本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

実は「スマート」だった携帯電話は、なぜ滅びたのか ーー10年前、初代iPhoneに不感症だった日本市場のその後

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.004 (2017年9月15日)からの抜粋です。




スマートフォンはもちろん携帯電話でもあるが、その本質は電話ではありません。電話はアプリケーションのひとつです。3Gネットワークの時代は、確かに携帯電話+情報端末でしたが、VoLTE(LTEネットワークを通じて音声通信を行う規格)が当たり前となってきた昨今、スマートフォンは純粋なネットワーク端末と言えます。

スマートフォンとは何か。10年前の基準で言うならば、それはパソコンです。ポケットやバックで入れて持ち運びができる、もっとも携帯性の高い小型パソコンです。

そもそもパソコンと携帯電話は何が違うのか。パソコンは、ソフトウェアをインストール(導入)すれば、どんなソフトウェアであろうとも動かなければなりません。応用範囲に限定はなく、機能や性能が制限されることもありません。最近は自分で開発したプログラムを読み込ませる人は少数派になりましたが、パッケージ化されたソフトウェアを家電量販店や秋葉原で買ってきて使うことは誰だってできます。言ってみれば、ユーザーに対して“自由”を保証しているのがパソコンの特徴です。

一方、携帯電話というのは、秩序的かつ理性的です。ユーザーの自由をある程度規制することで、ユーザー全体の満足を高めようとする。クルマ社会に喩えるなら、みんなが好き勝手に道路を走ると頻繁に渋滞し、事故も起きやすいため、きちんとした交通法規に基づいて、交通整理をするのと同じ。それによって個々のクルマも安心して走ることができ、流れもスムースになります。

携帯電話は、端末に割り当てられる通信量が限られています。光ファイバーやADSLなど家庭内に引き込まれているインターネット回線に比べると、携帯電話網で利用できる通信量(通信帯域と言う)ははるかに小さい。

現行世代のLTEはもちろん、前世代の3G、あるいは2Gネットワークでは、さらにその差は大きくありました。とてもではないですが、オフィスや家庭のパソコンと同じように自由にネットワーク帯域を使うことなどできませんでした。きちんとした“交通整理”によって、ネットワークの使い方を管理する必要がありました。

当時、携帯電話の新機種がリリースされるたびに、どのメーカーの製品も見た目は違うのに主要機能はなんだかよく似ているな、あるいは機能はみんな同じじゃないか、と思っていた人もいたでしょう。それはその通りなのです。

当時、携帯電話は端末メーカーではなく、携帯電話サービスを運営する通信会社(以降、携帯電話会社)が販売していました。提供する電話サービスに対応する端末であり、パソコンのような汎用機器ではないからです。

彼らにしてみれば、ユーザーが快適に通話できるネットワークを提供することが何より優先する。だからユーザー数と基地局の整備状況、そして利用している携帯電話技術などを精査して、どのぐらいの帯域ならば問題なく利用できるか、そしてその帯域幅で楽しめる用途は何だろうか? そうしたことを考え抜いたうえで、新機能を追加してきました。

ここで商品設計を間違えればネットワークは混乱してしまいます。メーカーそれぞれの工夫で、端末ごとに違った機能を搭載するような無秩序な状態は、通信会社の思想からすればありえないことでした。

一方、パソコンを使ったネットワークを支えているのは“ベストエフォート(最善努力)”と呼ばれる考えで、言い換えれば“その場しのぎ”の発想です。パソコンでインターネットから画像や映像を読み込んだときに、全体がすぐに表示されず、不鮮明な画像が少しずつ見えてきたり、映像が途中で停止してまた動き出したり、といった振る舞いは、誰もが経験したことがあるでしょう。それは、その時に使える最大限の帯域を使いながらデータを送受信しているためで、道路が空いていればクルマをビュンビュン飛ばせるが、混雑していれば渋滞してしまうのと同じ。ユーザーは自由気ままに利用できるが、その代わりに不便も受け入れて我慢しなければなりません。ユーザーに制限をかけることこそがベストエフォート(最善努力)となる携帯電話のネットワークとは、発想、思想がまったく正反対なのです。

スマートフォンはパソコンの世界からやってきました。だから、メールやウェブサイトをはじめ各種機能のほとんどは、パソコンと同じように自由気ままにネットワーク帯域を使うことを前提にしています。それはもちろん便利なのですが、通信帯域を節約しようなどという考えはまるでありません。

その意味ではスマートフォンはとてもではないですが、“スマート(賢い)”とは言い難いところがあります。むしろ、限られたネットワーク帯域をスマートに分配して、効率よく使いこなしているのは携帯電話のほうだったと言えるでしょう。

このビジネスモデルは、携帯電話事業者にとっても端末メーカーにとってもリスクが低く、消費者はよりよい投資効率で提供される均質なサービスを受けられる理想的なもの……と自画自賛していたものの、当時から大きな欠陥がありました。

それは携帯電話事業者が強すぎること。彼らがすべてをコントロールするため、消費者ニーズを高めるためにしのぎを削り、価値創造する方向へとエネルギーが割かれず、ネットワーク投資・設計の秩序を保ちリスクを最小限にする方向へと寄り添っていたからです。

 

本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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