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岩崎夏海の競争考(その30)メタ視点の鍛え方
メタ視点はどうやって鍛えればいいのか?
競争に勝つためには、メタ視点が必要だ。グラウンドレベルでは感受性を豊かなままに保ちつつ、メタレベルでそれを冷静に受け止める――すると、しなやかで懐の深い戦い方ができるようになり、「全てを兼ね備えた圧倒的な勝利」を導くことができる。
では、メタ視点はどう鍛えればいいのか? それにはまず、文字通り視点を高くすることが必要である。その具体的な方策として、前述した世阿弥の「離見の見」が有効だ。自分の背中、それも少し高いところに視点を置いて、そこから自分を見下ろすようにするのだ。
もちろん、物理的にそう見ることは不可能だが、イメージすることなら可能だ。訓練を積むと、まるで本当に見ているかのように想像することもできる。あるいは、今だったらビデオカメラを設置してもいい。それで、自分自身の背中を映すのだ。そうすれば、自分を他者のように見るのがどういう感覚か、つかめるようになってくる。メタ視点がどういうものか、おぼろげながら分かってくる。
メタ視点で自分を見られるようになると、まず思うのは「自分はなんとちっぽけな存在だろう」ということだ。これは、最初は誰でもそう思う。では、なぜ自分を「ちっぽけ」と思うのか? それは、メタ視点を得る以前の自分が、自分を過大評価していたからだ。自分を肥大化して見ていたからだ。それに比べると、メタ視点からの自分は小さく見えるので、「ちっぽけ」に感じるのである。
メタ視点を使って「自分を確立する」
ここで一つポイントとなるのは、「人間は、えてして他者を『ちっぽけ』な存在と見てしまう」ということである。他人のように見える自分がちっぽけなのと同様に、他人そのものもやはり「ちっぽけ」に見ているのである。
しかしながら、自分からはちっぽけに見えるその他人は、ほとんどの場合、自分自身を過大評価している。自分を肥大化して見ている。だから、あなたが見ているその人の像と、その人が見ているその人の像との間には、大きな隔たりがあるのだ。この隔たりが、実はコミュニケーションが上手くいかなくなる最大の原因である。コミュニケーションが上手くいかないのは、この彼我のイメージの差が大きすぎることに起因している。そのため、コミュニケーションを上手くいかせるためには、このイメージをすり寄らせる必要がある。まずは、相手が自分自身を過大評価している、というのを認識するところから始めなければならない。
それが、メタ視点で自分を見るときにも必要なのである。つまり、自分自身を「ちっぽけ」だと思ったままでは、自分を過大評価している自分自身とのイメージの隔たりが生まれ、上手くコミュニケーションできなくなってしまう。そして、自分自身と上手くコミュニケーションできなければ、自分が本当の「他人」になってしまうので、メタ視点を持つ意味もほとんどなくなる。メタ視点を持つ意味は、メタ視点から本当の自分を理解し、その理解を踏まえて自分自身を変化、成長させていくことにあるからだ。
そのためここでは、そういう自分自身を肥大化して見ている自分自身を認識する――という視点が必要になってくる。自分を「ちっぽけ」と見るところから一歩進んで、自分を過大評価している自分を認めてあげることが必要になってくる。そうすることで、より深い関係を自分自身と取り結べるようになるのだ。
ただし、「認める」といっても、それを許容するという意味ではない。ただ、認識するだけである。その上で、今度はグラウンドレベルの自分がそれを反省し、自分を過大評価しないよう努力する。そういうふうに、メタ視点から歩み寄るのと同時に、グラウンドレベルからも歩み寄るのだ。そうすると、二つの自分のイメージが同一化され、初めてコミュニケーションが可能になるのである。
こういう状態を、いわゆる「アイデンティティが確立する」という。あるいは、「自分探し」における「自分が見つかった状態」ともいえるかもしれない。現代では、ほとんどの人が自分に騙されている。自分がついた嘘に縛られている。自分を見つけられなくなっている(だから自分を探す人が多いのだ)。アイデンティティは、その嘘を暴くことによって初めて確立する。本当の自分は、自分に騙されなくなって初めて見つかるのだ。

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