やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

いまさらだが「川上量生さんはもう駄目なんじゃないか」という話



 何をいまさら? という場外乱闘が起きているのですが、漫画村など問題のある海賊版サイトのブロッキング問題についてかねてから騒動となっていた件について、政府も海賊版対策を話し合う知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース:第4回まで開催)でいろんな議論の積み直しをしております。

 当然、事業者の利益代表としてブロッキング推進に向け影響力を行使してきたカドカワの川上量生さんが議論の中で不思議な発言を連発、それが公的な場で行われているのでこの問題に詳しいメディアや法曹界の面々が相次いでツッコミを入れるという、かなり白熱した、というよりは見世物興行のような内容になってしまっているのが気になります。

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 それに飽き足らず、今度はTwitter上で川上量生さん本人とされるアカウントが新潟大学教授・情報法制研の鈴木正朝さんに論議を吹っ掛けるという展開にまで発展。控えめに言っても「この人は議論が通じないのだな」という内容になっており非常に興味深い展開になっております。それも「こういうことを書ける人がコンテンツ・出版業界の利益代表として政府の政策に意見をし、違憲判断も疑われるサイトアクセスのブロッキングを行うようロビーをかけ、途中まで上手くいって、NTTグループまで乗せたうえで梯子を外してしまうのだ」という点において。

kawango2525
鈴木正朝氏はJPNIC前村さんがこの前に持ち出したアンケート結果を嬉々として引用しているが、あんな怪しげな統計データを定量的な評価に用いるのは、学者の姿勢としてどうなのか、一度、伺いたいものだ。

鈴木正朝 @suzukimasatomo
これは大変申し訳ない。鉛筆なめた3000億円だか4000億円だか批判しておいて。

kawango2525
返信先: @suzukimasatomoさん
まさか楠正憲氏みたいな寝言を主張されるつもりでしょうか?著作権侵害の被害額算定として、アクセス数+コンテンツ価格は標準的な方法です。他に基準にできる方法がない。計算方法の性質からその数字をそのまま鵜呑みにはできないですが、客観的な指標としては適切なものです。

 かくいう私もTwitterで暴言を吐いたかどでアカウントを一時的に凍結されたので、面倒くさくてストレートに読みに行けない状況ではあるのですが、もともとは知財という点においては海賊版を封印するために粛々と国内・海外を問わず相手を突き止め訴訟を起こしていく動きというのが大事で、上記川上量生さんが「客観的な指標として適切なもの」という著作権被害3,000億が事実であるならばブロッキングよりも先にやるべきことがあるだろう、というのが一連の問題の大事な論点だと思うわけです。

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任天堂、海外の大手ROM配布サイトを訴訟へ 損害賠償請求額は100億円規模になる可能性も

 そして、一足先に「100億円規模」の損害を巡って、任天堂が単独で海外の大手ROM配布サイトを運営する法人と主宰する個人全員を相手に裁判を起こしておるわけです。これもまた、立派な海賊版サイトであり、権利者に未承諾でコンテンツを配布するというサイトに対して被害の弁済を申し立てるという、今回の漫画村ブロッキング議論と同等の問題を自前で救済する話になっています。本当に3,000億の被害が客観的に適切な計測のもとで主張できるとするならば、政府の対応など待たずに適切に調査をし現地で訴訟をすることで回復できる可能性は高かったであろうことを考えると、非常に切ないものがあります。

 その意味では、川上量生さんがそういう程度の人物であるということは今回よく承知されたので、それはそれで良かったのかもしれませんが、問題はカドカワの経営者であるというパワフルな立場でかなりとんでもないモノを言うこと、加えてそれを神輿に担いだり、弾除けにして業界に有利な裁定が下ればそれで良しと静観する「周りにいる、見咎めない大人たち」は気になるわけです。このインターネットの時代に「iモードの夢よ再び」と願ったかどうかは分かりませんが、変な置き土産をNTTグループに残していった前社長の鵜浦博夫さんといい、カドカワから仕事を貰っている関係性を明示せずにテレビなどのメディアや公的会議に参席してカドカワに都合のいいことをいう弁護士などの有識者といい、立ち回りに品がない、下衆いと思しき人物は多数蔓延っています。

 そして、問題は知財だけでなくインターネット全体の利用に関する壁、つまりは仮想通貨取引、オンラインカジノや越境ECなど、日本の法律では先方を黙らせることのできない問題事業を平気で海外でできてしまうという事案をどう解決するかにまで広がっていきます。だからこそ、各業界横断的に問題解決をできる座組を用意し、各業法ではなく通信事業法にきちんと盛り込み、新法も含めた追加の枠組みも考える、といったパワフルな方法を考えなければならないということにもなります。つまり、ブロッキングすることの是非ではなく、することは是としたうえで、どういう法的根拠に基づいてしっかりとした対応を組み、実効性のあるブロッキングをするのかという話に尽きます。

 だからこそ、有識者が将来を見据えてインターネットのあるべき姿を論じるべきところで、業界代表が「あの人は、もう駄目なんじゃないか」と社内からも言われている体たらくでは、本当に先が思いやられます。どうしてわが国には往々にしてこういう合理性のない変なのを祀り上げてしまうのでしょう。本当に、どうにかならないのかと思うわけですが。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.233 川上量生さんについて思うこと、仮想通貨界隈で反社マネーが跋扈する理由、ポストGDPR時代の個人情報のあり方などを考える回
2018年7月30日発行号 目次
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【0. 序文】いまさらだが「川上量生さんはもう駄目なんじゃないか」という話
【1. インシデント1】 『仮想通貨界隈』はなぜ反社マネーが跋扈するようになるのか?
【2. インシデント2】ポストGDPR時代の個人情報取り扱いの趨勢
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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