やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「5類」強行の岸田文雄政権が僕たちに教えてくれたもの


 面倒なことになったなあというのが例のコロナ「5類」騒ぎでありまして、正常化を急ぎたい政治側の事情がかなり喧伝されるものの、これはあくまで人間の都合なのであってウイルスはどんどん変異するしコロナ後遺症についてもまだあんまりよく分かってないしということで、どうにも悩ましい事態となってきました。

 尾身茂さん含めた分科会や専門家系に対して諮る内容も乏しいまま、結論ありきで経済・社会の正常化を岸田政権が強行した背景には、私の見る限りふたつの事情があるように思います。

 片方が、アメリカではコロナ感染症に対する非常事態宣言を5月に取り下げる方針をバイデン大統領が発表しておりまして、日本としては是が非でもこれに合わせて解禁したいという考えがあるのでしょう。もちろん、国際社会の中でも特に緊密な関係を維持したいアメリカの意向と併せて、ビジネスや旅行の往来を日米間でコロナ前まで戻すというのもひとつの「決断」であったろうとは思いますが、アメリカでもいまなお相応に感染状況が続き、日本は一カ月当たりの死者が2万人を超える中で、どうやって感染症対策をするのかというのは悩ましいものがあります。もうやらんでいい、ということにはならないと思うので、感染者が膨らむごとにインフルエンザ同様にワイコラ騒いでワクチン打ったりマスク慌てて付けたりすることになるのでしょうか。

 もう片方が、岸田さんのキャラクターです。岸田政権序盤の「決断しない総理」とか「検討使」などの駄目キャラ扱いについては岸田さん本人がよほど堪えたのか、安倍晋三さん国葬あたりから岸田さんの独断で物事を決定し、それを官邸周りに「やってほしい」と仰るようになったなあという風には感じます。ところが、岸田さんの英断に見えるものは大概において微妙なものが多く、正直「え、そこにこだわってたんですか」ってのが多いように思うのです。

 今回もリスキリング絡みでは私の見聞きする限りたいして重要な政策課題ではなく、むしろ年度内予算審議やら他重要法案と並べて何かをやるべきタイミングではない(いろいろ意見はあるでしょうが)と思っていたら、なんというか強行突破をしてきました。戦争ゲームで言うなら特に重要でもない要衝に岸田の旗を掲げた大軍が押し寄せてきたぞ的な話でありまして、本来必要であるべきリカレント教育や高大接続、教育改革、論文数改善による日本の研究開発体制の再建というようなテーマからは見事に外れた方面になっています。大将、敵はそっちじゃないでやんす。

 一事が万事こんな感じなので、重要法案だと言われた何某については具体的な官邸内での検討も満足に行われず今回は見送りとなって一同お通夜であるという愚痴が寄せられたり、他方で大盤振る舞いした異次元の少子化対策やコロナ克服のための総合経済対策も早くも雲行きが怪しくなってきました。燃料費の問題もありますしね。ただ、これらの次々と押し寄せる難題に対して、むしろ岸田さんが判断を保留しながら、ご自身がこだわっている分野では次々と英断していくプロセスを見る限りでは、純粋に能力というかセンスの問題なのではないかとも思います。自分で考えて優先順位を立てて粛々とこなしていくという類の。

 当然、岸田政権も支持率が伸び悩み、ここをどうにかするための起爆剤として俺は5類にするんだ、経済や社会をコロナ前に戻して正常化するんだっていう気概があるのはまあ構わないのですが、引き続き脅威となる野党の勢力が伸びず、一方で党人側も幹事長の茂木敏充さんと政調会長の萩生田光一さんによる体制がまあまあ盤石なこともあって、墜落はしない低空飛行でいけると思っちゃってるんじゃないのかなあ… とビンビンに感じます。その意味では、良くも悪くも「岸田君、これはどうにかしないと駄目だよ」と言ってくれる、言うことは聞いておこう的な長老格が麻生太郎さんしかいなくなってしまっていることの弊害とも言えるのではないのかなあと。

 岸田政権の危機管理に課題があるといっても、俺が後を継ぐぞというような禅譲先や対抗馬もまだはっきりとは見当たらない限り、よほど波風が立つ事件でも起きないと続いていってしまうのでしょうか。正直、投手戦で両軍ゼロが並んでるというより、セカンドゴロ祭りで貧打戦となって詰まらん試合運びになってるような気がしてならないのですが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.395 5類移行で岸田政権の向かう先をぼんやりと考えつつ、三浦夫妻事件から浮かび上がるあれこれや巷で流行りのジェネレーティブAI事情に触れる回
2023年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】「5類」強行の岸田文雄政権が僕たちに教えてくれたもの
【1. インシデント1】三浦瑠麗夫妻から大樹総研、そして二階派&菅義偉さんに繋がる線と厄災
【2. インシデント2】AIの自動生成がもたらす僥倖と厄災のはざま
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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