『メディアの現場』『高城未来研究所「Future Report」』特別号外より

津田大介×高城剛対談「アフター・インターネット」――ビットコイン、VR、EU、日本核武装はどうなるか?


昨年末、津田大介さんと高城剛さんに「アフター・インターネット」について語り合っていただきました。

仮想通貨は世界をどのように変えていくのか?
都市やコミュニティはどうなっていくのか?
日本の立ち位置はどのように変化していくのか?

などなど、さまざまなお話を伺うことができました。

4万字を超えるアツい対談の一部を、特別無料公開にてお届けします!

 

日本のIMAXのほとんどはニセモノ?

津田:今日はよろしくお願いします。高城さん、相変わらずお元気そうですね。
 
高城:おかげさまでね。体調がいいのは、「超健康」を目指して人体実験のようなこともやってるからね。遺伝子をフルシーケンスして、それにあう独自のサプリを作って飲んでるんだ。もうじき「高城剛2.0」って感じ。
 
津田:前回お会いしてから2年が経ちますが、高城さんは相変わらず世界中を回っていらっしゃるんですか?
 
高城:去年は年間で71カ国、延べで言えば100カ国以上に行った。今年は少しペースを落として、延べで60カ国くらい回ったかな。去年までは一つの都市に最大3日間しか滞在しなかったところを、今年は5日間くらいに伸ばしたんだ。大人になって、少しは落ち着きがみられるかな(笑)。

ところで今日は2017年12月11日だから、いよいよ4日後に『スターウォーズ/最後のジェダイ』の上映が始まるね。その日に合わせて、スターウォーズを観に大阪に行くつもりなんだ。
 
津田:どうしてわざわざ大阪で観るんですか?
 
高城:IMAXシアターで観たいからね。実はIMAX技術を本当に堪能できる映画館は、日本では唯一大阪にしかないんだよ。
 
津田:えっ、そうなんですか? 埼玉にある109シネマズ菖蒲のIMAXシアターには行ったことがあるんですけど。
 
高城:それはIMAXと謳ってはいるけど、大半は「ニセモノ」だね。IMAXシアターって実は2種類あって、本当に「IMAX」と呼べるのはスクリーンは、画角が1:1.44で、フィルムかレーザー4Kの上映だけなんだ。解像度が2K上映で、スクリーンが小さいものは、英語でいうと「ライマックス(lie max)」、つまり「嘘マックス」と言われている。

だから、日本では唯一IMAXシアターは、大阪エキスポシティの「IMAX次世代レーザー」だけなんだ。このIMAXスクリーンに合わせて作られた作品を通常の映画館で上映すると、映像の上下がカットされてしまう。これはスターウォーズの前作『フォースの覚醒』のときに一部で問題になっていたんだけど、全く別物に感じるほど、作品の印象も違ってしまうんだよ。

夏に大阪エキスポシティのIMAX上映していた『ダンケルク』を観たけど、あれはIMAXで観ないと意味がないね。普通の映画館でも観たんだけど、まったく別物だった。『ブレードランナー2049』はロンドンのIMAXシアターで観たんだけど、画角が26%増量で大きいんだ。普通の映画館で見てしまうと、上下カットされてて、なんか損した感じ。

IMAXは今後もっと流行っていくと思う。現存するコンテンツの王様だからね。いま、超高解像度コンテンツが世界中で不足している。12Kや16Kテレビの開発もはじまった。IMAXは、YouTubeの対極に位置している。スクリーンが巨大で完全に没入できるから、下手なVRよりも没入感があるね。

そして、ディズニーがついにカナダのIMAX社と契約していて、2019年からディズニー映画もIMAX上映を始める。今後制作予定の『インディ・ジョーンズ5』『トイストーリー4』『スターウォーズ・エピソード9』、これらは全てIMAXで上演すると発表したね。東京だと、2019年に本物のIMAXシアターが、池袋にオープン予定です。
 
津田:僕は昨年、『ザ・ウォーク』という、ワールドトレードセンターで綱渡りをする映画を3D上映で観たんですけど、IMAXではないにしても、3Dの良さをうまく使った作品になっていて、面白かったですね。
 
