小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

JAXAで聞いた「衛星からのエッジコンピューティング」話

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年12月21日 Vol.202 <世紀の曲がり角号>より

久々に、JAXAの会見に行ってきた。ご存知の通り、西田はITが専門で、宇宙関連は余技。その昔、科学雑誌向けの仕事などもしていたのでJAXAへの取材経験はあるのだが、近年は、 年に1度、行くか行かないか……というところだ。

今回足を運んだのは、1月17日に打ち上げられる「革新的衛星技術実証1号機・RAPIS-1」の内容についての会見だ。実は、マイクロソフトがこの内容をHoloLensを使って解説するデモを作っており、その取材に行った……というのが正確なところである。

・JAXAでの会見後のフォトセッション。中央にあるのが、RAPIS-1の模型

 
・HoloLensを使った「革新的衛星技術実証1号機・RAPIS-1」の説明コンテンツ。動画はJAXAの報道ページから見られる。

http://www.jaxa.jp/press/kit/epsilon4_payload/index_j.html#materials
 
このプロジェクトは、公募により選定された部品・機器を軌道上で実証するもので、これから定期的に行われる。宇宙で必要となる様々な技術について低コストに実証実験を行い、そこで得られた成果を日本の競争力としていきたい、という狙いがある。今回はその第1号機となるが、第2号機についても、すでにプロジェクト選定が終わっている。それぞれとても興味深いものなので、詳しくはJAXAのページをご覧いただきたい。衛星そのものを、初めてベンチャー企業が開発している点も重要だ。

・JAXA 「革新的衛星技術実証1号機・RAPIS-1」に関する説明ページ
http://www.kenkai.jaxa.jp/kakushin/kakushin01.html

 
RAPIS-1には7つのコンポーネントが搭載されているのだが、そのうち1つが、このところ自分が取材しているテーマに合っていたので、特にご紹介したいと思う。

それは、東京工業大学の提案した「革新的地球センサ・スタートラッカー・DLAS」だ。

・「革新的地球センサ・スタートラッカー・DLAS」の概要

 
スタートラッカーとは、星の配置から自分の向きを把握し、姿勢制御を行うために必要な機器。ほぼすべての衛星に搭載されている。今回開発されたものの特徴は、「非常に安価である」ことと、「地球の状況把握にも使える」ことにある。

東京工業大学 理学院 物理学系の谷津陽一助教は、「今回使われているのは、ひとつ1000円程度のイメージセンサーを2つと、1GHz程度のプロセッサー」と内容を説明する。衛星用の機材としては非常に安価なもので、もちろん民生品だ。これを使い、星の位置と、地球の表面の地形を画像解析し、自分の位置を把握する。映像で得られた地形と学習結果を掛け合わせているわけだ。

画像認識、といえばもはやPCやスマホでは当たり前である。だが、衛星では条件が大きく異なる。なにより、クラウドの力が使えない。衛星との間で高速ネットワークを構築し続けるのは、技術的にもコスト的にも困難だ。また、大規模なプロセッサーを回せるほど電力に余裕があるわけでもない。

そこで、「色々試した結果、ローカルでディープラーニングで認識することにしました」と谷津助教は言う。高解像度の衛星写真を教師データとして学習し、その結果だけを衛星に搭載し、衛星側のプロセッサーで推論を行う。1GHz程度だが、「視界に入った地形の認識を4秒程度で行える」(谷津助教)というから、立派なものだ。

なにより、この手法の面白いところは、発展性が非常に大きい、ということだ。

認識はなにも、姿勢制御のためだけに行う必要はない。より高解像度のセンサーを搭載し、地球の状況を観察するのに使ってもいい。従来、そうした場合には「画像」を地上へと送り、地上側で解析を行っていた。そうすると、衛星から地上へと、容量の大きなデータ転送が発生する。衛星と地上で高速通信が行えるタイミングは限られており、結果的に、大容量データの転送には時間がかかり、あまり頻繁にも行えない。

だが、「衛星側で、ディープラーニングで画像解析をする」としたらどうだろう? 解析した結果だけを転送することも可能だ。例えば、森林の植生変化や大規模な台風などを見つけたら、そのシグナルと概要だけを「解析後の結果」として送る。解析結果は画像よりずっと小さな情報になる。少ない情報であれば、地上との高速ダウンリンクに頼らず、もっと頻繁に受信することができる。

「要は宇宙からのエッジコンピューティング」と谷津助教は話す。

これはなかなかのパワーワード。地上でも、エッジコンピューティングにより「センサー数」は膨大に増える、と想定されている。例えば、全コンビニチェーン店に50台ずつのカメラを置いて、入店時間と男女構成、コンビニ内での移動状況などをリアルタイム集計する……といった使い方が考えられている。これを「衛星」規模で行うことが可能になっていくわけだ。RAPIS-1に代表されるような、小箱程度の小規模な衛星を、低軌道に多数配置しよう、という計画は各所で進行している。そうしたものが「エッジ」として働き、異常を常におしえてくれる世界……というのは、なかなかワクワクする未来ではないだろうか。

先日、AWSのカンファレンスである「re:invent 2018」でも、AWSが衛星とのデータリンク事業に乗り出し、衛星からのデータを「クラウドを使う感覚」で手軽にビジネス利用する、というビジョンがしめされていた。DLASの話を聞いたとき、最初に思い出したのはその話だ。「衛星データ活用の民主化」を考えている人々は、それだけ多い、ということなのだろう。

こうしたコンセプトが、宇宙の利用の仕方のイメージを変えてくれることを期待したい。
 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年12月21日 Vol.202 <世紀の曲がり角号> 目次

01 論壇【小寺】
 上海で中国の光と影を見る
02 余談【西田】
 JAXAで聞いた「衛星からのエッジコンピューティング」話
03 対談【小寺】
 機材から語る、アダルトビデオの栄枯盛衰(4)
04 過去記事【小寺】
 波瀾万丈の家電業界、連載100回を振り返る
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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