も上げる。それを自分でツイートして、所属の違う知り合いの記者がそれをまたリツイートして……そんな感じで、バンバン情報が流れていました。

ただ全般的に見ると、西洋では今、シリアで起きている内戦が深刻な問題になっているため、[*28] 反日デモの扱いはそんなに大きくなかったようです。それでも、中国にいる記者さんたちは、かなりの範囲をカバーしていたと思いますよ。彼らは当事国でない分、逆に客観的に眺めることもできたでしょうし。

津田:既存メディアの状況は、国によってだいぶ違いがある。一方のネットメディアでは、新しい動きが出てきている——そんな中、日本は今後、どうやって中国との関係を築いていけばよいのでしょう?

ふるまい:まずは「日本が中国との関係をどうしたいか」ですよね。私にはそこがよくわからないんです。日本を理解してほしいのか、それとも自分たちの要求を受け入れてほしいのか。日本の外交からは、「主張」が見えてきません。

ただし、主張するにしたって、相手に聞いてもらう技術——場の作り方、手配の仕方が必要です。それが全然できていないから、いったい日本が何をしたいのか、中国には伝わらないんです。

もちろん中国にも思惑があって、中には歓迎できないものもたくさんあります。

きちんと外交するにはまず、日本が自国の利益は何か考えないと。そして相手とどう折衝し、どう譲歩していくかをシミュレーションすることが大事です。大使館に投石が行われている真っ最中に、大使館のウェイボーが「マリモ」や「鶴岡八幡宮」を紹介しているなんてちょっとおかしすぎるでしょ。

津田:仮に反日デモの原因がふるまいさんの読みどおりだったとしたら、日本の外交ベタは洒落にならないですよね。

ふるまい:中国と付き合うに先立ち、彼らにとってメンツがどれだけ大事かを、誰も野田さんにご注進していなかったのは、すごく痛いことだなと思います。

そうした情報が外務省に集まっていないし、対中外交のうえで力を発揮していない。現駐中国大使も大使館の中で、外務官僚とうまくいっていないようだと漏れ聞いています。

そんなディスコミュニケーションの中で、外交政策の組み立てなんてできません。今回の問題には、日本国内の混乱が出ていると思います。

これについて何か言うとしたら、「で、日本は何がしたいの?」——その一言に尽きますね。

津田:政治家に対するレクチャーが今、足りていない。民間のほうが中国に関する知恵を圧倒的に持っているのかもしれません。

ふるまい:そうですね。中国の存在感が日本でも大きくなっているのは間違いありません。ここ10年は中国に来る日本人の数も、ものすごく増えています。

出張者をはじめ、いろいろな方が中国に来て、民間目線で中国人と付き合っている。中国人にも、外国人と対等に話せる人が増えました。

そうして日本人にとって中国人が身近になってきているぶんだけ、今回の反日デモをめぐっても、怒りではなく、「どうしてなの?」と理解したい気持ちが先に立つ。そういう日本人がすごく増えてきたことには、手応えに似たものを感じていますけどね。

津田:この9月29日、日中は国交正常化から40年目を迎えました。[*29] この反日デモを機会に、日中関係のあり方を民間レベルでも見直していきたいですよね。今日は長時間お付き合いくださり、本当にありがとうございました。

 

《この記事は「津田大介の『メディアの現場』からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》

 

▼ふるまいよしこ
フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。現代中国社会の理解に役立つメルマガ「§中国万華鏡§之ぶんぶくちゃいな」を月2回配信中。

個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
メルマガ:http://www.mag2.com/m/0001314434.html
ツイッター:@furumai_yoshiko

 

[*1] 在中国日本国大使館は9月11日の段階で、反日デモに注意するよう、在留
邦人に呼びかける文書を発表している。だが、この文書は在留邦人のうち日ご
ろから大使館メルマガを購読している人だけに配信された。

[*2] http://www.sanspo.com/geino/news/20120919/sot12091905050002-n1.html

[*3] http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00231683.html

[*4] ふるまい氏によると、20世紀末に独立採算制をとるようになったことが
きっかけで、中国でも「市場型メディア」が生まれてきているという。
http://www.newsweekjapan.jp/column/furumai/2012/07/vs----.php

[*5] http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/324586

[*6] http://www.asahi.com/politics/update/0918/TKY201209180624.html

[*7] http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_1009.html#6-D

[*8] http://www.asahi.com/special/senkaku/TKY201010250475.html

[*9] http://sankei.jp.msn.com/world/news/120402/chn12040208080000-n1.htm

[*10] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2808F_Y2A920C1MM8000/

[*11] http://weibo.com/

[*12] http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2010/11/post-1767.php

[*13] https://twitter.com/ui_nyan/status/248138081360830464

[*14] http://sankei.jp.msn.com/world/news/120928/chn12092800270001-n1.htm

[*15] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1902R_Z10C12A9MM0000/

[*16] http://www.infzm.com/

[*17] http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120918-00000014-rcdc-cn

[*18] http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00231738.html

[*19] http://diamond.jp/articles/-/24887

[*20] http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120417/plc12041704580005-n1.htm

[*21] http://j.people.com.cn/home.html

[*22] その後、中国英字紙のチャイナ・デイリーは9月28日付の米紙ワシント
ン・ポストとニューヨーク・タイムズに、「釣魚島は中国領だ」とする意見広
告を掲載している。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2902E_Z20C12A9NNE000/

[*23] http://mainichi.jp/select/news/20120909k0000e010127000c.html

[*24] http://www.j-cast.com/2012/09/11145954.html

[*25] 胡錦濤本人ではないが、中日友好協会会長の唐家●(=王へんに旋)元
国務委員が本件によって「中国国民はメンツを潰されたと感じた」と述べている。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120928/chn12092801060002-n1.htm

[*26] http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MAMI3E6S972K01.html

[*27] http://www.maya-fwe.com/4/000233_J.html

[*28] http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012091202000097.html

[*29] http://mainichi.jp/select/news/20120930k0000m030038000c.html

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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