高城:その3Dは多分メガネをかけるタイプだよね。そういうメガネをかけるタイプの3Dは、世の中のトレンドから既に外れていると僕は思う。わずらわしいよね、メガネ。数年前にあれだけ騒いだ3Dテレビは、もう無いも同然になってる。VRも時間の問題。結局、映像ディバイスのトレンドは、有機ELだけが生き残った。しかも、事実上、韓国LGの独占だけど、もう少し有機ELの独走は続くだろうね。

今は映画を観る手段がいくつかあって、手軽に観たい人はNetflixのような配信サービスを使って家のテレビかスマホ上で観る。いまは、家庭用テレビも大型化して、映像技術も進んでいるから、そこそこの迫力で観ることができてしまうから、映画館にわざわざ足を運ぶ価値を高めるのは、よっぽどのこと。家庭用のサラウンドも、それなりに普及してるしね。

そうなると、スマホやテレビでは決して味わえないような体験がないと、人は映画館に足を運んでくれない。だから、IMAXのような超巨大スクリーンで得られる臨場感と没入感のためなら、映画館で観る価値が十分あるとハリウッドのメジャースタジオは、考えているわけです。米国を見ると、高解像度のコンテンツバブルが、始まってるね。
 
津田:最近だと音響に力を入れる映画館も増えていますよね。立川シネマシティではより出力の高いスピーカーを導入して「極上爆音上映」をやっています。ああいう取り組みも、スマホやテレビでは得られない体験を意識しているんでしょうね。
 
高城:あれはただ音量が大きいだけとも言えるけどね(笑)。劇場にしても、費用対効果が非常に高い。日本は、家が狭いから、大きな音が出せない欲求不満の解消とも言える。音響面でも、IMAXは12.1chの音響を採用していて、天井から音が鳴るんだ。人は上から音が聞こえてくることに慣れていないから、この音がすごく気になる。

Dolby atmosもそうだけど、時代はイマーシブというか、シーリング・サウンドだね。家庭では、天井にスピーカーを埋め込めないし、天高がないから。
 
津田:そうなるとIMAXの場合、映像や音響を総合的に楽しむには、どの辺の座席で観るのがオススメなんですか?
 
高城:やっぱり真ん中だね。エクゼクティブシートという座席が中央列にあって、通常より高めの3500円で販売されている。良い映画だと、このチケットが争奪戦になっていて、チケットを取るだけで一苦労なんだ。でも少なくとも一度は、苦労してでも、その席でIMAXならではの映画を観てみる価値はあると思うよ。別の体験がある。

 

スマートシティ化が進む中国

津田:僕は高城さんの言葉の中で、「人間の想像力は移動距離に比例する」という言葉が好きなんです。それで僕も、今年は以前に比べれば移動距離を増やしました。取材の関係で国内のいろいろな場所に行きましたし、海外にも5カ国くらいは行きました。

そうやって旅してみると、高城さんの言葉の意味が少しわかってきた気がするんです。というのも、様々な世界を知ることによって、物事を考えるときの比較対象が増えるじゃないですか。そうすることによって初めて見えてくるものがある。先ほどのIMAXシアターの話でも、僕はIMAXというものを「東京にあるIMAX」でしか考えられないけど、高城さんは「世界最大級のスクリーンで観るIMAX」との比較のなかで考えることができますよね。この差は大きいなと。
 
高城:実際の経験は、想像力を驚くほどに増幅させるからね。続いて大切なのは、その想像力を現実化させる力。ウォルト・ディズニーがいうところの、イマジニアリング。そして、いままでにはない手法のマネタイズ。このみっつの波が、ほぼ遅延なく押し寄せ、やがて大波になる。これが、あらゆるビジネスの基本だと思う。まずは、寄り道でもなんでもいいから、いつもと違う道を進んでみることからはじまるんだよね。
 
