やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

中国発・ソーシャルゲーム業界の崩壊と灼熱


 年末に堕ちてきた割と大きい爆弾として、中国政府が案の定オンラインゲームやソーシャルゲーム方面の制限を政策的に前に打ち出してきました。

 正直「まあいつかは(24年中には)やるんだろうな」と思ってたのにいつまでもやらないので、越年するのかと思っていたら12月22日に発布というのは何とも皮肉なとりあえず間に合わせた感を覚えるものであります。

中国ゲーム産業,前年比-10%以上のマイナス成長。低迷に終わった2022年を振り返る

中国 オンラインゲーム規制案公表 テンセント株価一時急落も

 しかも、フライング上等というわけではないのでしょうが、11月下旬にはソーシャルゲームを運営する外資系には今後、中国本土でサービスを行うにあたっての審査を一切行わない(審査途中であるコンテンツも打ち切る)と宣言してきていて、かなり阿鼻叫喚になりそうだと思っていたところでしたので、その後、大々的に発表するのにあの中国でも一ヵ月もかかったのだなという感慨も抱かざるを得ません。

 教育産業での規制と違って、今回のゲームに関してはかなり具体的にこのサービスのこの仕様は駄目であると踏み込んで規制する内容で周知されており、おっ、割と中華当局本気やんけと思わんでもない事態になっています。例えば、当局から悪しきゲーム的風習として名指しされていたログインボーナスもばっちり入っていたばかりか、アイテムやキャラクターを集めるのは禁止、「好ましくない」仕様のガチャは禁止、ソーシャルゲームなどで他のプレイヤーと競わせるランキングなどの仕様は禁止と、ああ良く分かってるよね中華当局、って感じなんですよ。これって、中国政府が共産党一党支配であるにもかかわらず共産主義の敵であるはずの資本主義的政策を上手く取り入れごく最近まで頑張って中国経済を上手く運営してきたという寓話にも繋がるものがあります。

 教育産業では、子どもにものを教えるサービスがNGとされたために談話室で「たまたま」勉強していた子どもに居合わせた教師が勉強を「尋ねられて」教える仕組みで乗り切るという上に政策あれば下に対策ありを地で行く展開ですが、中華ゲーム産業についていうならばすべてが中国の文化政策での承認事項でありゲームを制作するのも販売するのもサービスするのも許可制であるために規制の様相が異なります。本当に死んでしまう可能性があるわけです。

 しかも、この22日の発令前に中国ゲーム会社にはそのような規制が行われる旨の説明まであった、という未確認情報もあります。本当かどうかは知りませんが、ただ中華当局の話として文化政策としてゲーム産業を問題視し、24年中の政策変更は確実に行うという最後通牒が海外事業者に対してもあったことを踏まえれば、こうなるのもむべなるかなという気も致します。

 当然、日本だけでなく欧米・英語圏でのゲーム産業でも大きな影響を受ける可能性は否定できないのですが、今回はオンラインゲームに関する規制であり、あまり中国では文化的に一般的ではない据え置き機向けなどスタンドアロン的なゲームには規制は挟まらないのではないかという予想があります。もちろん、これも盛り上がれば当局が締め出しにかかるだけでなく、国内で販売の承認が下りないことも踏まえて考えればナローパス以外の何物でもないのですが、しかし海外では当然ながらそんな規制はありませんので、Tencent社やNetEase社のような中華ゲーム専業大手だけでなく、その出資先でもあるEpic Games社など他社に対してゲームエンジンを販売している企業なども巻き込まれて、資本は引き続き中華なんだけれども売上の相応の割合を占めていた中国国内の売上がゼロになり、海外での事業でほとんどすべての利益を生み出す謎の大手企業が爆誕してしまうことになります。

 当然のことながら、そのような中国国内市場の突然死によって起きることはこれらのゲーム会社が生き残りのためにアメリカや日本などでダンピングど真ん中の安売りをおっぱじめて日本のゲーム各社が死にかねないことにあります。この辺は、中国の文化政策の如何を問わず日本は中国国内市場に自由にゲームを売ることができないのに日本では中国製ソーシャルゲームが一定のシェアを占めている片務的な状況に対して政治が長らく無策であったことは問題だろうとも思うわけです。

 いまさらクールジャパン政策の無為無策無駄を批判しても仕方がないのですが、長らく中国と日本の文化輸出の関係で常に日本側が不利に立たされ続けて政府から何のサルベージも支援もされなかったままこんにちまできてしまったことと、日本ではクリエイターたちの社会的地位が低くこれらの海外事業者が安値で日本人クリエイターを雇っては使い捨てる問題が頻発していてギルド的な労働組合や健康保険制度の充実、確実な最低賃金支払い制度などを充実させろと言い続けてきたのにとても残念です。コンテンツ産業が日本の輸出を支えると言いながら、このままではさすがにいけませんのでそろそろ政府筋もどうにかしてもらいたいというのが正直なところです。

 …と、思っていたら、ゲーム関連の時価総額が壮大に吹っ飛んだのでビビった文化局がゲーム規制の内容を再検討するというビッグニュースが入ってきていました。

China approved 105 domestic games on Monday, the latest indication that Beijing is softening its stance after its move to tighten industry restrictions led to a $80 billion rout last week

 なんというか最高にろくでもない話なんですが、中国の場合は2021年の自動車規制のときのようにあまりにも市場に影響が大きいので再検討すると言いながら2カ月後に原案通り何事もなく規制が導入されて中古車ローン市場が死んだのも記憶に新しく、単純に組織の中で責任の押し付け合いでもあったんじゃねえの(鼻ホジ)って感じもしなくもありません。

 消息筋では「国慶節までに着地させたい」というのも嫌な予感のする時期感で、なんやねんこれという感じも強く致しますね…。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.427 中国ソシャゲ市場大混乱で押し寄せる余波をあれこれ案じつつ、地方経済の疲弊やAI活用の弊害など正解がない問題に頭を悩ませる回
2023年12月26日発行号 目次
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【0. 序文】中国発・ソーシャルゲーム業界の崩壊と灼熱
【1. インシデント1】地方の集合住宅どうするんだよ問題
【2. インシデント2】AIをどこまで信用できるのかは誰も知らないという現実
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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