やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

物流にロボットアームを持ち込む不可解、オーバーテクノロジーへの警鐘


 と、タイトルは偉そうなものをつけたのですが、例のボストンダイナミクスが発表したというロボットアーム付き台車のデモンストレーション動画がTechCrunchに上がっていたので見物してみました。悪い意味で、びっくりしたのですが。

Boston Dynamicsが恐竜的2輪ロボットで倉庫業務をデモ

 動画を観てすぐにわかると思いますが、これは使い物にならないぐらいの効率しか実現できないのだろうなあという部分で、まず物流のような大規模な荷捌きにはもともと不向きなのは仕方がない部分です。ベルトコンベアと非接触タグ/QRコードのコンビの荷捌き効率は圧倒的ですからね。

 ユニクロを手掛けるファーストリテイリングとマテリアルハンドリング・物流設計大手のダイフクが組んで進めている事例はすでに幾つも報じられていますが、倉庫込みの物流はロジスティクスの中でも省力化と多機能化、大容量化の波がビシバシきている分野なので、ここから先に何をどうするべきなのかはまさに各社の腕の見せ所であるとも言えます。

ユニクロ、物流でダイフクと戦略提携 -- 「世界の物流倉庫を2、3年で自動化する!」

ユニクロ物流大混乱からのリベンジ、37歳幹部が語るほぼ無人化倉庫の全貌

 ユニクロの場合、13億枚ほどのアマウントで商品数も数千ですから、とにかく数量を求めたうえで、梱包や検品といった人手のもっともかかる部分の自動化はある程度の粒度なら自動化可能というのは良いと思います。まさにマテリアルハンドリング主流のサプライチェーンの肝で、ぶっちゃけ流れでより分けて機能別にロボット化するのであれば、ボストンダイナミクスのような「移動するロボットアーム」の出番はありません。

 ここへ、某GMSや某大手ECなど生鮮食料品もあり、預かり荷物も取扱店数も膨大というロジスティクスになっていくと、衣料品が中心のマテリアルハンドリングによるサプライチェーンとはまた違った着眼点でロジスティクスの設計をしなければなりません。そこでは、ユニクロのように国内十数拠点構えればOKというものではなく、ハブスポーク式で集めてきた荷物を再集配する子ノード、孫ノードも運用しなければなりませんから、どうしてもロジスティクスの省力化にも限度があります。

 そういう人でやるべき部分をロボットアームが代行してくれるのだ、と言われれば、まあ現場は嬉しい… わけですけど、ボストンダイナミクスの動画を観ているとアームを稼働させる半径は大きいし、上の棚までは結局別の姿勢制御付きモーターを用意しなければならないので、これなら従来型の台車にフォークがついたものをRFIDで運用したほうが圧倒的に安く済むだろうと思ってしまいます。動き回る仕組みのほうにカネをかけるよりは、動かなくて済む棚のほうに大集積と分類収納が可能な工夫をしたほうがよほど安上がりだということになります。

 で、中国ではロボット導入が物凄く増えているのですが、今度は棚すら遠くにおいてピット(穴。たぶん下にロール型ベルトコンベアがある)に段ボールで梱包された商品を台車付きロボットが落として配送するという謎過ぎるシステムが稼働していました。おい、ピットに段ボール落としたら凹むし輸送品質劣化するだろ。というのも、凹んだ段ボールをご想像いただければわかる通り、強度が下がって重ねて積みづらくなるのです。

かわいい? ディストピア? 中国の配送倉庫では大量のロボットが大活躍

 中華大手のJD.comはかなり先端のほうにいるのですが、やはり業者の物流に対する考え方や輸送品質のところまで行き届いているのかどうかでその企業の「本当の体力」が決まってくるように思います。

ついにネット通販物流の無人化が始まった! ロボット駆使した倉庫を中国EC大手JDが実現

ロボット開発の覇権、Googleにとって代わるのはソフトバンクか?

 逆に、そういうきちんとした問題意識をもって人工知能やロボットに取り組んでいるところの話を、このボストンダイナミクスはどこまで正面から向き合ってロボットを設計しているのか非常に疑問を感じる動画が出ていたのは残念でした。

 そりゃGoogleもボストンダイナミクス見捨てるわ、と言いたいわけではないのですが、民生用ととして産業的に価値のある展開をするためには、いまのロボットを使う発想ではなかなかむつかしかろうと思う次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.255 派手なロボットの不都合な現実に触れつつ、イチロー引退に思うことやソーシャルメディアの行く末を語る回
2019年3月29日発行号 目次
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【0. 序文】物流にロボットアームを持ち込む不可解、オーバーテクノロジーへの警鐘
【1. インシデント1】「イチロー引退」に見る『考えない野球』に対する判断のむつかしさ
【2. インシデント2】ソーシャルメディアの行く末を考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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