津田:それで、今年の9月に「日中ジャーナリスト交流会議」に出席するために中国の上海に行ってきたんですけど、日本に比べて上海はあまりにも先進的で驚きましたね。

上海ではウィチャットペイやアリペイを使ったキャッシュレス化が完成していました。キャッシュレスが当たり前になっていることは事前に知っていたんですけど、実際に行ってみるまでは、「本当に現金がなくて大丈夫なのか」と内心不安だったんですよ。でも、結局、上海に滞在中、財布を開けることは一度もなく、本当に全てウィチャットペイのQRコード決済で済んだんですよ。

店舗での買い物や交通機関の利用は当然として、たとえば街中に立っている物乞いの人も首から寄付用のQRコードを下げているので、ウィチャットペイでお布施をしたりできるんですね。また、「おじいちゃんと孫がウィチャットでつながって、お正月のお年玉をウィチャットペイで送る」という話を聞いたときには驚きましたね。

街中の移動には、モバイクのシェア自転車を使いました。日本ではまだまだ普及していませんが、上海では当然のように誰もが利用しています。使い勝手に関しても、日本でドコモが実施しているシェアサイクルとは比べものにならないくらい良いですね。

上海ではシェアサイクル以外はバイクもたくさん走ってるんですが、そのほとんどが電動バイクなんです。上海の夜の街をモバイクで借りた自転車で走っていると、その横を電動バイクが音もなく、すごいスピードで追い越していくからびっくりするんですよ。しかも電動バイクはナンバーさえ付けておけば誰でもノーヘル・免許なしで乗れる。ここまで電動バイクが普及しているのは知りませんでした。
 
高城:聞いた話や数字じゃなくて、行ってみるとわかることが、本当に多いよね。中国の電動バイクのほとんどは深セン周辺で作っているんだけど、深センでは電動バイクどころか海でも乗れる個人用電動モーターボートまである。少し離れて東莞まで行けば、湿地帯の名残で、水を使って高速移動できるんだ。深センへのアクセスも、香港国際空港から船が最短だしね。個人の移動が電動化すると、都市機能が格段にあがる、いわゆるスマートシティ化がどんどん進むんだよね。
 
津田:電動バイクの普及ぶりを見て、中国では近いうちに全ての自動車がEV自動車になると確信しましたね。それから、おそらくインドも2030年には全ての自動車がEV化する。
 
高城:行って見ると、そうやって実感できることが多いよね。しかも中国では自動車のパーツをアリババで売っているから、完成車を買えない所得の低い人たちでも、自分でパーツを買って組み立てた電気自動車に乗っているし、まるで、少し前のPCだね。

乗り物も、いよいよ自作の時代なんだけど、それは既得権がない国だけの話。日本は、自動車産業を守ったり、車検利権を守ったりするから、結果的にライフスタイルのイノベーションが起きない。都市機能もあがらずに、半端な商業施設ができるだけ。
 
津田:それこそ自作パソコンみたいな世界ですね……。中国ではモバイクが普及したおかげで、利用状況のデータから人の流れが把握できるようになり、渋滞解消につながっているらしいですね。交通量の多い経路とその時間帯を把握して、バスを増発するように時刻表を変えた結果、バスの利用者が増えたおかげで渋滞が解消された。車の量が減るからCO2の排出量も減り、パブリックヘルスも向上している。こういうのが本当の「スマートシティ」なんだろうなと。
 
高城:すでに人口 1000万人規模のスマートシティが、中国国内だけで30都市以上ある。むしろ、上海は多少遅れているくらいだね。スマートシティの計画自体は2008年くらいから既にあって、最もアイデアが進んでいるのは重慶、その次が深セン。中国は、今や先進的な国になったね。
 
津田:エネルギー資源に関しても、中国は再生可能エネルギー開発が中心になっていますよね。風力発電では既に全世界のトップ1のシェアを持っているメーカーは中国のゴールドウインドですし、2010年時点でシェアトップ10のうち4社が中国企業ですね。
 
