やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

岸田文雄さんが増税判断に踏み切る、閣議決定「防衛三文書」の核心


 そんなわけで、防衛三文書が出ました。ありがとうムロッティ。

安全保障関連3文書 政府が閣議決定 「反撃能力」の保有を明記

 で、官邸にも原文が出ておりますが、まあなかなか踏み込んだ内容でありまして、当初関係筋から聞かされていた話よりも随分と前のめりであって、いまこのタイミングでなぜキッシーがこれをやるぞと言い出したのかという内容までも推察される内容となっております。

国家安全保障戦略について

 先に、ワイ将の関心事でもあるオホーツク方面のロシア関係で言えば、冒頭にウクライナ紛争を念頭に置いて国連安保理による各種取り決めをぶっちぎってロシアがドンバスから向こうへ攻めていってなお戦争状態であることに対して日本は重視してるよという立場を明確にしています。これは、ウクライナ侵攻においてウクライナ自体は遠い国だけどロシアは日本の隣国でもあり、こんなもん隣にいたらクソやべぇやんけという現状認識を改めて持って対処するよという内容に繋がっています。

 とりわけ、表現として「ロシアは、我が国周辺における軍事活動を活発化させている。我が国固有の領土である北方領土でもロシアは軍備を強化しているが、これは、特にオホーツク海がロシアの戦略核戦力の一翼を担う戦略原子力潜水艦の活動領域であることが、その背景にある」としていて、いわゆるロシアによる極東牽制ではなく、具体的に何らかのアシストを企図してロシアが何かのアクションを日本に対して行う危険性を示唆するものです。

 これこそ東アジアの安全保障において、本件3文書のキーストーンとなっている中国・習近平体制のバッドボーイ問題が日本の安全保障上固有の問題となりうる局面に達しつつあるぜという見解を岸田官邸がおおっぴらにしたわけであります。

 国内ロジックとして、憲法第9条による武力を持たない問題に敷衍して反撃能力や基地先制攻撃能力といった文言について紙幅が割かれることもまた今までは多かったのですが、ここが今回の文書ではブレイクスルーしており、国連安保理による「武力行使の一般禁止が国際社会の大原則」であって、これをロシアがウクライナ侵攻で完全に破ったのだから日本も含めて「地政学的競争が激化」したぞというロジックになっているわけでやんすよ。

 パワーバランスの変化として、念頭に置いているのはほぼ名指しで中国であって、財政余力や人的基盤にボトルネックがあることは認めつつ日本としては最大限の抑止的な軍事力の確保を推進するぜという話であります。どうしたんだ岸田。

 さらに、インド太平洋から南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島、日本海側から千島列島まで、ひとつの安全保障のベルトを意識したうえで「現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべきものである」と踏み込んでいます。

 要するに、中国が周辺事態を起こしたら日本も参戦するから、その場合は戦争状態になるわけでアメリカやオーストラリア、韓国など友邦の援軍が来ることを念頭に置いてちゃんと軍備するやでーという話であります。

 さらに、具体的に2027年までに日本への侵攻が行われる場合には、これを阻止・排除できるように防衛力を強化するという一節があり、さらに10年後までに遠方で日本への侵攻を企てる場合があるならばこれを阻止できるような防衛力強化をやるよってのが書いてあります。何か悪いものでも食ったのか岸田。

 そうなると、経済安全保障体制とサイバー攻撃・防御に関する軸足はどうしても必要となる一方、国際連携においては日本が果たすべき国際的な役割についても一層のコミットが必要になります。ここには、共通の普遍的価値観(人権や民主主義)の問題とは別に、ある程度の有事を見込んだ統制方向へ政策スライダーがシフトしたんじゃねえのかというのが大きな読み解き方になるのではなかろうかと思います。

 その意味では、どうもいまの私たちの世界観というのは単純な「グローバリズム経済の終わり」ではなくて、有事体制への移行段階でやんすという話になり、HoI2的に言えば1936年のシナリオみたいな状況ではないのかと思うわけですね。

 さて、これと並行して「おや」と思った方も多かったかもしれませんが、官邸が日本学術会議の大会に合わせ、11月18日付で結構なネタを打ち込んできました。

防衛大臣記者会見 令和4年11月18日

日本学術会議会長談話「日本学術会議法改正に関わる今般の報道について」

日本学術会議の在り方についての方針

 うーん、まあ何というか、ボク言いましたよね。栗生副も腹に据えかねてドーンと書いたれというのはあるかもしれませんが、この「ですます」調ですらない、中ポツをそのまんま文章に降ろして「これが方針だ!!」と最後通牒を翌々日に控えた大会の前に打ち込むあたりはよほど腹に据えかねた何かがあるのかもしれません。

 「日本学術会議においても、新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要である」とか「日本学術会議は独立して職務を行うことから、他の行政機関以上の徹底した透明性が求められる」などと書かれており、これは要するに次に何かあったら(栗生副が)釘バット持ってぶん殴りにいくぞという話であります。

 奇しくも東京新聞が12月3日付で面白記事を書いて牽制しており、前述政府閣議決定の防衛三文書のような危機的状況において先の大戦の反省がどうとか学術界が言ってる場合じゃないだろバカタレというのが本音ではないのかと思います。

「軍事」と「研究」の壁が今、危機を迎えている 軍事研究進めたい政府、反対する日本学術会議に介入

 さらに、共同通信も「防衛省が」というミスリード狙いの記事を打って出して否定されるという伝統芸能を見せておりましたので、この辺のつばぜり合いはもう始まっているんだよ、ということに他ならないのでしょう。

防衛省、フェイクニュース対策強化へ AIによる自動情報収集機能の整備も “世論誘導研究”一部報道を否定

 個人的には「戦争したくねえな」というのが正直なところですが、準備をしておかないことには始まりませんので、増税議論とは別に一定の腹積もりはしておくべきなのでしょう。

 メルマガ読者各位におかれましても、おそらくこれからかなりの情報戦でクソ情報乱舞が起きると思いますが、どうか正気を保ってニュースを見ていただければと存じます。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.390 新局面に達しつつある我が国の安全保障の現実を考えつつ、岸田ジュニアやらかしの深刻度やここ最近のネット広告動向に触れてみる回
2022年12月25日発行号 目次
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【0. 序文】岸田文雄さんが増税判断に踏み切る、閣議決定「防衛三文書」の核心
【1. インシデント1】「岸田ジュニアが官邸の情報漏洩」問題に見る複雑な心境
【2. インシデント2】デジタル広告にまつわる最近の話題をいくつか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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