高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

季節の変わり目と心身のリセット

高城未来研究所【Future Report】Vol.677(6月7日)より

今週は、バルセロナにいます。

この街には、「5月40日から夏になる」という古くからの言い伝えがあります。
これはスペイン語の「Hasta el cuarenta de mayo no te quites el sayo」という格言に由来しており、直訳すると「5月40日までは上着を脱がないでください」という意味になります。
つまり、「6月10日まではまだ寒い日があるかもしれないので、油断せずに暖かい服を着ておくべきだ」という、季節の変わり目に風邪などをひかないよう注意を促す、古き良き教えがいまも伝えられているのです。

確かに今週のバルセロナの気候は、完全な夏というより季節の移り変わりの時期という言葉がふさわしく、日々、太陽光も強く20度前後と過ごしやすいのですが、夜になると突然肌寒くなり、日中は上着の必要がなくても朝晩Tシャツだけでは寒さ募ります。
しかし、そのような事情を知らない観光客は、夕方の寒空に目抜き通りを軽装で闊歩しており、一方、地元の人たちは決まって上着を手に持ったり羽織ったりする人たちばかりですので、面白いようにローカルかどうか服装でわかります。
ちなみに、つい先日まで滞在していたラスベガスの気温は日中42度を超えていましたので、この気温差は時差ボケ以上に堪えています・・・。

先日の読者感謝祭でもお伝えしましたように、人はサイクルの中で生きていると言うよりも、サイクルに縛られて生きていると行った方が正確かもしれません。

毎年訪れる季節もそうですが、人間の体には1日のリズム(概日リズム)、月のリズム、ホルモンのリズムなど様々な生物学的リズムが存在し、これらのリズムは、食事や運動、ホルモンの分泌など、私たちの生理機能に大きな影響を与えています。

中でも重要なのが、概日リズム(サーカディアンリズム)です。
地球上のほとんどの生物は、24時間周期の明暗サイクルに適応しながら進化してきました。
光は目から入り、脳を介して体内時計をリセットし、リズムが狂わないように調整して健康状態を保っています。
概日リズムが乱れると、心身の不調につながり、例えばシフトワークや時差ボケによる体内時計の乱れは、肥満やがん、うつ病のリスクを高め、夜型の生活習慣は、精神疾患、糖尿病、心血管疾患との関連が指摘されています。

今週のように季節の変化も見逃せません。
季節によって日照時間や気温が変化することで人間の体は大きな影響を受け、冬の間は、体を温めるためにエネルギー消費量が増加しますが、逆に夏は暑さのストレスによって食欲が減退することがあり、こうした季節変動はホルモンバランスや代謝にも意識せずとも大きな影響を及ぼします。

また、月のリズムと聞くと、どこか神秘的な印象を持つ方も多いかもしれませんが、月の満ち欠けが生物の行動や生理機能に影響を与えることは、科学的にも証明されています。
特に、女性の月経周期と月のサイクルの関係は興味深いテーマで、排卵日が満月の頃に集中することや、月経痛の程度が月の満ち欠けによって変化することが報告されており、僕が今まで何十人と見て着床率100%に至った不妊治療も、まず第一に人間らしいリズムを取り戻すことから始めています。

さらに、ホルモンのリズムも心身の状態を大きく左右します。
コルチゾールは朝高く夜低いリズムを刻み、成長ホルモンは夜間に分泌のピークを迎え、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンは、月経周期に合わせて変動します。
このようなホルモンのリズムが乱れると、ストレス耐性の低下や免疫力の低下、不眠など、様々な不調につながるのです。

こうした生物学的リズムは、互いに影響し合いながら社会の巧妙なネットワークを形成しており、いわゆる人間関係の不和も各人のリズムが狂ってしまってコミュニケーションが取れなくなる場合がほとんどです。

つまり、意識しようがしまいが人間は文字通り「サイクルやリズムに縛られた存在」なのは間違いありません。
それゆえ、各人も社会も健康で充実した日々を送るためには、これらのサイクルやリズムを理解し、できる限り自然に沿った生活を心がけることが大切です。
そのためには、どこの国にいても同じ時間に起き、朝日を浴びて体内時計をリセットし、夜に作られたメラトニンを抑制してセロトニンを促進してビタミンDの合成をはじめることを心がける必要があるはずです。
それゆえ、例えどんなに眠くとも、バルセロナ滞在時には自分をリセットするために朝5時半に誰もいないランブラス通りを歩くようにしています。

今年も暑い夏がやってきます!
どうか、その前に衣服に限らず心身のリセットを。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.677 6月7日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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