高城:太陽光発電でもトップ10の半数以上は中国企業だね。一方、「一路一帯」という長期国家ビジョンのもと、中東やアフリカからの資源ルートの確保にも余念がない。東アフリカ、例えばエチオピアの首都アディスアベバに行くとわかるけど、公共事業の大半は中国企業。電気もないような地方に行っても、古い中国企業の名前が入ったTシャツを着ている人が多いので驚く。中国の世界進出の速度は、本当に早い。
 
津田:そのうえで中国は原発の開発も行っている。今年10月には「2030年までに国内で原発を100基稼働させる」という報道が出ましたけど、中国の原発事情に詳しい専門家に話を聞くと、中国が原発を作り続けているのは、核兵器開発が原発開発と密接に結びついていることの影響なんだそうです。

冷戦時代には、核兵器開発のために国内の優秀な技術者が投入されたんですけど、冷戦が終わって核開発の必要性が低くなった結果、技術者たちが余ってしまった。その技術者たちが腐らないように、代わりに原子力発電開発に携わるようになったと。元々自前で核兵器を開発できるほどの技術者が原発を作っているから、制御技術も優れているし、日本のように事故やトラブルが起きることも少ないらしいんです。
 
高城:日本は所詮、家電メーカーが原発を作っているわけだから、そもそも持っている技術レベルが違う。なにしろ、わかっているだけで、中国には240発の核弾頭がある。ウイグルで、広島原爆1000倍以上の地下核実験を散々やった。天山山脈を超えて、キルギス側にも影響が出てしまった。失敗も多いわけだから、ノウハウが根本的に違う。
 
津田:中国は音声認識技術でも世界一といっていいほど進んでいるんです。音声認識の精度を上げるための一番のポイントは、とにかく多くの人が喋った言葉を録音して読み込ませる――コーパスが重要なんですよ。そのために中国では、公務員試験の面接でのやりとりの録音をコーパスとして使っているらしいんですよね。

中国は人口の数が桁違いですから、膨大な量の音声データを集めることができる。それをコーパスとして読み込ませるから、音声認識の精度が非常に高い。日本だったら個人情報保護の問題で面接を録音するなんて絶対にできないでしょうから、どう考えても勝てるわけがないんですよ。

高城:成長が鈍化すると、足を引っ張るのは民主主義だからね。シンガポールをみれば、明らか。いまも独裁的で成長を続けている。もうずいぶん前に、中国は巨大なシンガポールになる、と言ったことがあるけど、このまま行けば、中国はさらに経済成長するだろうし、世界一のスマートネイションになるかもしれない。そうなれば、世界経済の中心も、金融の中心も、すべてではないにしろ、大きな一部分が中国に移る可能性もあるだろうね。

 

中国に遅れを取る日本

高城:中国に比べると、日本は気付けば随分と遅れてしまっている。みんなiPhoneは持っているのに、どうしてApple Payや各種電子マネーが普及していないのか、不思議でしょうがない。気がつかないうちに、若年層も保守化してるんだろうね。
 
津田:日本の電子マネーはガラパゴスなSuicaぐらいしか使われてないですよね。そのSuicaも公共交通機関以外にはなかなか普及しない。その理由は、SuicaにしろApple Payにしろ、決済専用の端末を設置しなければならないことなんですよ。

中国ではQRコードを読み取るだけでいいから電子決済がすぐに普及したんですけど、日本は端末型にしてしまったがためのボトルネックは非常に大きい。東京のタクシーもApple PayやSuicaに対応していますけど、観光都市である京都のタクシーでは使えないから、海外から来た人は不便でしょうね。
 
高城:よく、考えてみたら、僕も日本でApple Payを使っているのは「いきなりステーキ」を食べるときだけだ(笑)。フレッシュネスバーガーは、あらゆる電子決済が使えない。

でも、端末が普及してない問題もあると思うけど、やはり、多くの国民が変化を望んで無いんだと思うよ。この気分というか、あたらしい社会を作って行くという気骨のようなものが、ないように感じる。世代に限らずね。

成熟じゃなくて、停滞だと思うけど。日本は、個人消費の鈍化で景気が悪いと言われるけど、単純に国民の保守化が大きい。簡単に言えば、動かないし、変わろうとしない。これだけLCCが増えているのに、海外への出国数、過去20年横ばい。これが、失われた20年の本当の要因なんだと思う。隣の中国すら行かないし、真摯に見ようとしないからね。

津田:中国の空港にあるカートは、タブレット型のモニター端末が設置された「スマートカート」が当たり前になっていますよね。搭乗券をスキャンすれば搭乗口への道案内もしてくれるし、映画を見ながら移動することもできる。
 
高城:いまの「スマートカート」もよくできているが、もう次の全自動空港カートが、開発されつつある。自分でコンベアに荷物を取りにいかなくても、カート自体に積まれて自動で個別に運ばれる。シンガポールにできた新しいターミナルは、ほぼ無人だね。2020年がどうのとか言ってる間に、世界はどんどん進んで行く。
 
津田:日本は発展途上国に成り下がったんだなと最近思うことが増えましたね。日本の政治家は今の北京や上海を一度視察に行くべきだと思うんですけど、どうして行かないんでしょうね。
 
高城:日本の政治家が中国に行くと、必ずマスコミやネット上で散々叩かれてしまうからだろうね。中には叩かれない人もいるけど、そういう人は普段から「嫌中」であることを公言している人の場合だけなんだ。二階さんなんかが、典型的だね。親中派の人が中国に行けばボロボロに叩かれ、次の選挙に落ちてしまう。そうなることが分かっているから行かなくなるんだよ。今後は、米国の意向を汲んで、日本政府は突然「親中」に方向転換するんだけどね。つまり、日本は米国しか見てない。その米国が、ボロボロ。
 
津田:そんなことばかりやっている間に、中国に完全に遅れてしまっているんですけどね。しかもウィチャットペイやアリペイで使われているQRコードって、元々日本のデンソーが作った仕組みですからね。日本で生まれた優れた技術が、日本よりも先に中国のキャッシュレスサービスに使われてしまっている。
 
高城:iPodあたりで気が付いた人もいると思うけど、世界のセンスある人にあらゆる日本のものを「いいとこ取り」されてしまっている。だから、逆に世界のいいものを、「いいとこ取り」すればいいんだけど、動かない。オリンピックに標準をあわせるようじゃ、遅いんだ。特に地方。日本の場合は新しいシステムを社会に導入するときに既得権者からの反発が、あまりに大きい。
 
津田:本来的には、今の安倍政権のように安定した政権のうちに、既得権へのメスを入れないといけないんですけどね……。
 
高城:安倍政権は、基本的に既得権益の代弁者だから長期政権化が可能なわけで、新しいことに取り組んだ「フリ」ならできるけど、実際にはなかなかできないでしょう。自民党というより、清和会。だから、日本は米国のような極端な二極化社会に向かっている。

 

コンパクトシティ計画は失敗している

津田:スマートシティ以前の話ですが、高城さんはコンパクトシティ構想ってどう思いますか? 日本ではせいぜい、富山市が実践しているコンパクトシティ計画だけが成功モデルだと言われていますよね。
 
高城:どうだろう、富山市の例も、うまくはいかないと思うよ。ワインぐらいかな、もう少し伸びそうなのは。ほんの数年前まで、アメリカのポートランドはコンパクトシティの成功例として、「世界で一番の理想郷」とまで言われていたけれど、今は悲惨なことになっている。人口の1%がホームレス化していて、しかも驚いたことに10代のホームレスが圧倒的に多い。僕が「サードウェーブホームレス」と呼ぶほど、見たことがない普通の人たちがホームレスになっている。先進国にいながら10代でホームレスになる人が多いのは、長年アメリカを見てきた僕でも衝撃的だった。これが、十年後の日本の光景になるだろうね。

では、どうしてこんなことが起きたのか。ポートランドは、コンパクトシティの成功例として、アメリカ国内でも人気都市になったんだけど、その結果、他の都市から優秀な人材が次々に集まってきたんだよね。そうすると、本来はオフィスで働く普通の人たちが結果的に追い出されて、1つレベルを落としてスターバックスあたりで店員として働くようになる。そして本来スタバで働いていた人たちは、仕事がなくなってホームレス化してしまったんだ。

逆に言えば、ホームレス化している10代の人たちは、他の都市であれば普通にマクドナルドやスタバの店員として働けるような人たちばかりなんだ。彼らに問題があるわけではないのに、ホームレス化してしまう。これが、理想を目指したコンパクトシティの現実。とても理想郷とは言えない状況だよね。
 
津田:そう考えると、都市戦略としてはコンパクト化していくよりも、イスタンブールのようにひたすら都市の規模を拡大していくほうが正しいということでしょうか。
 
高城:そこが難しいところで、デトロイトは拡大を続けた結果、財政破綻してしまった。デトロイトは車社会をベースに設計した街だから、車がないとどこにも行けないのに、貧困層になると車が買えない。さらに市が財政破綻してしまったから、公共バスもまともに走っていない。完全に移動手段が絶たれてしまっているから、就職面接を受けに行くこともできないし、年金も受け取りに行くこともできない。

結局、都会のど真ん中で農耕を始めて、どうにか食い扶持をつないでいる状態だよ。デトロイトに限らず、「アーバン・ファーミング」は、今後のトレンドになるだろうね。
 
津田:デトロイトは随分前から荒廃していましたよね。ただ数年前から、若い人たちが車ではない、新しいビジネスを始めたと聞いてますけれど。
 
高城:シャイノラというベンチャー企業が高級時計ブランドを始めたよね。元々は自動車工場で働いていた人たちが、工場の閉鎖に伴って職を失い、新しい仕事として高級時計に目をつけた。このブランドは一時的には成功して、オバマ前大統領も腕にはめていたね。今年から、日本にも正規品が入ってきた。

でもデトロイト全体で見ると、シャイノラのような例はごく一部で、相変わらず荒廃が進んでいる。ダウンタウンの一部は財政再建のために一度イギリス金融機関のバークレイズ・キャピタルに売却されたんだけど、結局、ウォール街に売ると目立つので一度クッションを入れただけの話で、金融業界だけがデトロイトを食い物にして儲かった。デトロイト市が再建する気配はないし、今後どうなるか、ちょっと想像がつかない。

このままだと日本も同じように、財政破綻して立ち直れなくなる自治体が増えていくと思う。千葉県の富津市のように、破綻もしくは寸前な自治体も急増するだろうね。これは、90年代からわかってたことだけど、見ぬふりしてきた結果で、いま、急速に手当てしても、結果が出るのは30年後だから。その地域に、石の上にも30年踏ん張れる人がいるかどうかで、未来は別れる。

 

世界の都市モデルの崩壊

津田:世界各国で都市モデルの崩壊が進んでいるということでしょうか。
 
高城:簡単に言えば、10年前とルールが変わったということだね。たとえば、カナダのバンクーバーなどは、まったく別の街になった。西海岸にはカナダ人はもうほとんど住んでいなくて、中国人とインド人ばかりなんだ。
 
津田:これまでは中国人が大量に押し寄せているという話をよく聞きましたけど、今はインド人も進出しているんですね。
 
高城:今から10年前には、中国人がこれほど世界中に増えていくなんて考えられなかったよね。それと同じことが、今度はインド人で起こるんだ。

今後10年の間に、インドでは中間層がものすごく増えていく。彼らは観光に行きたいし、京都は世界中の人たちが行ってみたいと思う街だから、パニックになるよ。大量にインド人が押し寄せ、皆こう言いはじめる。……

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<著者プロフィール>

津田大介(つだ・だいすけ)

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授。大阪経済大学情報社会学部客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ニュース・スーパーバイザー。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)、『「ポスト真実」の時代』(祥伝社)ほか。
公式サイトhttp://tsuda.ru/
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高城剛(たかしろ・つよし)

作家・映像作家・DJ。1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)、近著に『不老超寿』(講談社)、『多動日記(一)「健康と平和」:-欧州編-』(電子版 未来文庫)などがある。
公式サイトhttp://takashiro.com/index.html
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